さようなら、一番好きな人
世の中は二番であふれている。
二番が悪いわけじゃない。一番があるから二番があるわけだし。
みんながみんなはじめて好きになった人と結ばれるわけじゃない。
恋も二度目ならなんていう歌もドラマもあるらしい。
数年前に流行ったドラマだってセカンドを売りにしていたわけだし。
さらに数年前には某有名議員が言った『二位じゃだめなんですか?』なんて台詞もあった。
そう、世の中にはこんなにも二番で溢れている。
だったらムリして一番じゃなくてもいいじゃない。
だからわたしも二番目に好きな人と結ばれよう。
最初から二番で溢れている私には一番よりも抵抗がない。
二宮双葉、25歳と10ヶ月を目前にして友人の言葉に後押しされてそう思った瞬間だった。
私、二ノ宮双葉がこの結論に至るのに、25年と10ヶ月の月日を必要としたことは遅すぎる結論だったと思う。
途中何度かそれに気づきかけたのに、それを気づきたくなくて、夢をみてしまったのは仕方がない。
周りはそろそろ結婚した人もちらほら。おまけに出産もちらほら。
なんて単語で片付けられなくなってきたというのに。
私にはいまだにそんな予定もない。
それよりも相手を見つけるところからはじめなきゃいけない。
デスクの上に置いてあるカレンダーには18日の日付の上に丸印。
今年になって始めた習慣。
毎月18日に丸印をつけて、カウントダウン。
カレンダーにつけた丸も今日で10コ目。
いつもなら流し見る数字と丸印がやけに憎らしく見えるのは今日だからだってこともわかってる。
生まれたときからずっと二番で溢れている私が今日まで手にした一番の幸せなんて高が知れている。
今まで付き合った人は三人。
どの人も一番に好きだった人。
だけど、一番にすきだったからこそ超えられなかった。
そのすべての原因は私にあることもわかり過ぎるくらいにわかってる。
だからもう失敗はしない。
二番目の私が手に入れる幸せは、二番目に好きな人がちょうどいい。
一番に好きな人となんてもう欲張らない。
今までそれで何度痛い目にあったことか。
通路を挟んだ向こうの席にいる一条さんの姿を見る。
彼は私が二番目に好きな人で一番を持つ人。
彼は普段から眼鏡をかけていて、デスクのパソコンに向かう姿が見える。
彼とは特別親しいわけじゃない。
同じ部署だから何度か飲み会などで話したことがあるだけ。
そんな程度だから当然彼が眼鏡をはずした素顔なんて見たこともなく。
だけどこの一ヶ月彼のことをさりげなくリサーチもした。
同期で社内の情報通でもある淳子には大枚はたいて情報をゲットした。
現在彼女もいないこともわかってる。
正直私には時間もない。
そして、たぶん彼以上に最適な人もいない。
ううん。
あのとき『一条さんしかいない。』と感じた自分のアンテナを信じたい。
目の前のパソコンの画面には内容が打ち込まれた文字と点滅するカーソル。
あとは送信ボタンを押せばいいだけ。
躊躇う気持ちを抱えたままに何度も点滅するカーソルを見ていた。
だけど、見てたって躊躇いが消えるわけじゃない。
この選択がどんな結果をもたらすかなんて誰にもわからない。
最後に後ろを振り返り一番目に好きな人を見る。
『一番好きな男の前でムリなら二番目に好きな男にすればいいじゃない。』
ふと、頭の片隅に芽衣子の台詞が浮かんだ後、私の意志は固まった。
『さようなら、一番好きな人。』
右手は送信ボタンをクリックしていた。
前回の更新から空きすぎたことを反省。
次はもっと早い更新をがんばります。