5話 初めての実戦って、アリですか!?
新たな仕事を受けてきた。
そう聞いた私たちが訪れたのは……。
「農場……?」
「最近イノシシが作物を荒らすみたいなの。ここの農場主の人も高齢だし、あたしたちに白羽の矢が立った……というか捩じ込んだってわけ」
農場を一通り回ってみると、なるほど。
木の柵は一部が壊れていて、そこから動物の足跡がたくさん見つかった。
流石に足跡では判別できない。少なくとも私は。
「うん……この足跡はイノシシだね、間違いないよ!」
「リースさんはわかるんですか?」
「まあねっ、リースの生まれたストレニア村は農村だったの! 一つの家に一つの畑があるくらいだったんだよ、だから野生動物の足跡を見つけたりとかは必須スキル!」
「そうなんですか……」
つまり今回は、生き物が相手ということ。
イノシシたちも食事をするために必死だろうし、妨害すればたぶん襲ってくると思う。
生きてる動物に、手をかける……。
「今からビビってらんないわよ? これからはどんどん段階踏んでキャリアを積んでいくんだから。いずれ言葉を話す相手にも剣を向けないといけないんだからね?」
「わかってます。わかってますけど……」
「それにヴィーナ、あんたなら大丈夫よ。助けてもらったあたしが保証する」
でも、肝心の本人に記憶が無いんですよね……。
……うん、大丈夫。震えるのはまだ早い、怖がるのは相対してから。
想像だけで震えるのは気が早い……はず、うん。
「んじゃ、あたしは帰るから」
「え、帰るんですかっ?」
「だってあたし戦えないもの。いたって邪魔になるだけだし」
シルフィさんは背を向けて去る…………ところを振り返った。
「理想は巣を見つけて駆除することだけど、最低でも一頭は仕留めること。そしたら今日は猪鍋よ!」
「わーい、お鍋だー!!」
「ライラ、今日はサボるんじゃないわよ。ユノは……どっかにいるでしょ、皆が危なくなったら手を貸すように。リースは…………そうね、ヴィーナの言うことをよく聞くこと」
そして今度こそ去って行く。
残されたのは、連携が不十分過ぎる傭兵団。
正直不安しかない、それは皆がサボるかもということ?
ううん、そうじゃない。
……私の剣が、本当に通用するかどうか。
野生動物とは言え、これは実戦。
家でやってきたのは素振りだけで、それだけで自信がつくわけもなく。
不安だ、不安しか無い。
胸の中がざわざわしているところに、ライラさんの大きなあくびが聞こえてきた。
「……ふぁぁ……んじゃ、いなくなったし寝るね」
「えっ……!? サボっちゃダメって言われたのに!?」
「この場にいないんだから、サボってるかどうかわかんないじゃない?」
「いや、私たちがいるんですけど……」
私たちがサボってた、と正直に言う可能性は考えていないのかな?
ライラさんは私たちを品定めするように見回す。ちなみにユノさんは既に姿を消してた。
「ま、そん時はそん時でしょ。クビになるならまた別の仕事を見つけるだけだし」
「そんな行き当たりばったりな……」
「行き当たりばったりでいいんだよ、努力して頑張っても、報われるとは限らないんだから。適当に、ゆるーく生きていけばいーの」
茶色の長い髪をボリボリとかきむしりながら背を向ける。
いつもならそのまま見送るだけなんだけど……今回は違う。
遠ざかっていく背中を、呼び止めた。
「お願いします……今回は、手伝ってもらえませんか?」
「えぇー……めんどく…………ってどうしたの、震えてるけど」
「あ、あは……怖いんです。シルフィさんは何故か私を評価してくれてますけど……正直、身に余るほどの期待で……」
「…………」
野生動物といっても、そのキバやツノは十分に死に至る可能性がある。
私が怪我するだけならいいけど……万が一。
人に指示なんてしたことない私がリーダー。指示ミスで誰かが怪我してしまうと考えたら、怖くて仕方がない。
「…………はぁ」
ライラさんの大げさ過ぎる程の溜め息。
「頑張りすぎない程度だからね? 疲れたらやめるからね?」
「……っ、はいっ! ありがとうございますっ!」
「二人ともー!! 林に続く足跡見つけたよー!!」
畑の外側で痕跡を一人探していたリースさんが手がかりを見つけたみたいだ。
腰に差した剣をギュッと掴む。
震える私をまるで庇うかのように、ライラさんが一歩前にでてくれる。
手には両刃の斧。長身な彼女に映えるように馴染んでいるように見えた。
「ヴィナちゃん行くよ。さっさと終わらせて、猪鍋をたくさん食べよ」
「……はい!」
リースさんが見つけた痕跡へと向かう。
左右が生い茂っているのに対して、そこは草が踏みしめられたかのように折れている。
まさに獣道、ここを通って畑を荒らしているはず。
「ここを辿っていけば?」
「うん、巣に近付くと思う。でも気をつけてね、巣に近付けば近付くほど、イノシシは凶暴になるから!」
言いながら盾を背負うリースさん。
華奢な体の半分を覆い隠すほどの盾は、とっても不釣り合いに映る。
……どうして、盾なんだろう?
そんな私の疑問に気付いたのか、ライラさんが補足してくれた。
「シルフィちゃんが言うには、うるさいからだってさ。うるさいから注意を引きやすいとかなんとか」
「そんな理由で!?」
「まあいいんじゃない? リースちゃんも気にしてないみたいだしね」
そういうものなんだろうか。
まあ、いいか。私も人にとやかく言えるほど武器に詳しいわけじゃないし……。
今はそれよりも、ライラさんが手伝ってくれることに感謝しよう。
「……なに? こっち見てニヤニヤして」
「いえ、ライラさんと一緒に働けるのが嬉しくて」
「は……?」
きょとんとするライラさん。
マイペースだった彼女が、渋々とはいえ一緒に働いてくれるのは嬉しい。
なんだけど、何故かライラさんまでニヤニヤし始めた。
「シルフィちゃんからアタシに乗り換える気なの~?」
「乗り換えって……別に、そういう意味で嬉しいわけじゃ……!」
「へぇ~……そうなんだ? 違うんだ?」
何故か攻守が逆転した。というか攻守ってなんだろう。
そんな時、リースさんの大声が林の中に響き渡る。
「みんなー! 巣を見つけたよー!!」
「普通は巣に近付いたんなら静かにした方がいいんじゃ?」
「そうだね。まぁあの子がそこまで考えてるとは思わないけど」
リースさんが指差す方向から、ガサガサと物音がする。
彼女の大声で気付いたのか、それとも足音で元々気付いていたのか、それはわからないけど。
鼻息荒く姿を表したのは、二頭のイノシシ。
つがいなのかな、巣に近付いた外敵に対して威嚇し続けてる。
「リースさん、盾を構えて注意を引いてください! イノシシの走る軌道が私たちに向けてなら、間に入って庇ってください!」
「りょーかい、任せてー!!」
私とライラさん、そしてイノシシの間に立ちはだかるように盾を構えて、重心を落とす。
そして。
「んっ……!!」
ぎゅっと目を瞑った。
……え、なんで? なんで目を瞑るの?
「さー来い!!」
「り……リースさん!? 目を瞑ったら来ても見えないですよね!?」
「リースが守ってやるー!!」
聞いていない。
ライラさんをチラリと見ると、溜め息を吐いて肩を竦めていた。
イノシシは前脚を蹴り、二頭とも走り出してくる。
…………リースさんの脇を抜けて。二頭とも武器を構えた私たちに。
「楽だね、猪突猛進……っていうの、はっ!!」
ライラさんはイノシシと触れる直前に身を翻し、胴体に深々と斧を振り下ろす。
イノシシの甲高い悲鳴。ジタバタと暴れながらも、やがて絶命した。
「ヴィナちゃん、いけそー?」
「が、頑張ってますぅ!」
一方私はライラさんみたいに華麗に倒せずに、突進を何度も横っ飛びで避けていた。
髪や顔はドロドロ、服の中に枯れ葉がいくつも入って、気持ち悪い。
け……剣を振るタイミングが、わかんない……っ!
「闘牛士ごっこ?」
「違いますっ!」
息が上がる。自分の体力がどんどん減っていくのがわかる。
いつまでも避けてもいられない。
よ、よし……次、向かってきたら……。来たっ!
「え……えぇい!!」
イノシシが向かってくる軌道上に、剣を横に向けて大きく薙ぎ払う。
ガチン、と何かが触れた手応えが柄から腕に伝わってきて、そして……。
「……えっ!?」
驚いた声はライラさんのもの。
なんだろう、と後ろを振り返ると。
そこには、イノシシが上と下に分かれた亡骸があった。
そして、次の瞬間。剣が砕け散った。
……剣って、砕けるモノだっけ……?
「イノシシって……そんな紙みたいに斬れるもんじゃないよね……?」
「……たぶん? 野生のイノシシって見たの初めてですけど……」
「…………シルフィちゃんがリーダーに据えるだけの事はあるのかもね。とはいえ……毎回武器を砕くのは燃費悪そうだけど」
「わ、私じゃないですよ……そう、きっと剣が脆くなってたんです!」
そういうことにしておきたい。じゃないと私が怪力っていう不名誉なレッテルが貼られてしまう。
そんなことない、だって重い物持てないし!
「ま、別にいいか。とりあえず任務は達成ってことで……ってリースちゃん、危ない!!」
「んぅ……?」
まだ目を瞑ってた!!
そんな彼女の背後から、もう一頭。三頭目がヤブの中から現れた。三頭目のイノシシは、リースさんの背中に向けて突進していく……!
「リースさん目を開けて、避けて!」
「えっ?」
ようやく目を開けたリースさん。後ろを見ると、そこには既にイノシシが目の前に……!
「……あれ?」
あわや直撃、というところで。
イノシシは突然倒れた。
「一体何が……」
「ユノちゃんかな」
ライラさんが指を差すと、そこには頭に深々と突き刺さった矢が。
「彼女はクロスボウを使うみたいでね。どこかから見てるんじゃないかな?」
「な、なるほど……ユノさん、ありがとうございます!」
「あ……ありがとー? ユノちゃん……?」
未だ何が起こったか理解できていないリースさんは、釣られるように礼を言う。
「……ふんっ」
どこかから不機嫌そうな声がした。
……一時はどうなることかと思ったけど、兎にも角にも……。
「終わったね、おつかれ」
「お疲れ様です……ありがとうございます、手伝ってくれて」
「いいよ………………たまには、頑張るのも良いもんだったし」
「ライラさん……」
「でも! サボる時はサボらせてもらうからね?」
それで十分。
日進月歩、ちょっとだけでも近付けたなら、それで良い。
…………そして、その夜のこと。
「くだ……けた……? 一番高い剣を買ったのに……? うそ、ホント……?」
「ごめんなさいシルフィさん……!!」
「い、いいのよ……? 命を守るための道具だからねー……? あは、あはははは…………っ」
報告すると、虚ろな目で笑うシルフィさんがそこにいた。
……本当にごめんなさい~!!
読んでいただきありがとうございます。
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