8話 幼馴染って、アリですか!?
「本当に遊びだったんですか!?」
「いきなりビックリするじゃない……言ったでしょ、デートだって」
「いや、方便かと……本当は仕事なんじゃないかって」
「そんなことでウソついてどうすんのよ」
「でも、いきなりデートって言われると……変に身構えるじゃないですか」
少なくとも私はそう。
でも実際にしたことは、デート……かどうかはともかくとして、内容は遊びの純度100%だった。
「ま、デートっていうのは言い過ぎだとしても……実際は歓迎会よ。ヴィーナがうちに来てくれた、ね」
「歓迎会って……それもう、やってもらいましたけど……?」
「あれは全体での歓迎会でしょ。今回は個人的な歓迎会だから」
「……何か違うんですか?」
とにかく。
もう仕事じゃないみたい。やっぱり仕事でした、っていうオチはもう無いらしい。
じゃあ…………もっと楽しめば良かった……。
ちょっと、いやかなり勿体ないことをしたかも。
残念がっていると、シルフィさんは私の手を両手で包み込む。
「あたしを助けてくれたお礼と、傭兵団に来てくれたお礼。かなり無理やりだったのに、文句一つ言わずについてきてくれたお礼」
「あれは文句を言う暇も無かったんですけど……」
だって自己都合で辞めたら違約金だし。辞めたくても辞められなかった、というのが本音。
……だけど、今は辞めようとは思わない。個性的……過ぎるメンバーだけど、離れるのは淋しい。
「じゃあ、今なら文句言うのかしら?」
「……いえ」
懸念はある。とっても大きな引っかかりが。
シルフィさんを助けた、ということ。それを言われる度に、私の胸の中は罪悪感でざわつく。
だって――あの出来事を引き起こしたのも、私なんだから。
だから、だから……今の私が陽の光に当たる場所にいるのが、とても後ろめたく感じてしまう。
「……ヴィーナ、いつもお礼を言われると苦しそうな表情をするのね」
「…………それは……」
言った方が良いと思う。
でも、言ってしまうと……今この握ってくれている手は、きっと離れてしまう。
二度と握ってくれなくなる。
それが、とても怖い。
「そ、そうだ! 私以外の人が傭兵団に来た経緯って、なんですかっ?」
だから逃げた。優しくされるのが嬉しくて。嫌われるのが怖くて。
だから話を逸らした。問題を先送りにするために。
「あら? せっかく二人でいるのに、他の女の話するわけー?」
特に深く聞こうとは思っていなかったのか、私があからさまに話を逸らしたのに気付いたはずなのに誤魔化されてくれる。
ニヤニヤと楽しそうに笑う姿はいつものシルフィさんだ。
「え? えっと、ダメなら……あの……」
「くすくす、冗談よ。そこまであたしは心が狭くないから。でも、そこまで深い話はないわよ?」
「そうなんですか?」
「ええ、ライラは募集に応募してきただけだし、リースとユノは拾っただけだし」
「拾ったって、とっても深い話に聞こえるんですけど」
動物じゃあるまいし、人を拾うなんてそうそう無いと思う。
でもシルフィさんは優しく笑って首を横に振る。
「そういう話は人づてじゃなくて、本人から聞くべきよ。あたしはある程度彼女たちの過去を知ってるけど、あたしからは話すつもりはないわ」
「あ、確かに……そうですね、はい」
「だから気になるなら本人に聞きなさい。リースならバカみたいな笑顔で話してくれるんじゃないかしら」
「あはは……でも、ユノさんは……」
どうも私を敵視してるというか。常に睨まれてるというか。
仲間なんだけど、仲間じゃない……みたいな?
何か嫌われることをしたのかな……?
「あ~……あの子はね~……あたしが大好きなの」
「……え? あ、そうなんです、か?」
「拾ったから、っていうのもあるのかしらね、すごく懐いちゃって。逆に他の子たちには懐かないのよね」
親代わり……みたいなものかな。
人見知り的な? あれ、でもそれだと私が嫌われてる理由がわからないんだけど?
「あたしがヴィーナに拘ってるからかしら」
「取られる……みたいな、独占欲みたいな?」
「そうそう、たぶん今も何処かであたしたちのこと見てるわよ」
「えっ? 本当ですか?」
「たぶんね。ユノー」
遠くの人を呼ぶ声じゃない。ごくごく普通の声量。
周囲の雑音でかき消されるしまうくらいの声量だったのに。
気が付けば、ユノさんはシルフィさんの隣にいた。
というか、私とシルフィさんの間に無理やり入ってきていた。
「呼んだ?」
「ええ、用はないけどね」
「うん、いいよ。呼ばれて嬉しいから」
尻尾があったら大きく横に振っているに違いない。
それくらい忠実というか……愛情に飢えてるともいえるのかな。
「狭い、邪魔」
「あ、ごめんなさい」
追い出されてしまった。
「こらユノ。私のヴィーナにそんな口利いちゃダメじゃない」
「……だって」
「ごめんねヴィーナ」
「いえ、そんな」
いつから私はシルフィさんのモノになったんだろう。
サインをした時からかな? 確かにあの違約金がある限り、私はシルフィさんのモノかもしれないけど。
とはいえシルフィさんを独占する気なんてない。彼女は商会長で身分ある立場なんだから。
まあ、それとは別に……ユノさんとも仲良くしたいと思ってるんだけどね、仲間なんだし、どうせだから打ち解けたい。
「ユノさん、今度話でもしませんか?」
「イヤ」
「ユノ」
「……うう…………」
とっても嫌そう。シルフィさんに注意されてもなお、それでも嫌そう。
「………………気が向けば」
「はい、ありがとうございます」
たぶん気が向くことはないんだろうけど。
でも、少しずつで構わない。
いつか打ち解ければ……いいかな?
「じゃあユノ、もう行ってもいいわよ」
「うん、わかった」
最後に私をひと睨みして、姿が消えた。
何処かに走って行った……とかではなく、消えた。
「ごめんね、ユノが」
「いえ、大丈夫です」
「さて、次は何処行こっかっ?」
そう言って笑顔を見せるシルフィさん。
その表情に、何かが引っかかった。いや、引っかかったっていう言い方は違うかも。
何かを思い出したみたいな……あれは……そう、子どもの頃、メール村にいた同い年の女の子。
フリフリした服を着ていて、綺麗な長い黒髪で、そしてよく泣いてた。
泣いてるのを慰めてると、泣き止んで見せる笑顔。嬉しそうに笑う笑顔が……今のシルフィさんとよく似ている。確か、名前が……なんだっけ………………そう、そう、確か……!
「……シュシュ、ちゃん?」
「……ぴっ!?」
「あれ? シルフィさん……ですよね、でもなんでシュシュちゃんのことを……」
「………………覚えてるの?」
「え? ええ、もちろんです。村で同じ年齢の子って、あの子だけでしたし」
でもあの子はどちらかというと気弱というか。臆病というか。
今のシルフィさんとは真逆なタイプ。
あまり交流は無かったけれど、年齢が一緒ということもあってか仲が悪いというわけでもなかった。
幼馴染……とでも言えば良いのかな?
「彼女はいつもフリフリな服を着てて、よく泣く子でした。でも笑うととっても可愛くて……」
「死んだわ」
「………………え?」
「そのシュシュとかいう子は死んだの。あの日、メール村で」
「うそ……………………ですよね?」
私の、せいで……?
私に泣く資格はない。なのに、涙が溢れそうになる。
だけど、シルフィさんの表情を見てみると。
その表情は悼んでいる、というわけではなく。
どちらかというと、恥ずかしそうな……。
「っ……死んだの! シュシュなんてダサい名前は、もう捨てたんだから!」
「…………あ、やっぱり、シュシュちゃんがシルフィさんだったんですね!?」
「死ーんーだーのー!! シルフィっていうイケてる名前に生まれ変わって、商会を営んでるカッコいい女性に生まれ変わったの!」
……良かった、本当に良かった。
死んでなかったんだ…………本当に良かった。
「あの……これからどう呼べば……?」
「シルフィよ! あたしの名前はシルフィ! シルフィ・メール・カルディラよ!!」
確かに、自信満々にそう言う姿はシュシュちゃんとはまるで結びつかない。
あれから何年も経ったんだし、人は……変わる。
なら、彼女が言うように呼んだほうが……いいかも?
「わかりましたシュシュちゃ……シルフィさん!」
「人前でそう呼んだらぶつわよ!?」
「ひぃ……!」
「…………ま、まぁ、でも? 二人の時でなら……たまには、許してあげるけど」
「――はい、シュルフィさん!」
「混ぜんじゃないわよ!!」
「ごめんなさいっ!!」
私の罪は消えない。罰からは逃げてる。
だけど。
彼女が生きててくれて、本当に良かった。
心から、そう思う。
読んでいただきありがとうございます。
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