日常のエピローグ
うわぁー。自分で書いておいてこれはないわ。駄文注意をタイトルにした方がよかったかもしれん。
「だからまずは、顔をフツメンに変えるべきだとおもうんだよ」
今は昼休み。学校生活の中でいちにを争う騒がしさを誇る時間だ。そして皆楽しみにしている昼食の時間でもある。友人と語らいながら食す昼食はとても楽しい。
が、話が途切れると異様に気まずい。なまじ一緒に食べている友人が無口や口下手なのでここは自分が話を振らなければ、このまま何も話さず花のランチタイムは終わってしまうことだろう。ありえないかもしれないが、数回事例があるので危険性皆無とは言えない。
そもそもこの友人たちが自分から話題を振るなんてありえない。ここは唯一無口でも口下手でもない自分が花を咲かす役にまわるべきだろう。
とはいえ、ここ最近特に何か特別なことがあったわけではないし、授業でなにか行き詰ったことがあるわけでもない。ストーリーネタも被虐ネタも使えない状況で咄嗟にでた言葉がこれだった。
「何がどうなってその結論に到達したかはだいたい分かるが一応理由を聞いておこう」
反応が返ってきた。この返答は予想の範疇だ。
「やっぱりラノベといい、ゲームといい、漫画といい主人公はフツメンが常識だろ。やっぱ王道にのったらこうなるのかな、と」
「それは遠まわしに自分がイケメン、もしくはブサメンと言っていることになるよね。もしかして被虐ネタかい?」
口下手から返答が返ってきた。あれ、返答が来た、になるのか?まぁ脳内思考だから別にどちらでも構わないのだが。
「残念ながら被虐ネタではなく、ナルシネタだ」
「ナルシネタ?」
「ナルシストネタだ。新しいだろう」
「言葉だけはね。ネタ自体は結構昔からあったよ」
こいつ。口下手のくせに、皮肉だけはいっちょまえに言いやがって。
「まぁ、こいつの場合は顔がいいことがコンプレックスのようなものだからな、ナルシストとは少々違うだろう」
「そこだよ、そこそこ。なんでそこそこ良い自分の容姿がコンプレックスになるのさ」
「せめて疑問文にしろ、聞きづらいだろ」
おほん、そこで一つ咳払いをする。
「だから言っただろ、ラノベとかゲームとか漫画とかの主人公は大抵容姿平凡か、並より良いってレベルだろ。俺じゃ条件を満たせないじゃないか」
「やっぱり軽くナルシスト入ってるよね」
「ウキウキ、せっかく親からもらった容姿なんだ、それを卑下するのはどうかとおもうぞ」
「だから、ナルシストだから卑下してないって」
「その前にウキウキ言うな」
祐樹。それが俺の名前。彗祐樹。読み方はほうきゆうき。苗字と名前の下をとってウキウキらしい。ちなみにこのあだ名について俺は容認してない。なんか猿みたいじゃないか。
「いいじゃないか。あってると思うぞ、性格的に」
こいつは俺が猿っぽい性格をしていると言うのか。こいつは俺をおちょくって楽しんでいるふしがある。性格が悪いのだ。
「違う違う、いつも元気なところだ」
……そして妙に感がいい。
こいつの名前は乙木戸信哉。読み方はいつきどしんや。外見は高校生にしては大人びていて何だか「show timeだ」とか言ってそうな雰囲気がある。普段は無口なのだが喋るといがいと饒舌だ。それに気もいい。皮肉が多いのが難点だが。
「確かに無駄にいつも元気だよね、かといって熱血漢ではないし。注目度はいまいちだね」
同意しやがった。しかも本来ほめ言葉であるはずの元気をわざわざマイナスに変えるというおまけつきで。
こっちの名前は霧峰馨。読み方はきりみねかおる。女ぽく線がうすい。ちなみにそれを指摘すると怒る。なまじ名前まで女っぽいから余計に、らしい。性格は普段はおどおどした感じなのだが何故か俺たちと一緒にいるときだけ嫌味な性格になる。それだけ心が許されてると思えば気が楽なのだが。
ちなみにこいつのおどおどは女子の前だと更に悪化する。ある意味一番典型的な男子高校生なのかもしれない。
「祐樹、さっきから黙ってどうした?腹でも痛いのか?」
俺はガキか。
「いや、違う。頭の中でお前らの紹介をやってみた。物語のプロローグっぽく」
「へぇ、ちなみにどんな紹介をされたのかな」
「お前が根暗で常にパソコンを離さないことだ」
「………まぁ確かにあってるね」
言って思い出した。こいつを語るうえで大事、もとい特徴的なことが一つあった。
こいつはパソコンを常に持ち歩いている。食事をしている今現在もだ。本人いわく風呂に入るときも手放さないらしい。完全防水のパソコンなんてあったっけっか?いまいちパソコンには詳しくないからわからん。
「ちなみに俺は?」
「ガンオタだ」
こっちは筋金入りのガンオタ。銃オタクのことだ。決してかの有名な機動戦士オタクではない……たぶん。いまいち自信がないのはこの前その話題でこいつがM●についてやけに詳しかったからだ。やれ、機体が支えられないだの、実用的じゃないだの、あれはいいものだァーーーだの。でもキャラについてはさっぱり知らなかったから違うのだろう………たぶん。
「本物は売ってないぞ」
当然だ。
こいつは学校内でモデルガンの販売をしており、一部の男子生徒とまた一部の女子生徒から絶大な人気を得ている。それだけリアルなのだ。この前俺が手に持ったとき手にずっしりとした重さと金属特有の冷たさが伝わってきた。それで、「これマジで本物みたいだな」って言ったら、青い顔をして
『今すぐソレをおけ……。ダメだ、もっとゆっくり……』
と言われた。後で調べたことなのだが、その銃は撃鉄の無いストライカー式というものだったらしい。何でも暴発の危険が高いとか。
………モデルガンだよな………?
「本物は売ってないよな?」
「当然だ。銃刀法をなんだと思っている」
その返答にわずかに冷や汗が引っ込む。ふぅ、と安堵の溜息をついたところで、信哉が急に
「プロローグということはお前の物語はもう始まったのか?」
変な問いかけをしてきた。
何を言ってるんだ、こいつは。厨二病か?
「さあな、こんなのもう高校入ってから何回もやったし」
………どうやら俺も厨二病だったらしい。今更だが。
でも何故急にそんな変な質問をしたのだろう。普段のこいつはミリタリーマニアで変人であっても、こんな訳の分からない質問をすることはないのに。
何でこんな質問をしたのか。それは俺が口にする前に馨の言葉によって遮られた。
「どうでもいいけどね、あれをみてごらん」
ん?馨に言われた方向に目をやる。そこには時計があり、表示されている時刻は
「一時……だと……」
昼休み終了の時刻は一時。現在の時刻も一時。昼休みはもう終わっている。正確にはチャイムが鳴っていないことからまだあと秒単位で余裕があるのだろうがお生憎様ここは屋上。一年生の棟までは走っても五分はかかる。当然間に合わない。
「くそ、まだ食い終わってないのに!!信哉、馨!!今すぐ片づけて教室に……」
時計から目を離し、二人に振り返ると、二人はもう片づけを終え屋上から走って出ていくところだった。あまり会話に参加していなかった馨はともかくさっきまで話してたお前はどうして早いんだよ!!信哉!!
急いで片づけをし、こちらも屋上から出る頃にはチャイムはなっていた。
全速力で走り二人に追いつく。
「さすがウキウキ、足が速いな」
呼び方からわかるにこいつからかってやがる。結局何であんなこと言ったのか聞けなかったし。そして、ハッとした。
「なぁーーー!!」
「ん?」「ん?」
俺が急に叫んだことにより二人が振り返る。方や好奇心の目、方や気だるげな目。ええい、貴様ら少しは疑問を持たんのか。まぁいい。俺は続く言葉を叫ぶ。
「俺今主人公っぽくねーーーー!!」
片方は二マリと笑い、片方は呆れたような目で、もはや口癖のようにそれを言った。
「「それが今どう関係ある?」」
さすが長い付き合い。俺がして欲しい質問をよくわかっている!!馨はまだ数ヶ月だが。
「関係あるさ、だって俺の夢は」
もはや追い抜いた二人に振り返り高らかに何度目か分からぬ宣言する。
「主人公になることなんだからな!!」
ーーーーそれはこの学校に入って、幼馴染の信哉に加え、悪友の馨ができてからずっと続けてきたやりとり。
俺の夢。なにも変わらない。そんな日常の光景。
ーーーーだから、夢にも思っていなかった。その日常が、さながら水を限界まで注いだカップのようなーーーー。
揺れ続ける天秤のようなーーーー。
それが俺が少し変わるだけで、簡単に決壊してしまうようなーーーー。
簡単にバッドエンドに傾いてしまうようなーーーーそんなギリギリのバランスでなりたっていたなんて。
『夢は主人公になること!!』プロローグ:日常のエピローグ