表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
15/61

蒼炎高炉③


 銀架の先案内で歩いていったのは、隣の地区の第六地区だった。この地区は確か、知り合い、というか元仲間が統治してた場所だったような。

「変なとこで運命感じるねい。『水銀』元気にやってるかなー?」

 ん? とこちらの独り言に振り返る銀の少女。何でもない、と手を振る。

 銀架の足は賑やかな通りから寂しい方へ寂しい方へと、道を行く。段々と足元の道も整地されてない、砂利と雑草だらけに。墓参りと言ってたからには、行く先は墓所だろうか。周囲の寂びれた情景はすでにそういう雰囲気を醸し出している。

 あのさ、とトボトボと歩く背中に話しかけようとして、それが銀架に遮られた。

「ここら辺、私の出身地区だったんですよ。孤児院だったんですけど」

「あ、そうなんだ。ずっと〈主人公〉だったのかと」

「あの組織は二年前からです。姉が死んで、一人で生活してたら〈主人公〉に捕まって、ヒーローになったんです」

「相変わらず乱暴な勧誘方法なこと。それで、二年間ヒーロー、か」

「はい。他に生きていく方法も、生きようという気力もありませんでしたから……。他人に従ってれば良いというのは気楽でした」

 でも、とうらびれた廃墟たちを見て、寂しそうに。

「でも、〈主人公〉に入れられてから、ここに来れてなかったので……。このカビと苔が混じったような空気、懐かしい匂いです」

「うーん? 良い匂い、なのかな? 腐敗臭がない分マシか」

 しかし、ここにはさっき言ったような、枯れた匂いしかしない。

 人や動物どころか、好き勝手に繁殖する木々の気配すら感じられない。虫や雑草はあるようだが、逆にそういうのが揃ってながらどうして他の生物がいないか謎だ。

 それほど隔絶された場所とは思えないが、何だろうここは。

「ここって、他に人は住んでないの? 通りの方はいっぱい居たけど」

「人、ですか? いえ、少なかったですけど、何人か住んでる人いましたよ。確かにここまで誰も見ませんでしたね。皆さん、住処を移したんでしょうか?」

「引っ越すのは分かるけど、人っ子一人もいないとなるとどうも不気味だな……。ここ一帯が死んでるみたいだ」

 ああ、と納得する。鋭利は思い出した。

 この匂いは、死の匂いだった。

「? どうしたんですか?」

「いや、何でも。お姉さんのお墓はどの辺りだい?」

「もうちょっとです。ここの奥に丘があって、ああ、あそこです」

 言われ、銀架が指差した先に視線を伸ばす。密集した住宅街の中に、ふと小さなスペースが生まれた。スペースの中心には、赤土の剥けたちょっとした丘があった。

 そして高さ五メートルほどのその頂上には、一個の石柱が刺さっていた。

「あれか。目立つところに作ったのな」

「あそこは、姉さんのお気に入りの場所だったのです。あれ? お花が」

 背伸びしている銀架が、墓前に置いてある枯れた花を見つけて、言う。

「白い花。誰か来たんでしょうか。でも、誰が?」

「世話してる人がいるのかもね。苔も生してないようだし」

「そうですか。もしそうだったなら、安心して出て行けますね」

 挨拶してきます、と銀架が駆け足で丘を登っていく。

 白いモノリスの前に着いた銀架は、両手を合わせてお祈りする。

 銀架が、目を瞑ったのだろう、少し俯いたと同時に、鋭利は慌てて叫んだ。

「……ッ! 避けろ……ッ!」

 声が届いたのか見る前に、鋭利は重い衝撃に襲われ、横に吹っ飛ばされた。

 飛ばされた鋭利は、突進を仕掛けてきたソレに巻き込まれたまま、コンクリの壁に叩きつけられる。壁との間に押し潰され、グウゥ、と肺から息が漏れた。

 白いインパクトから視界が回復する。目の前に襲撃者の黄色い巨体があった。

「ぬふふう。見つけたぁ、捕まえたぞぉお」

 眼前にある口が、生温かく、生臭い息を吐き出す。

「……ッ、く、くふゥ」

 なおも力を加えてくるので変な声が出た。

 一部の間もなく挟まれてしまったので腕は動かせない。打撃を加えようにも不可能だ。しかも敵の巨体は妙に硬く、刃物が効くかさえも疑わしい。

 このままでは押し潰されてしまう。はあ、困った。困ったなあ。

「っとぉ、その手は食わないぞぉお」

 黄色い巨体が思い出したように鋭利から離れた。そしてそいつは大きくバックステップして、後ろにいた同じ格好をしている三人と合流する。

 四人になった全身タイツ、〈主人公〉はこちらに警戒の意思を向けた。

「ニヒ。よーくお気づきで。至近発破は嫌よなあ」

 パラ、と鋭利は義腕である左手を開き、四個の弾薬をそこから覗かせる。それらを、出した時と同じように掌に開いた射出口に戻して、左手を下ろした。

「鋭利さん、大丈夫ですか」

 上に跳躍して回避してたのか、銀架がこちらの後ろに降り立つ。その髪はしなやかに広がり、銀色に輝いている。あの一瞬で能力を発動するとは、大した反射神経だ。

「ダメージはあんまない。いきなりだったから驚いたけどね。銀架はっと、無事避けれたようで幸いだ。っで、」

 鋭利は待ち伏せしてたのか、今まで付けていたか知れぬ無礼者どもを胡乱気に見て、その格好を一人一人確認しながら、

「ヒーローが浅部に出てこれるんだったら、先言えよ……」

 と、うんざりした顔でどこかにいる誰かに向けて、恨み言を呟いた。


            Fe

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ