鋼鉄血戦②
レッドの気配が変化した。
「楽しく、だと。笑わせてくれる。こんな街に閉じ込められておいて、俺たちがどうやって楽しめると言う!」
戦利は、感情の蓋が解放されたかのように、壊れたオルゴールのように意味も無く喚き散らし始めた。赤ん坊のように、感情のまま声を上げる。
「おかしいじゃないか! 十年前、勝っていたのは鬼形児の方だ! 負けていたのは人間どもだ! なぜ俺たちが奴らの都合に合わせなければいけない! なぜ人間どもの決まりに縛られ続ける! ふざけるな! 俺たちは自由なはずだ! 強いのは俺たちだ! 優れているのは俺たちだ! 正しいのは、俺たちだ!」
惨めにがなり立てて、整合性も体裁も取れていないが、言いたいことは分からなくも無いし、その想いの熱も充分伝わってくる、非常にらしい言葉だ。
「…………………」
だが、それだけのものだ。それ以外は空虚でしかない。結局一方的な自分たちの都合だけでものを言っているに過ぎない。そんな意味も無い叫びには、やはり意思なんてあるはずが無い。鋭利は内容には何も感じなかった。
その代わり鋭利は些細な気持ち悪さを、戦利の怒りを叫ぶという行為に覚えていた。
自らの環境に不満を持ち、それを口にして誰かに当たるなんて、まるで普通の子どものようではないか。少なくとも洗脳されたままの〈主人公〉では有り得ないことだ。
「レッド。オマエ、何があった」
違和感は徐々に肥大化し、ついに言葉にして問わせる。この不協和の根幹には、何か嫌なものが待ち構えてる気がする。それは例えるなら、悪意。
「理由など些細なものだ。ただ俺は教えてもらった、救ってもらったのだ。この殺し合いの地獄から。俺は、あの方のために命を尽くす」
そう言い切った戦利の瞳には迷いも歪みも見取ることは出来なかった。あるのは異常に熟された視線。それが何よりも不気味で、鋭利の居心地を悪くさせる。
「俺は人間どもへの復讐と鬼形児の未来のため。あの方はこの国と世界を変えるため。起こすは十年前の再現。いや、続きだ! 俺は〈七大罪〉の悲願を達成させる! 誰にも邪魔はさせない!」
拳を強く握り、熱く語る戦利。彼は高ぶった感情を堪えきれないように幾度か頷いて、涙ぐんだりしている。そんな熱き夢を語る若者を見て、『鉄』の名を持つ女は、
「………………うっわあー……………………………………」
スゴく、引いていた。ドン引きだ。
単純で素直な銀架は心の琴線に大当たりしたようで感極まっていたが、この戦いの結果次第で自分の命運が決まるのだということを、よもや忘れてないだろうな。
鋭利は冷めた目で赤い『No・1』を見る。彼の熱弁、熱狂でもいいが、その姿にあるものが重なっていた。思考と行動を制限され、自由も幸せも知らず、それら制限をされているということにさえも気づいていない、哀れな実験動物の姿が。
それは十年前、研究所に閉じ込められていた自分たちと同じ姿ではないか。
詐欺に逢っている者は逆に澄んだ目をしているものだ。彼らは自分で選択したと心から信じているからだ。その選択肢自体が間違っていたことも知らずに。
哀れ。まさにその一言に尽きる。騙される方法、利用される対象が変わっただけなのに。まだ何も救われてない、変わってないというのに。
「さあ、『シルバーレイ』よ。我らの未来のため、こちらに来るのだ」
ふらふらと歩いていこうとした銀架の頭をチョップして、止め、
「大層な夢を掲げるのは構わないが〈主人公〉の力ならこいつ一人いなくてもそう変わらんだろ? だから銀架は返さない。ちなみにオレも非参加で頼む」
「俺と戦うつもりか? 無謀なことを」
ふっ、と目の前から突如、レッドが残像さえ残さずに消え、
「っきゃ!」
後ろからの銀架の悲鳴。慌てて振り返ると、銀架が後ろに現れた戦利に首を掴まれ、吊り下げられていた。右腕の中で銀架が苦しそうな声を上げている。
「遅い。あまりに遅いな、ブラックよ。以前の俺と同じと考えていては、気付かぬ間に死ぬことになるぞ」
鋭利は、内心驚愕していたが、それを気取られないようクールを演じつつ、
「……『灰眼』で捉えられない速度。第二段階も使わずに人のままで音を超える、か。こりゃ確かに、ただの獣化系と思ってたら負けちまいそうだな」
だけど、と頭の中にあった疑念を形にする。答えは確信に近い。
「大分おかしいことに足を突っ込んでるな、レッド。第二段階でも音を超えられなかったオマエに、そんな芸当できるわけがない。オマエ、何をしている?」
「この! 離せ!」
戦利の腕の中で銀架が暴れ、銀光を発射する。光量が少ないため威力はそれ程強くないが、その近距離なら不意打ちとして充分だ。
「ふん、遅い」
しかし戦利は一瞬で掻き消え、超高速で鋭利の背後に回り込んでいた。
銀架の光撃が何もない空間を薙ぎ、地面に当たって拡散していく。
「ふはは。これが、左腕を代償に俺が手にした力だ。あの方より授けれた強さだ!」
喜色に溢れ、胸を張る戦利。そんなに与えられた力のことが誇らしいのだろうか。
「全ては、その『あの方』のお陰ってことね」
左腕と強大な力とのどこに因果が生じるのかは知らないが、とりあえず思うのは、
「……気に食わねぇなぁ、その『お方』。人のあれこれを弄繰り回して、それで自分は傷つかない所で高みの見物ってか。はっ、殴り殺したくなる」
「貴様、あのお方の愚弄は許さんぞ!」
と、近い内にそいつに利用され尽くすであろう哀れな信者が憤る。
「そんなに怒るべきことかねぇ。性根の腐った古狸のために無駄死にして、なにが嬉しいんだか。『あのお方』がどんなんか知らんが、どーせ頭のイカレたクソジ、」
「きぃさぁまぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!」
戦利が突っ込んできた。
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