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日帰りの簡単なお仕事です。

作者: リケ
掲載日:2026/08/18





夜に降り続いた雨は、朝には止んだ。


隣国との間には、広い平野が広がっている。

平時は何も無いただの草原だが、こと戦となれば戦場へと変わる。


対面には、隣国の軍がズラリと兵を並べている。

一見して自軍と数は変わらないように感じる。

くそ、圧倒的に勝てると聞いたのに。

自分の見積もりの甘さに吐き気がした。


水気を含んだ足元を睨みつけても、状況は変わらない。


「かー!こりゃまいったなー」


隣に立つ、自分を巻き込んだ男の声に、思わず胸ぐらを掴む。


「おい、お前!楽勝だって言ったよな?どう言うことだコレは!」


「待てよ、相棒。ここで文句言ってもしょうがねーぞ?」

「誰が相棒だ!ああ、ちくしょう、テメーの口車に乗らなきゃ、今頃アンネマリーちゃんの胸で爽やかな朝を迎えてたのに!」


「はぁ?おい待てや、アンネマリーちゃんは俺のだぞ?この前だってな、帰る時クッキーくれたんだ。ありゃ俺に惚れてるな」


勝手に相棒を名乗る上に、愛しのアンネマリーちゃんが自分のものだと宣言した。


「そうか、そうか。テメーは戦の前に俺が殺してやるよ!」


「なんだとコラ!」

「やんのかオラ!」


「商売女に入れ込むのも良いが、生きて帰れば、サービスしてくれるぞ」


声をかけてきたのは、俺たちのいる部隊の隊長だった。


「こいつが!」

「テメーが!」


「まあ、話を聞け」


真面目な顔に、気勢が削がれる。


「良いか、この戦は負ける。見ろ、隣国の軍は重装兵に騎兵、後ろにチラッと見える杖は魔道兵だろう」


改めて隣国の軍をマジマジと見つめる。


「まじか……」

「やべー……」


何度見直しても、変わりやしない。


「おまけにこっちの大将は、あの第二王子様ときた」


続く言葉に絶望が広がる。


「おいおい、待ってくれ。それはまじか?隊長さん。よりにもよってあのろくでなしが大将だって?悪い冗談はよしてくれ」


「……事実だ」


「アンネマリー。せめてもう一度会いたかった……」

「アンネマリー。俺は帰れない。すまない!」


「あ?」

「おお?」


お互いの額を突きつけながら、このトンチキを締める方法を考える。


「フハハ、お前ら余裕だな。よし、俺に良い考えがある。聞くか?」


それはこの前、目の前のクソ野郎から聞いた言葉と同じだった。


     ◇◇◇◆◇◇◇


「集まったな?」

天幕なんて上等な物はない。

少し空いた場所を見つけて車座に座り込む。

話に乗ったのは十人ほど、どいつもこいつも馬鹿野郎ばかりだ。


「軽く話したが、この戦は負ける。兵士の質もそうだが、まず大将が不味い。開戦の合図と共に下る命令は一つだろう」


隊長の顔が暗く沈む。

誰かがゴクリと息を呑む音が聞こえた気がした。


「突撃しろ。だ」


痛いほどの沈黙が広がる。

冗談じゃねーぞ?


「なあ、俺は頭はよくねーが、ちっとは分かる。あの重装兵に、こんなチンケな剣一本で突っ込めなんて無謀通り越してアホだぞ?」

「相棒の言う通りだ!俺らに死ねって言ってんのかよ!」


相棒じゃねーよ。


「だろうなぁ。そこでお前らに提案がある。俺と一緒に逃げねーか?」


「それこそ殺されるぞ?敵前逃亡だーとか言って魔法が飛んでくるのが関の山だ」

「相棒の言う通りだ!ダメじゃねーか!」


だから相棒じゃねーよ。


「こう言うのはな、タイミングってもんがあんだよ。良いか、作戦はこうだ───」


     ◇◇◇◆◇◇◇


「突撃しろ!!」


指揮官とか言うクソが偉そうに叫ぶ。

何も知らない奴らが、小銭のために走り出すのを、後ろから眺める。

「まずはこうやって、軍の後ろの方に陣取る。ほら見てみろ、前の方はもうすり潰されてるぞ?」


怒声だか悲鳴だか分からない声が、ここまで響いてくる。


「なあ隊長さんよ。こっちには、なんかすげー戦力とかねーのかよ」

「第二王子の護衛に、至天の一人が着いてるって話だが」


まじか、俺でも聞いた事あるやつじゃねーか。

なんでも山を割っただの、空を飛ぶだの、眉唾の噂ばっかだが。


「なら、そいつを出せば!」

「第二王子が出さねーだろうなぁ」


「くっそがー!!」


割に合わねーどころじゃねーぞ。


「隊長!次はどうすんだ?相棒がイライラしてきてんぞ」


隣のこいつは相棒相棒うるせーし。


「まあ待て、ほら進むぞ。ゆっくりだ、歩調は合わせるな?遅れてるように見せろ」


ジリジリと崖に向かって歩いているような、最低な気分だ。

隊長の後に続いて、少しずつ少しずつ後ろになるように、位置を変えていく。


気がつくと、ゆっくり進む俺たちの周りの奴らが、同じ速度になってきた。

隊長はしきりに周囲を観察している。


「そろそろだ。良いか、絶対に最初に走るなよ?まずは俺が走り出す。周りが釣られて動いてから走れ」


「貴様ら!何をしている!偉大なる第二王子殿下の戦であるぞ!その名誉を持って勝利を捧げる事こそが、貴様ら下民の仕事だ!」


周囲の足が止まった。


「走れ!戦え!勝利をもたらせ!何を止まっている、この無能どもが!!」


指揮官のクソが叫ぶ。

誰が動くかバーカ。


「おのれ!おい、魔法兵!反逆者どもを殺せ!」


隊長が動いた。

「うわぁぁ!!逃げろ!ころされる!!!」

大きな声で叫びながら、周りを押し除けて逃げようとする。

そこからは、酷いもんだった。

雪崩を打ったように全員が走り出した。

後ろからは火の球やら、石の球やら、弓矢まで飛んできやがった。

最初に使え馬鹿野郎が!

「ぎゃあ!」

右のやつが火だるまになった。


「ひぃぃ!!」

肩に矢が刺さって悶えてる奴を飛び越える。

悪く思うなよ、俺は帰るんだ。

相棒相棒うるせー奴は、どこかへ消えた。

もう会えないかと思うと、少し寂しさを……

感じねーな?勝手に死んでてくれ。


アンネマリーちゃん。待っててくれ!今行くよ。

帰ったら、そうだな。奮発して時間延長しちまうか!

良いな、良い考えだ。よぉーし、みなぎってきたぁ!!

「うおぉぉぉおおお!!!」


力の限り走れ!

アンネマリーちゃんのために!!


     ◇◇◇◆◇◇◇


「ゼェハァ……ゼェハァ……」

着いた、ここが合流地点。

この大きな木の根元だって隊長は言ってたな。

「相棒!無事だったか!」


お前も無事だったか。

「っち、生きてたか」


「あ?どう言う意味だ、相棒!」

「言葉の通りだ、クソ野郎!」


辿り着いたのは俺たち含めて五人か……。

みんな、へたり込んでやがる。

遠くではまだ、戦いの音が聞こえる。

あれが戦争?ざけんな。付き合ってられねーな。


「遅かったな。これで全部か?」


木の影から、ぬるりと隊長が現れた。

こいつ今どっから出てきた?


「隊長!あんたも無事だったか!いやー良かった!」

「良かねーよ。ひでー有様じゃねーか」


「なんだよ相棒。生き残ったんだから良いじゃねーか」

こいつ……そりゃそうだがよ。

クソ野郎の言葉に間違いは無い、無いが釈然としねー。


「お前ら二人は残ると思ってたぞ?」

「なんだよ隊長も俺たちを見込んでたのかよ、良かったな相棒!」

「相棒じゃねーよ。それより隊長さんよ、次はどうすんだ?」


「次、次か……」

なんだ?

黙り込んだ隊長は、ポケットから小さな魔道具を取り出した。


「なんだ、そりゃ?どっかに連絡出来る魔道具かなんかか?」

「これか?これはな。こう使うんだ」


カチリと静かな森に硬質な音が鳴った。


《ソーンバインドを起動します》


魔法陣から現れた、荊の蔓が俺たちを縛り上げる。

なんだこれ、そんなもん聞いた事ねーぞ!


「痛え!!!」

「クソが!ふざけんな!」

「何しやがる!」

「おい隊長、嘘だろ!」

「まじかクソが!」


びくともしねぇ。

トゲが刺さって痛えし、動けねーし。


「くくく、あーははははっ!わりーな?俺はここで逃げるわ。足止めよろしくな?恩にきるぜ返さねーけどな」


ああ、ちくしょう。またハメられた。


「テメーコラ!覚えてやがれ!ぜってー殺してやるからな!」

体はガチガチに縛られて動けねぇ。

だが、こいつは絶対許さねー!


「おー怖い怖い。怖いからこんな事言っちまう。」


あ?何言ってんだ?

隊長は大きく息を吸い込んで……


「反逆者を見つけました!!!ここです!!!早く増援をお願いします!!」


マジか、おい。ふざけんな!


隊長もとい、クソ野郎2号はさっさと逃げやがった。

俺たちは縛られて動けねぇ。

さっきの大声で、そのうち追っ手が来るだろう。

これで……終わりなのか?


「ああ、俺のアンネマリー。帰りを待ってる君に謝りたい」

「は?なんだと相棒!アンネマリーちゃんは俺の帰りを待ってんだよ!」

「はぁぁ?寝言は寝て言え!アンネマリーは、お れ の  帰りを待ってんだよ!」

「テメーこそ、頭沸いてんのか?夢見んのも大概にしやがれ!」


「なんだとコラ!」

「やんのかオラ!」


直後、後ろから熱風と衝撃が俺たちを襲った。

木々は弾け、同時に木の葉のように吹き飛ばされる。

「なんだってんだ、ちくしょう!!」


     ◇◇◇◆◇◇◇


「なあ、相棒」

「なんだ、クソ野郎」


俺たちは泥だらけのボロボロになりながら、森を歩いていた。

あれは一体なんだった?

魔法が解けたから助かったが、マジやべー感じがしたぞ?


「なあ、相棒」

「なんだよ、うるせーな!」


「女が落ちてるぞ?」

「そんな事あるはずねーだろうが!マジで頭イカれたの……か……」


木に寄りかかって、女が落ちてる……。


「まじか……」

「おう、マジっぽいぞ」


長い金髪で、真っ白な肌。着てるのはお貴族様のドレスってやつか?

うわぁ、まつ毛なが!

綺麗な服は泥だらけだ。

お?起きたぞ?


「ひぃぃ!!」


起きるなり悲鳴とは、失礼なねーちゃんだな。

後ろに下がっても木があるぞ?


「くっ!ここまでですか……良いでしょう。ですが、このわたくしが、そう簡単にやられるとは思わない事ね!」


なんかヤル気満々だな?

「あ、お構いなく」

「おい相棒!」


厄ネタに決まってんじゃねーか。

ほら行くぞ。

「じゃーな。ねーちゃんも達者でな」


「は?」


面倒くさそうなのに付き合ってられるかよ。

俺にはアンネマリーちゃんが待ってんだよ。


「おい相棒!待てって」

んだよ、うっせーな。

放っとけよ、絡まれるぞ?


「あなた方は、追っ手ではないのですか?」


ほらみろ厄ネタじゃねーか。

「おう、俺と相棒は今逃げてる所だ!」

「そうだったのですか、それは失礼いたしました」


「姫さんはなんでここに?」

聞くな、やめろ、巻き込むな!


「実は……いえ、今はそれどころではありませんね」

「まあ、色々あるわな、どっか行くとこあんの?」


やめろ、マジで。


「隣国に叔母がおり、そこへ向かいたいのです」

「そっか、なら俺らが一緒に行ってやるよ!」


ああ、終わった……。


「本当ですか!?」

「おう!俺らに任せろ!」

このクソ野郎はいつか殺す!




森で綺麗なねーちゃんを拾いました。
















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