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鉄処女のリゾンデートル  作者: 林原めがね
12/61

精製作業②


 前方にその姿が見えた時、そいつはすでに後ろにいた。

 彼はあるチームのリーダーだ。そのチームは定住地を持たない。ただ、死闘と暴走が蔓延る深淵部に存在しているということだけは知られている。彼らのチームに決まった名前は無いが、そのリーダーの名前に因んで〈(ぬえ)〉と呼ばれていた。

「……相変わらずだな『No・1』。後ろに現れるのはやめろと言ったはずだ」

「苦言か? 会って早々そんな嫌な顔をするな。『獣王』、貴様に用がある」

『獣王』とは彼が好んで使う異名だ。『獣王』は後ろに舌打ちをぶつける。

「率直なのは好ましい。だが、自分の要求が通らない可能性を微塵も疑ってないのは気に食わない。〈金虎〉の走狗の頼みなど、誰が聞いてやるものか」

「何を言っているか分からんな。俺はな、交渉とかは苦手なんだ。意に背いたと思ったらすぐ切り離す。それはあんたも分かっているだろ?」

 舌打ちをもう一度。これ以上は『No・1』の気分を損なう。

〈鵺〉が色んな組織と関わりながらこの深淵部で生き残っていられるのも、メンバーそれぞれの能力の高さもそうだが、彼の交渉術あってのものだ。そんな『獣王』が話し合いとは言えこうして不利な方へと押されているのは、一重に『No・1』の性格がゆえだ。

〈主人公〉のトップに立つこの男には、交渉をする気など初めから無い。

「だから、『巨狩人(ヘラクレス)』を手伝わせてやっているのだろう。あいつは充分役に立っているはずだ。〈主人公〉を率いておいて、今さら何の助力を欲しがる」

「分かってないな。俺は、力を振るうことしか能のない奴は求めていない。俺が最初から欲しがっているのはお前の知力だ、『獣王』鵺也(ぬえや)。あんたと俺は目指すものが同じ、同志のはずだ。俺たちは外の世界を手に入れたい。そうだろ、鵺也?」

「……貴様が、その名で俺を呼ぶな。目的は一緒かも知れないが、俺は貴様のような強硬手段を取る気にはなれん。もっと安全な策を取れ。危険な橋を渡るんだったら、貴様一人で行って勝手に自滅して来い。俺が望むのは温和な決着だ」

「難しいこと言うなよ。その顔だとまだ平行線のようだ。良いじゃないか、皆殺しで。ヒーローは悲劇から弱い者を助けるのが使命。だから俺たちが、これから先二度と苦しまないよう、弱者を平穏しかない死の世界に送ってやらなきゃいけないんだろ?」

「……貴様らにそれを教えた野郎を今すぐにでもぶん殴ってやりたい気分だ」

「社長のことを言ってるのか? 奴はつい昨日俺が捻り殺しといたぞ。喜べ」

「…………」

 救われんな、と鵺也は動揺を隠しつつ、誰にも見えない心の奥で静かに唱える。

 因果応報自業自得。そう言いたい訳ではないが、これで真に恨むべき対象を失った〈主人公〉は永遠に苦しみ、傷つき、戦わなければいけなくなってしまった。

 鵺也は天を仰ぎ嘆きたくなる。だが見えるのは深淵部特有の曇天だけ。十年前から、元は首都の中心街だったここに日が当たることは無くなってしまった。

 日本一高かった壊れた赤い電波塔だけが、唯一空の色に変化を持たせる。

「お前らにやって貰いたいことは二つだ。頼めるよな、鵺也?」

「……それをわざわざ聞いてくるのだから、貴様はクソ野郎だと言う」

 断る選択権は与えられていない。『獣王』は重々しく一回頷いた。

 これでもう、逃れられなくなってしまった。

 だが鵺也は後悔などしない。罪悪感はあるが、今は進んでしまった道でどう生き残るかが重要だ。自分と仲間と自らの目的のために、最善の未来を考えることが彼のリーダーとしてのせめてもの報いであり、矜持だからだ。

 それに過ぎたことを嘆いていられるほど。

 彼の運命は甘くない。


          Fe


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