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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
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冷水効果①


 銀架は戦慄していた。

 鋭利の体内から、魔法というか、悪夢の如く次々と金属物が躍り出てくる様を銀架は、惚けながら見ていた。近くで目撃するとさらに、精神的にクるものがあった。

 これは中々、というよりも結構、ていうか大分、いや、かなりエグい……!

 ここは浅部第三十地区にある地下駅の一つ。意外なことに電灯の多くが生きたままで、視界に困ることはなかった。ここを一時避難所として選んだ鋭利は通路の真ん中に座り込み、こっちの反応を面白がりながら、熱心に武器造りに勤しんでいた。

 鋭利は腕の傷口から、拳大のトゲトゲ鉄球が鎖で繋がった杖を産出してみせて、銀架が首を横に振るのと共に、残念そうにこれまでの不合格の山の頂上に放り投げる。

「もー、全然決まんないなー。これもダメなの? どれも自信作なんだけど。う~、銃も刀も鈍器も駄目と来たらー。そうだなぁ、次はー、」

 座っている鋭利は、こちらの飛びっきり嫌そうな顔がよく見えているはずなのに、全然見えない振りをして再び自分の世界に入ってしまう。銀架自身は武器なんか要らないと拒否してるのだが、鋭利の使命感なのか、趣味なのか、お節介なのか。とにかく無理やりに武器を持たせようとしてくる。

 元はと言えば自分の未熟さが原因なのだが、銀架はそれでも武器を持つことにどこか躊躇いがあった。今まで銀光の砲撃のみで生き抜いてきた自分が、何かを装備した程度で変わるのかという疑惑もある。

「これでどうだ! その名も『漆黒の六法全書ブラック・ハードカバー』!」

 手渡された累計五十二個目の武器、ただの黒い物体にしか見えない箱状の鈍器を迷う素振りもなく投げ返して、銀架はとうとう切り出す。

「私、武器は要りません! それより戦い方を教えてくだちゃい!」

 あ、噛んじゃった。

「戦い方?」と鋭利は黒い箱を拾い、頭を捻って、「とは言ってもオレのは能力と経験とよるものだからなー。他人に教えたことないし、オレみたいな戦い方できないでしょ? ダメージを恐れず突っ込め、とか」

「確かに、できませんけど」

「つまりそゆこと。オレじゃオマエに何も教えられない。んー、でも純粋に強くなりたいんなら、そうだな、能力の強化。段階上げすることかなー」

 あれ? この人は私の話を聞いていなかったのだろうか。飽きずに五十三個目を造ろうとしている鋭利を邪魔するように、聞き返す。

「段階上げ。第二段階ってことですか?」

「そ。銀架ぐらいの歳になればそろそろだと思うけど、何か感覚ある?」

「いや、自覚と言われても、」

 続きを言うのには、覚悟が必要だった。

「……今、使ってるのがそれなんですけど」

「え。第二次性長期、来てたの……?」

 鋭利が手元を狂わせ、作成に失敗する。

 ほら、だから言いたくなかったのだ。この反応が予想出来たから。

「……もういいんです。成長期なんて、嘘なんです。都市伝説なんです……」

「あの、そんな気を落とすことは。能力だけ早熟な鬼形児だっている、いるよ!」

「ふっ。そんな勝者からの励ましなんていらない。どうせ私は、一生このまま……!」

 怒りの感情に反応して銀光が噴出し、銀架の髪を銀に染める。ここに攻撃の意志が加われば自分のヒーロー名の由来になった銀の光線がすぐにでも放たれることだろう。

 目に見て分かる一触即発の銀架に、鋭利は容易に触れられない。

「え、えーと、ぶ、武器造ろう! 銀架専用の! 大丈夫、これは絶対気に入る!」

 じゃあやれ、と全身は銀色に輝いているのに、暗く沈んでいる瞳で命令する。

「お、おう。じゃあ、まずはそのために。オレにオマエの体液をくれ」

 本気でぶっ放した。

 鋭利と一緒に、空中に吹っ飛んでいく数々の武器たちが、その時だけ、なぜだろう。とても愛しく感じた。



「まさかこんなことで、マイレフトアームを完全に壊されてしまうとは……」

 沈痛な表情で鋭利は義腕を、右手一本で修理している。銀架はその間、飛んでいった武器の回収を請け負っていた。希少な金属を使っていた武器もあったそうで、加えて左腕を造り直せるだけの金属が体内から足りなくなってしまったそうなのだ。造り過ぎだったのだ、やはり。

「それで、本当の方法はどうやるんですか。あ、二十五個目発見」

 刃がぽっきり折れている銃剣を投げつけながら訊ねる。

「ありがと。本当って言われても、あれがホントの方法だって。おっとっと、瓦礫を投げつけないの。危ないじゃん」

 言って、裏拳で飛んできたコンクリを砕く鋭利。座ったまま動こうともしない。あの暴力だけは経験では身に付けられない気がする。

「くっ! 相変わらず純粋にバケモノですね………! 私の体液って。それで何をするつもりなんですか。いや、やっぱり良いです。どうせ下劣なことにしか使わないのでしょうから。初めからそれが狙いだったのですね。ああ、悲劇な私!」

「……オマエって潔癖過ぎるきらいがあるよな。あとよく暴走するし」

 いえいえそれほどでも。あとそれと暴走は趣味です。

 とにかく、と盛り上がって我が身を抱いてクネクネしている銀架のダンスを打ち切るように、鋭利は語を強めて、

「別に唾液でも尿でも良かったんだが。オーソドックスに、血って言っといた方が良かったな。オレの異能の法則、ずっと見てたんだからもう理解してる、よなあ?」

「いーえっ。すごく便利なことぐらいしか」

「それで十分だよ、もう………」

 歪み切ったパーツを口内に送り、飲み下しながら鋭利は気を取り直して、

「大まかに言うと、食べた金属のアイテムを血液で再現出来るわけ。それは消化の時に、全体の形状や分子配列を感覚的に覚えているからなんだけど」

「分子配列を覚える? そんなミクロで超器用な真似があの大胆でキワモノな食事法の裏で起きていたと? ふっ、随分と分かりやすい嘘ですね。そんな繊細が似合う人ですか、鋭利さんは! 身の程を知れ!」

「銀架よー、段々とオレもムカついて来たぞー?」

 慌てて跳び退り、鋭利から距離を置く。瓦礫のように頭を砕かれては堪らない。

「まあ、それでな。『配列の記憶』を鍛えていくうちに、色んな配列を味覚的に判別出来るようになって。そうして辿り着いたのが、人の『味』だったわけだ」

「人の『あじ』、ですか?」

 訝しげに鸚鵡返しをする銀架。散らばった武器を拾い集める作業を中断して、新たに見つかった四つの武器を抱えながら鋭利の元に戻っていく。

 鋭利の手元を見た。右の掌に傷口を作って細かいパーツを産み落としていき、ある程度揃ったら一旦流血を止め、片手で組み立てていく。鋭利はそれを繰り返す。

 製作中の義腕は断面図を見てもさっぱり仕組みが読み取れない。上に重ねていっているだけなのに、どうして逆さまにしても落ちないのだろうか。こんな片手間、文字通り片手そのものでも、ミリ単位のブレさえ見られない。ここまで来ると機械義肢や義眼のみあらず、この人そのものが精密機械のように思えてくる。

「腕、武器とかみたいにババーッ、って造れないんですか」

「そうしたいもんだけどねー、こればかりは流石に。『味』の話、続けるぞ?」

 無言で頷く。

「人の体内にも金属はあるな? 赤血球に鉄分、組織液にナトリウム、骨にはカルシウム、筋肉にはマグネシウム。他にも色々あるが、人の細胞に金属が使われているのは確かで、そして細胞はその人によって違う。つまり『味』があるわけだ。となれば『鉄処女』の出番だ。オレが人の血を口にすれば、その『味』を参考にそいつの身体に合った、最良の道具を造ることができる。そいつの肉体を金属で再現してやってな」

 何ということもなしに人も造れるとのたまう鋭利という名の化け物。このような存在の事実に絶句しながら銀架は、

「……はぁー…………?」

 精神内で激しく暴走していた。

 ぎゃー! 本物でバケモノだ! 底無しにショックを受けたぁーマジで! こえー同じ生物とは思えねー! その内人間を食べるつもりですよこの人! 助けてぇ!

 しかし逃げ場はなく、とりあえず上に逃げる。

「ふう。空って、青くて広いですねぇ」

「現実逃避は止めなさい。それは天井だ。さあ、現実に戻ってさっさと血でも何でも提出しな。速けりゃ三時間で完成するから」

 右手に犬歯を立てて、傷を作って再び材料生産に入る鋭利。義腕はあとちょっとで稼働可能レベルまでに仕上がるらしい。大破してからまだ三十分しか経っていない。ほえー、とまさに驚嘆の一言である。見る目が変わったとも言う。

「……もう凄まじいほどに万能ですね」

 今まで知ってきた中でも、極めて恐ろしく感じる。敵じゃなくて良かった。

「……姉さん」

 ふと洩らした呟きは、鋭利の底知れぬ実力の一端に触れたことと、無関係ではない。

 自分が無力だと感じるのと、頼れる庇護者が隣にいてくれる安心感。死んだ姉さんのことを思い出す。弱く、何の力も持っていなかった自分を、家族と呼んでくれた、誰よりも強く、誰よりも優しかった姉を。いつも微笑みかけてくれていたあの人を。

 銀架は姉が死んだ直前のことを覚えていない。気が付いたら自分の腕の中に、胸に穴の開いた血まみれの、死に掛けの姉がいて、そのまま逝ってしまったのだ。

 私が殺したんだ。なぜだか分からないが、胸に起こるそんな罪悪感で涙を零しながら、幸せそうに微笑む姉を見送ったのを、今でも夢に見る。

 結局、あの時から自分は何も成長できていないのだろう。

「……ああ、懐かしいな」

 今の自分を見て、姉さんは、あの時のように笑ってくれるだろうか。


           Fe


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