6話 新しい剣って、アリですか!?
今日は仕事は休み。空いたオフをどう過ごすか考えていると……。
「というわけで、今日は町に来たわよっ!」
「どういうわけなんですか」
シルフィさんに無理やり連れてこられた。
……あ、もしかして。町にほとんど来たことがない私を観光案内してくれるとか?
服屋、パン屋、雑貨店! 見てみたかったけど、皆の足を引っ張らないために毎日毎日素振りの繰り返し。
そんな私のために……いやでもまさか、そんな……でも、ひょっとしたら……っ!
「まずはここよ」
「………………ここは?」
「見てわかるでしょ」
大通りに面した店構え。両開きの扉の上には、大きく看板が出ていた。
看板の上には…………大きな剣の装飾が。
看板にはこう書かれていた。
『ザイード武器店』
「武器屋、ですね……」
「そうよ? ヴィーナの武器壊れちゃったでしょ、新しいものを買わないと」
「あー…………なるほど……あ~……」
なんだ、仕事の一環かぁ。
少し残念ではあるけれど、仕事だとわかればある意味気が楽になるというもの。
……だよね、仕事だよね。
「それに、個人的にはここの店に恨みもあるからね……っ!!」
私の気を知ってか知らずか、一人燃えているシルフィさん。
彼女の手には布袋が一つ、布袋の中身がガチャガチャと音を立てる。
まるで道場破りかのように勇ましく歩いて行き、勢いよく扉を開け放つ。
カランカランというドアベルの音が何処か不釣り合いな気がした。
「いらっしゃ……これは、カルディラ商会の会長さん。今日はどんな御用向きで?」
奥から出てきたお姉さんが出迎えてくれる。
シルフィさんは何も言わずにカウンターまで歩み寄り……袋をカウンターに叩きつけた。
「これ、どういうこと!?」
「どういうこと……と、おっしゃいますと?」
「絶対に壊れない剣って触れ込みじゃなかったかしら? 一振りしただけで砕け散ったんだけど!」
店主は袋から中身を取り出す。中身は砕け散った剣の破片と、柄。
柄を見て、砕け散った破片を眺めて。
「……確かに、あたしが売った剣ですね『この店で一番高い剣をよこしなさい!』って来たのを覚えてますよ」
「なのに、たった一度、たった一度だけよ? それだけで砕け散った。詐欺じゃない!?」
「いえいえ、これは本当に岩でも竜でも斬れるという謳われた名剣ですよ…………いや、でしたよ!?」
「じゃーなんでイノシシ斬っただけで砕けるのよ!?」
「イノシシでですか!?」
信じられない、といった風の店主。確かに私も砕け散るとは思ってなかったけど。
あの日の呆然としたシルフィさんを見るに、相当高い買い物だったんだと思う。そんな剣を素人の私に渡すなんて、恐れ多すぎるけど……っ!
「この店でもっと高い剣は無いの!? 高くて強くて頑丈なやつ!」
「いや……これが一番高い剣でしたよ、この一振りで店の一年の売り上げ超えますもの!」
「じゃあなんで砕けるのよっ!?」
「やー……そう言われても……」
苛立ちも収まらず、シルフィさんは店の中を物色する。
壁には槍、弓が掛けられており、陳列台には剣が並べられていた。
だけど、砕け散った剣に比べるとどうしても見劣りする。素人判断だから……たぶんだけど?
「あれ」
そう言って指したのは、カウンターの向こう側の壁にかけられた剣。
値段は書かれておらず、ただの装飾用かと思ったけど、どうも違うらしい。
店主がシルフィさんに値段を告げる。とんでもない金額だった!
そんな高い剣じゃなくていいです! もっと安いものでーっ!!
「さすがカルディラ様、お目が高いですね。どうしましょう、このままお持ち帰りに――」
「試し斬りしたいんだけど」
「は?」
「試し斬り」
「え、っと……いや、それは……」
そんなサービスやってないんですけど。みたいな表情で困り果てていた。
とはいえ、シルフィさんが言うには『前買った剣も試し斬りをせずに買ったら、こうなったんだけど?』とのこと。
グイグイと押すシルフィさんに押し負けた店主は、渋々頷く……いや、頷かされる。
ここで私は思った。
私の剣……当事者のはずなのに、蚊帳の外だな、と。
「じゃあ裏へ……丸太を用意しますので」
「ちなみにこれタダにしてもらうからね」
「はぁっ!? そんなご無体な!!」
「無体も舞台もあったもんじゃないでしょ、ならなに、前の剣の代金返金してもらうけど!?」
「う、ぐっ……………………………………わ、わかり、まし、た……っ!!」
ギリギリと歯ぎしりが聞こえる。
血を飲むような決断。俯いた店主が血涙を流していたとしても不思議じゃない。
……なんというか、ごめんなさい、私のせいで。
しばらくして、裏へと呼ばれる。ちょっとした広さの裏庭には、立派な丸太が立てられていた。
「岩とかないの? 持ってきてくれない?」
「無茶いわないでください」
「ま、しょうがないか……はいヴィーナ」
「え? あ、わっ……はい」
剣を渡される。綺麗な剣だけど……本当にいいの?
シルフィさんを見ると、頷きが返ってきた。いいみたい。
構えて、息を吸って、吐いて。そしてもう一度吸って――振り上げた。
右から斜め下に振り下ろす。
あっという間に振り抜いた。まるで丸太の感触を感じなかったけど……?
「こ、こいつは……」
「ふふ、さすがヴィーナ」
何故か得意げなシルフィさんだった。
丸太を見てみると、確かに斬れてる。私が振った軌道通りに。
断面図が綺麗に映り込む。
実はこれ……すごい剣なんじゃ?
パキン。
……何の音だろう?
「あ、あああああああぁぁぁああっ!?」
「あーあ」
私の手の方から聞こえた気がするけど……まさか?
そのまさかだった。剣は柄だけを残し、剣身はバラバラに砕け散って地面に落ちる。
……丸太を斬っただけで、こうなるの?
「やっぱり謳い文句は大げさだったってことね」
「いやおかしいでしょう!? 丸太斬っただけで剣が砕け散るなんてありますか!?」
「でも現にそうなってるじゃない」
「そうですけど! そうなんですけど!!」
店主の人の血管が切れそう。
あの人からしてみれば、今店にある一番高い剣を無理やりタダにされた挙げ句、目の前で砕け散ったんだから。
……もしかして、私の剣の振り方が悪いのかな?
自己流だし、悪い部分があるのかも?
「じゃあなに? うちのヴィーナが悪いっていうの?」
「砕け散った瞬間は、正直そう思いました。ですが……構えはとても綺麗で、大変洗練されて美しかった。素人が出来る構えじゃありません」
「あ、あはは……どうも」
真正面から褒められて、ちょっと恥ずかしい。
「だからこそ不思議でならないんです。何故斬っただけで砕けるのか。欠けるでも折れるでもなく、砕ける」
「実はヴィーナが相当な怪力で、剣が耐えられないとか? ちょっとさっきの斬った丸太持ってみてくれない?」
言われた通り持ち上げてみようとするけど……っ。
む、無理……っ! 重くて持ち上げられない……っ!!
「無理…………無理です……っ」
「お嬢さんが特別怪力であるわけでもない、と」
「じゃあ、次は二番目に高い剣を……」
シルフィさんが恐ろしいことを言い出した。
考え込んでいた店主だけれど、その言葉で我に返って大慌て。
それに私も困ってしまう。今も高い剣を砕いてしまって、心臓がバクバクしてるっていうのに。
……これ、店主の人かシルフィさんに弁償しないとダメかな……!?
「ま、待ってください! カルディラ商会長、一度だけ試してほしいことがあるんですが!!」
「なにかしら? あたしもヴィーナも暇じゃないんだけど」
「これで……お嬢さんに斬ってみて欲しいんです」
裏庭にある木箱。その中に放り込まれた一振りを。
剣身は歪。柄の握り心地は悪く。軽いことだけが今までの二振りに勝ってる点かな?
でもその軽さにも理由があって……。
「……これ、失敗作よね?」
そう、どう見ても失敗作。どれだけ贔屓目に見ても売り物には到底見えない。
「ええ、あたしの弟子が作ったモンなんですがね。見ての通り、まーひどい。本来ならこれで斬れるものなんてありはしないんですが……」
確かに、刃はちゃんと引かれていなくて、ところどころ潰れている。
これなら家庭用の包丁の方がまだ切れるかも。そんな失敗作。
「じゃあ一度あんたが振ってみなさいよ」
「あ、あたしですか? あたしは基本売るのが専門なんですが……」
「ならあたしは買うの専門だけど!?」
なんでそこで威張れるんだろう。
とはいえ店主も言う通りにしてみる。剣を構えて、振り下ろす。
丸太の側面を打った剣は、丸太を横倒しにしただけで切り傷一つつけていない。
「……とまあ、こんな感じですね。なまくらにも失礼なくらいのなまくらです」
「じゃあ……やってみます」
剣を改めて受け取り、構える。
軽い分さっきより振り下ろしやすかった。
そして、斬れるはずがない剣での結果は……。
「斬れ……てる?」
「……てます、ね」
そう、さっきの高い剣と似たような切断面。そして……。
砕け散るのも、一緒だった。
「非力ですが、剣を握れば何でも斬れる。だけど使った剣は砕けて二度と使い物にならない……とんでもない鍛冶師泣かせの剣の使い手ですね……」
「褒められてるのか……怒られてるのか……」
「あたしもどっちに傾けば良いかわかりません。お嬢さんが振ればどんな名剣でも砕けてしまうのですから」
そう言われると怖い。
知らない間に振った剣が国宝級の名剣だったら?
もしも砕いてしまったら? っていうかなんで砕けるの? 普通に振ってるだけなのに!!
「じゃあ、えっと……どういうこと? ヴィーナに高い剣を持たせても、意味ないってこと?」
「そうなりますね、むしろ高い剣を持たせた方が出費がかさみます」
「なんて、なんてピーキーな……」
「なんかごめんなさい……」
「剣聖の始まりのストーリーって、こういう不思議な話からスタートしたりするんですよね……まあ、ただのおとぎ話なんですけど」
とりあえず高い剣を買う必要がなくなった、というのは大きい。私の心労に対して、だけど。
シルフィさんはカゴに入った安物の剣をカゴごと購入。カルディラ傭兵団に配達を頼んで、店を出た。
「まさか、使った剣を必ず壊してしまうとはねー。店主にも原因はわからなかったみたいだし」
「ごめんなさい、金食い虫で…………いざとなったら、落ちた木の枝で戦いますから……っ!」
「そんな卑屈にならないでよ。でも、どうにか出費は抑えていかないとね」
店を出たけど日は高い。
帰ったところでやることは素振りくらいかな……。
そう思っていたら。
両手を上に上げて、体の筋を伸ばしながらシルフィさんから思わぬ提案が。
「…………んじゃ、用事も終わったし。デートにでも行くわよ」
「あ、はい…………………………え?」
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