7話 デートなんて、アリですか!?
ここの広大な大陸には三つの国がある。
“西”には神聖国『エルシオン』
絶対神『エルシオン』を崇拝している国で、全国各地に信徒がいるみたい。
“東”には商業大国『ウルシーラ』
海に面した大きな町で、リゾート地として有名。塩の主な輸入元はここ。
そして私がいる“南”にあるのが、農業大国『ヒザーク』
緑豊かで広々とした土地は、農業にすごく適しているみたい。
そして“北”
北は……また今度ということで。
どうしてこんな話を突然始めたのかって?
前回の終わりにシルフィさんが突然言い始めた『デート』という言葉。
簡単に信じちゃいけない。観光かと思ったら、剣の仕入れで終わったことを考えると、余計に。
だから頭の中を小難しくしておく。
そうすることで『やっぱり仕事じゃないですか!?』って落胆する必要も無いからね!
というわけで、私とシルフィさんが武器屋を出て、その続き。はじまりはじまり。
店を出るなり『ついてきなさい』と言われたので、後ろからついて行く。
私はこの町に明るくないし、置いていかれても困るので言われるがままついて行くと、そこは……。
「さあ、ここよ」
「ここは……?」
華やかな店構え、いや……華やかかつ……なんか、こう……高級そうな。
店構えだけで物怖じした私を置いて、シルフィさんはその店のドアを軽々と開く。
と……とりあえず、ついて行こう。
続いてドアをくぐると……絶句した。
外が華やかなら、中はきらびやか。
入るなり何人もの人が深々と一礼して出迎えてくれる。
その所作の一つ一つがとても綺麗で……内装以外にも目を奪われる。
「これはカルディラ会長様。ようこそいらっしゃいました」
「いつもの席、空いてる?」
「もちろんでございます」
普段から慣れてるんだろう。
店員の人もシルフィさんを知ってるみたいだ。
……偉い人なのかな?
「……ヴィーナ? どうしたの? 着たいの?」
「……へっ? 着たいのって……?」
「いや、従業員のことをじっと見てるから」
確かに。フリフリの服装はとても可愛い。うん、そこまで気がつくほど余裕がなかったけれど、確かに可愛い。
でも着たくは……ないかな、どうせ似合わないし。シルフィさんの方が似合いそうだけど。
「あの、ここって……何のお店なんですか?」
席に案内され、シルフィさんに小声で尋ねる。
「見てわからない? カフェだけど」
「わかりません」
私の知ってるカフェはこんな華やかじゃない。
なんというか、こう……村のおばちゃんが営んでるような。
宿屋っぽい、というか。酒場っぽい、というか。食堂っぽい、というか。
少なくともこんな高そうな雰囲気は醸し出してない。
「……あ、そ。好きなもの頼んでいいわよ」
「あ、はい。ごちそうさまで…………うそ……!?」
思わず声が大きくなった。口を塞いでメニューを改めて見る。
何この値段? ゼロ間違えてないかな?
このお茶一杯で、普段飲んでるお茶が十杯以上飲めるんだけど?
「なに、どうしたの」
「え、っと、あー…………私は、水だけで……」
「……ふうん、そういう事言うんだ?」
そのセリフって、どういう意味なの?
尋ねる前にシルフィさんは近くにいた従業員を呼ぶ。
「このロイヤルコースを二人分」
「かしこまりました」
「ロイヤル……!?」
慌ててメニューを見る。
………………ぁぁ…………。
ゼロが幾つあるんだろう、いっぱい並んでて数えるのが逆に難しいや。
「も、もったいなさ過ぎますよ……っ!!」
「そんなことない、ヴィーナは可愛くて綺麗なんだから、ロイヤルが似合うわよ」
「な、な、な……っ! ……………………いや、騙されませんよ、そんな褒め殺しで……っ!」
「ちっ」
舌打ちされた。
「でももう頼んじゃったし。捨てるわけにもいかないじゃない? 私も二人分は無理だし」
「そ、そうなんですけど…………うぅ~……!!」
「まあ、滅多に来ないところだから味わって食べることね」
待つこと少し。運ばれてきた料理を、私は一生忘れないと思う。
最後の晩餐に何を食べたい? って聞かれたら、迷わずにロイヤルコース! って言う。
それくらい、未知の体験だった。
お茶だって高いだけのことはあった。あれが“お茶”だって言うなら、普段私が飲んでるのは雑巾の搾り汁だ。
もう普通のお茶飲めないかも。
ただし会計の値段を聞くと、私はプライベートで一生来れることはないだろうなと思う。
でも……幸せだった。
「……その顔は、どうやら満足したみたいね」
「はいっ! それはもう……すっっっっっっごく! 美味しかったです!」
「あはは、はしゃいじゃって。可愛い」
「あ……ごめんなさい」
「なんで謝んのよ」
人のお金で飲み食いしておいて、はしゃぐのは流石に失礼だったかも。
もっと謙虚に謙虚に。
そう、私は家の柱になるんだ。
風景に溶け込んで、周囲と一体化しよう。
「んじゃ、次はここね」
「………………」
無理です、溶け込めません。
一体化するには私のレベルが足りません。
「……一応聞きますけど、ここって……?」
「服屋だけど?」
「……ですよね、見たまんまですよね」
そう、店構えは服屋そのもの。なん、だけど……。
どうしていちいち高そうな店ばかりに行くんだろう。金持ちだから? 金持ちだから高いところに行くの?
私みたいな庶民は、三枚セットでいくら、くらいの場所で良いんですけど!
「さ、行くわよ」
「え、ちょ、ちょっと、心の準備が!」
「そんなものいらない、ほらっ!」
引っ張られながら入店。
風で揺れる服の生地、揺れ方だけで今私が着てる服とはまるで違うのがわかる。
私のはあんなにゆらゆら揺れない。
せいぜいが“ゆらっ……”くらい、わかんないけど!!
「……なんか良い感じに錯乱してるわね」
「金銭感覚の差というか、貧富の差が凄すぎます!」
「それはどうしようもないわね、あたしお金は持ってるもの」
胸を張られる。いや、張られても困る。
その若さで商会長なんだし、頑張ったんだと思う、思うけど!
「さ、この子を良い感じに着飾ってあげて?」
「お任せください!」
「え、いや、ちょっと? シルフィさん?」
店員二人に両脇を抱えられ、ズルズルと引きずられて……。
「ちょ、ちょっと待ってください! ストップ、ストーップ!!」
行く前になんとか止めた。こんな場所、私には分不相応だ。
だから、だから……!
「まずはシルフィさんを着飾ってあげてください!」
「お任せください!!!」
店員さんのテンションが五割増くらい上がった。
そう、分不相応から先に披露するよりも、先に分相応の人から見てみようじゃない。
私のはどうせお目汚しするだけだしね、先に綺麗なファッションショーを見て目を喜ばせよう。
店員さんにズルズルと引きずられていったシルフィさん。最初こそ抵抗していたけれど。
いざお披露目となったら、とことんノリノリだった。ポーズまで取ってるくらい。
ハーフパンツでスポーティースタイル。
フリフリのロングスカートでとってもガーリーに。
普段は商会長らしくフォーマルな格好ばかりしてるから、どんな種類の服でも映えて見える。
「綺麗! 可愛い! カッコいいですシルフィさん!!」
「ふふん、そうでしょ?」
「はいっ!!」
着替えたやつ全部を買うみたいだ。
とっても豪快、かつ上客。
…………さて? じゃあ買い物も終えたことだし、店から出よ――
「じゃ、次はヴィーナの番ね?」
「え"っ?」
「そういう話だったわよね? じゃ、よろしく」
「お任せください!!!」
ズルズルズルズル…………。
に、逃げられなかった……!
色んな種類の服に着替えさせられるけど、シルフィさんと違ってポーズなんかとれない。
どれもこれも私には似合ってないように見えるし、実際に店員さんもシルフィさんも反応は芳しくない。
ほら、ね? 私なんて、なに着ても一緒だし……。
そんなことを考えてる内にまた一着渡される。
言われるがまま試着室に消えて、のそのそと着替え始める。その向こう側。
「……会長様、あの子ヤバくないですか? 何着ても似合うというか……恥ずかしがってるのが逆に可愛いんですけど」
「ええ、ニヤけないようにするのが精一杯だったわ……」
「あの子、持って帰ってもいいですか!?」
「店潰すわよ」
「うわぁぁぁん」
……なんて話が繰り広げられてることを、私は知らない。
もう、これで終わりだと良いなあ。似合わないのに見世物になるのは、辛いよ。
着替え終わり、シルフィさんたちの前に姿を見せる。すると。
「あら……良いじゃない」
「……え?」
「そうですね……シンプルですが、お客様のスタイルを見せるには、とても良いかと」
……なんか、意外だった。褒められるとは思ってなかったから。
そうかな、良いのかな? あ、いや、でも……。
「……でもこれ、ちょっと短くないですか?」
スカートの裾を抑える。これじゃ、ちょっと動いただけで……。
「そこが良いんじゃないですかぁ!!」
「うわビックリした」
店員さんの雄叫び。シルフィさんが仰け反っていた。
「見えそうで見えない! 見えないからこその恥じらい!! 掻き立てられる妄想!!! 可愛いとえっちの融合ですよ!!!!」
「えっちはいらないんですけど……!?」
「ヴィーナをそういう目で見ないで。店潰すわよ」
「だってぇぇぇ!!」
度重なる着せ替えショーで、店員さんの情緒は壊れつつあるらしい。
「でも、本当に良いと思うわよ。ニヤけずに素直に良いと思ったのは初めてだわ」
「あ、ありがとうございます…………ニヤけ?」
「んんっ……なんでもないわ。これ、このまま着ていっても良いかしら?」
「どうぞどうぞ! 請求書はいつものように商会でよろしいですか?」
「ええ、お願い」
「ありがとうございましたぁ!!」
あれよあれよという間に店の外に。
……着替えたままなのに、いいのだろうか……?
「プレゼントよ」
「そんな……こんな高いもの!」
「別にいいのよ。だって私……」
また胸を張る。
「お金は持ってるからね」
「あ、ありがとう……ございます……」
「今度からそれ着て仕事しなさいね」
「……見えちゃうんですけど!?」
「頑張って見えないようにしなさい」
そんな無茶な!
とはいえ雇用主の命令は絶対。
これを着て仕事をするのは業務の一環となってしまった。どうして。
その後は雑貨店を巡り、小物を色々と物色。
今の服に似合うアクセサリーとかも見られていたけれど、もうこれ以上は貰いすぎと告げると、渋々ながらも引き下がってくれた。
時刻は既に夕刻。
そこで、ふと思い出した。
「本当に遊びだったんですか!?」
「うわビックリした」
仕事っぽい内容が一つもなかった。
本当にデート……遊びだったの?
「言ったでしょ、デートだって」
そういうシルフィさんの表情は、真面目そのものだった。
…………本当に、デートだったんだ。
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