怪談つぶし!
この小説にはメリーさんが出てきます。
好きな姿を想像しながら読んでいただけると幸いです。
『メリーさん』という怪談がある。
「私メリーさん。今○○に居るの」
という電話があり、徐々に○○に入る場所が自分に近寄っていき、最後には
「私メリーさん。今あなたの後ろにいるの」
との電話。振り返るとそこには…
といったやつである。
口裂け女程ではないが充分な知名度を誇るこの怪談。
聞いた直後のはその恐怖に怯えながら電話をとる羽目になる。
しかし。しかしだ。
常識で考えてみよう。
『メリーさん』は女だ。
それが、自ら家にやってくるのだ。
なんと素晴らしいことか。
とりあえず不法侵入を盾にとってメルアドをゲットする事から始めようと思う。
妖怪でもいいから友達が欲しかった。
だって友達いないんだもん。
幻想に逃避したくなるのさ。
ここまで考えてから、
勢いで買ってしまった物品の数々を眺めようと思う。
まず、電話の延長コード10本。
俺の家は二階建てなのだが、俺の部屋は二階にあるのに、電話は一階にしかない。
そのためだけに買ってしまった。
こんな無駄な買い物、通販のクリーナー以来だ。
次に羊羹。歓迎の印だ。せっかく来てくれたのだから歓迎しなければ、という意味不明な思考の結果だ。さりげなくスプーンを添えておけばいいとか考えた俺の馬鹿。
次。栗羊羹。
俺の分だ。
次。超氷殺ジェット。
ゴキブリを退治するあれだ。
妖怪に聞くかはわからないが、悲鳴ぐらいあげさせたいものだ、という思考の果て、温度で攻めることにしたらしい。
俺、やっぱ馬鹿。
次、座布団。
俺用。
次、抱き枕(花柄)。
メリーさん用。
買おうとしたら
「プレゼントですか?」
と言われて
「ええ、メリーに」
と言ったので
『メリー』と刺繍が入っている。
あそこでその受け答えをした自分が信じられないが、まあ気にしない。気にしたくない。
以上だ。
以上である。
…俺って。
俺って…馬鹿?
いや、阿呆か。
何をありもしない怪談のためにやっているんだ。
合計3万はした。
抱き枕が高かった。
俺……
とりあえずなにかしていないと挫けそうになったので、羊羹を一階の冷蔵庫へ。ついでに電話コードも繋いでみた。
三本余った。
俺……
尚更挫けそうになったので部屋で抱き枕を抱き締める。
柔らかくて無性に涙が出そうになった。
「お袋…」
思わず言ってしまう暖かさだった。生きてるのに。
さすが高いだけはある。
そのまま俺は意識を沈めていった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
プルルルルルル!
プルルルルルル!
おや、電話が鳴っている。
おかしいな、俺の部屋に電話は…
そこまで考え、眠る以前の記憶を取り戻す。
……俺って……
プルルルルルル!
しかし鬱に入った思考を知ってか知らずか(恐らく知らない)、電話は鳴り続ける。
仕方ない。気分は乗らないが電話に出るか。
ピッ!
「もしもし」
「あっ…もしもし、私メリーさん」
…えっ?
「ワンモア」
「もしもし、私メリーさん」
『あっ』は無かったことにしたようだ。
もしかしたらしばらく待たせたたから出ないと思ったのかもしれない。
可愛いな。メリーさんに10ポイント。
「なるほど」
「私メリーさん。今近くの公園に居るの」
ブツッ
電源が切れる。
なるほど、これがメリーさんか。
しばらく感動していると、再び電話が鳴りだした。
「もしもし」
「わたゃしメリー…」
ブツッ
噛みやがった。50ポイント!
プルルルルルル!
「私メリー!家の前にいます!」
ブツッ
ずいぶん個性的なメリーさんらしかった。
『もしもし』すら言わせてもらえなかった…
プルルルルルル!
「もしもし」
「私メリーさん。今ドアの前に居るの」
「あ、開いてますよ」
「…え?あっ」
ブツッ
思わず切らずに反応したらしい。会話は難しそうだ。
なら…
プルルルルルル!
「もしもし、警察署です」
「えっ…」
「救急ですか、消防でーー」
ブツッ
楽しくなってきた。
次は宇宙人にでもなってみようか。
プルルルルルル!
「モシモシ、ワタシーー」
「私メリーさん!今居間に居るの!!」
封じられた。てか今のは…
そうだ!
「今『居間』にいるんですか、あはは、面白い」
食らえ!無自覚なボケを拾う攻撃!
「えっあっそのっ」
ブツッ
よし。勝った。
俺に20ポインッ!
プルルルルルル!
「私メリーさん!今リビングルームにいます!」
英語にしてきやがった。
ん?そういや居間って…
「あー羊羹が冷蔵庫にあるなーでも下にはメリーさんがいるよー怖いよー食べられちゃう」
ブツッ
さあ、どうだ!?
しばらく待つ。
待つ。
待つ。
プルルルルルル!
「もしもし、スプーンは二番目の棚ですよ」
「ありがとう」
会話成立。
やっぱり女の子は甘いものに目がないんだね!
妖怪だけど!
これまた待つ。
待つ。
待ちくたびれた。
もう15分は経ったぞ…
様子を見に行くか。
あわよくばメリーさん相手に
「俺メリーくん。今あなたの後ろに…」
ができるかもしれん。
トン、トン、トン…
音をなるべくたてずに階段をおりる俺。
リビングはドア一枚隔てた先だ。
そーーーっとドアを開け、その先に見えた物は――…
最後の一個らしき栗をずっと眺めているメリーさんの横顔だった。
あんた仕事はどうした。だが…
その表情、100ポイントォ!!
声は出せないのでサムズアップを掲げて感謝する俺。
しかしメリーさん、美人である。
しばらく眺めていたかったが最後の一個の栗を食べてしまった。
もうすぐ使命を思い出してこちらに来るだろう。
…思い出してくれるかな?
どうみてもあれは栗を噛んでない。舐めてるぞ。
再び二階に戻ってきた俺。
パタン、と扉を閉めて考える。
メリーさんが来たらどうするか?
最初は氷☆殺するつもりだったが、あんな美人を追い返した日には自分を氷殺してしまうだろう。
まあいい、とりあえずドアはちょっと開けておこう。
そしてそのまま扉の逆側にあるベッドにダイブする俺。
片手に電話を持つ。
延長コードをもう一本つないで遊んでいると、
プルルルルルル!
唐突に電話が鳴る。
息を整えて電話を取る準備をしていると――――
後ろから音が聞こえた!
カサリ。
……来たか!?
カサ…カサ。カサカサ。
…ああ、音が聞こえるけどこれは違う。違いすぎる。
カサカサカサカサカサカサッ!!!
「ゴキブリかいいいいい!!」
俺はとっさに枕元にある超☆氷殺ジェットを掴む!
そして即座に振り向き、目の前の黒い大きな物体に構える!!!
「くらええええええええええ!!!」
…まてよ、大きな物体?
思考が停止する俺。
しかし止まらずに噴射されたジェットは――――
「キャアアアアアアアアア!!!!」
メリーさんに直撃した。
どたばたどたばたばったんだだだだだだ!!
そして七転八倒してからダッシュで部屋を出て行くメリーさん。
――――後にはただ、カサカサという音だけが響いていた。
超氷☆殺した。
氷☆殺!
思わずタグに入れてしまうほど気に入った。
元ネタは生産中止されたそうですね。
一度使ってみたかった。
皆さんはどんなメリーさんを想像しましたか?
そのメリーさんが成したことで少しでも
和んでいただけたら幸いです!
できれば感想をいただけると画面の前で飛び跳ねます。
本当です。ちょうだい。コメント:氷☆殺だけでもいいんです!
…失礼しました。
では、読んでくださった方に感謝を。
久遠でした!




