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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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4話 歓迎会は、アリです!


 傭兵らしくない初仕事を終えて全員で家に帰る。

 家に入ってまず気付いたのが……なんか良い匂いがする、ということ。

 私以外の皆も気付いたみたいだ、鼻をひくひくとさせている。

 匂いに導かれるように食堂に行くと……そこには、豪勢な料理!!


「初めての依頼お疲れ様、っていうのと……ヴィーナの歓迎会も兼ねてね」

「私の……? あ、ありがとうございます……!」

「いいのよ、じゃあ全員席につい…………ってもうついてるし」


 立ってるのは私とシルフィさんだけ。他の皆は豪華な料理に目を輝かせていた。

 いつもは表情が見えないユノさんですら、フードとマスク越しに嬉しさを表現しているみたい。


「シルフィちゃん、早く早く!!」

「ちょっ……ライラ、急かさないで! えーと……そうね、何を言おうかしら」


 全員がグラスを持って、傭兵団の雇用主であるシルフィさんの音頭を待つ。

 視線を一身に浴びても臆する様子はない。流石に人前に出るのは慣れているらしい。


「とある目的で作ったこの傭兵団だけど、まずは初仕事お疲れ様。傭兵っぽくないって思ったでしょうけど、最初から命のやり取りなんてさせられないわ」

「ボスー、目的ってなんなのー?」

「そりゃもう、あたしの最後の砦よ。うら若き乙女が商会長として商売に成功してたら、妬む奴らの多いこと多いこと。いつ寝首をかかれるのかってヒヤヒヤしてるんだから」

「……だから、わたしが毎日護衛してる」

「そうね、ありがとユノ」


 ……そうか、確かにそうかも。

 カルディラ商会。この国……ヒザーク王国では五本の指に入る大きな商会。

 引きこもりだった私にはよくわからないけれど、五大商会のうち一つの会長がここまでの若さだと、好意的な目で見てこない人も少なからずいるのかもしれない。


「ま、だからこの傭兵団はあたしの逃げ場所でもあるし、守ってもらう盾と剣でもある。あとは他にも理由はあるけど……今はそれはいいわ」

「……?」


 何故か私のことをじっと見てる。

 なんだろう、と小首を傾げるけど答えが貰えるわけもなく。音頭も終わりに近付いていた。


「だからこれからも真面目に働いて、私の背中を守ってちょうだい。乾杯!」

「乾杯!!」


 全員の声が揃う。仕事でもまったく息が揃わなかったのに、こういう場では揃うみたい。

 ……そう、今回は納得がいかないことがたくさんあった。


 厩舎の掃除。それはいいんだけど。

 始まって早々ライラさんは寝るし。

 リースさんは……頑張ってるけど、空回り。

 ユノさんはその場にすらいなかった。


 でもシルフィさんの号令で皆が作業をすると、あっという間に終わった。

 私に人望が無いのはわかってる。だけど、これがもしも戦いだったとしたら……私一人で戦う羽目になるの?

 ……それは、ゾッとしない話だ。


「ヴィ~~~ナッ! 何難しい顔してんのっ!?」


 妙にテンションが高く、私に抱きついてきた。

 ニヤニヤと何処か楽しそうに、私の首根っこに捕まる。


「わっ……シルフィさん……酔ってるんですか?」

「酔ってるわけないでしょ、ジュースだもんこれ。今はただ絡んでるだけー」


 シラフで絡み酒みたいなノリらしい。

 それだけ無事に済んで嬉しい……ってことなのかな?


「シルフィさんはすごいですよね、皆を声一つで動かせる。今日の私には出来ませんでした……」

「…………まー、あたしは雇い主だからね。でも大丈夫よ」

「何がです?」

「いつかヴィーナについてくるから。今のあたしがそうであるように、ね」


 シルフィさんが、私についてきてる……?

 そんなことはずあるわけが……私はただ引きこもっていただけなのに。


「だって、この傭兵団はヴィーナのために作ったんだから」

「え……それって、どういう……?」

「えっへへ、飲みなさい、食べなさいーっ! 残したら給料から差っ引くわよーっ!!」


 誤魔化したのか、それとも雰囲気に酔ってるのかわからない。

 だけど聞き間違いじゃない。私のために傭兵団を、作った……?

 どういうことか……っていうのは、今は聞いても答えてくれないだろう。


「…………よしっ」


 でも、どっちでもいい。

 私のためであろうと無かろうと。

 シルフィさんに引っ張り上げてもらった恩は、しっかり返さないと。


「……って、もうこんなに減ってるっ!」


 ちょっと目を話した隙にテーブルの上の料理がすごい勢いで減ってた!

 たぶんリースさんだろう。だって彼女ほっぺたがすごいことになってる。

 まずは……皆と仲良くなろう。

 私のことを知ってもらえれば、私も皆のことを知れば、きっと上手くいくはず。

 ……たぶん。


「ライラさん」

「ん? ヴィナちゃん、どしたの?」


 テーブルの隅で、ちびちびとお酒を飲みながら賑やかなテーブルを眺めている。

 といっても、賑やかなのはシルフィさんとリースさんだけで、ユノさんは一心不乱に食べていた。

 ……もしかして、一番食べてるのは彼女かもしれない。いや、やっぱりリースさんかも。


「アタシみたいな不真面目な女よりも、賑やかな輪の中に入りなよ。その方が楽しいよ?」

「……わかっててやってるんですか?」

「ん? あー……そうだねー……」


 コップの水滴を指で掬い、テーブルの上に落として指で伸ばす。

 その行為にどんな意味があるのかわからないけど、指の動きを思わず目で追いかけていた。



「アタシはね、真面目にするつもりがないんだ。この仕事だっていつクビになっても良い」

「どうしてです?」

「それはアタシが………………ま、気にしなくてもいいよ」


 少し待ってみたけれど、言うつもりはないみたいだ。

 確かに一緒に住み始めて数日の関係。しかもほとんど会ってすらないし、話してもいない。

 胸の内を聞くのは早すぎるのかも。

 だから……。


「私はライラさんとも一緒に仕事がしたいですよ。今日はアレでしたけど……命を預け合う仲間なんですから、私は皆を知りたいです」

「ヴィナちゃん……」

「ごめんなさい、勝手に土足で上がるような真似をして」

「……嬉しいよ、うん。でも、もう少し待ってくれない? アタシもそう簡単に生き方は変えられないからさ」


 確かに。

 私はシルフィさんに力付くで外の世界に連れ出された。だから適応するしか無かった。

 でも私にはそんな強引なことは出来ない。

 私に出来るのは、扉を開けておいて出てくるのを待つくらい。


「わかりました」

「ん、ありがと。じゃあ食べに行こうか、リースちゃんに全部食べられちゃうよ」

「あはは、そうですね」


 自分のグラスを持って、宴の中心へと。

 ただただ仕事を人に任せてるわけじゃない。ライラさんは彼女なりの理由があるみたいだ。

 その理由はわからないし、心をひらいてくれるまでの間負担は強いられるけど……。

 でも、私は出来るのは信じることだけ。なら、信じよう。

 幸い厩舎の掃除とかなら、頑張れば…………うん、重労働だけど、うん。


「あ、ヴィーナちゃん! すっごく美味しいよこのお料理!」

「リースさんその膨らんだお口でよく普通に喋れますね」

「すごいでしょ!」


 すごいけど。

 次に私が目を向けるのは、ユノさん。

 彼女は謎、その一言につきる。

 謎だからこそ、理解したい、の、だけど……。


「あの、ユノさ――」

「うるさい」


 睨まれる始末。

 まだ対話に応じてくれるライラさんとは違い、彼女は取り付く島もない。


「でも――」

「話しかけないで」


 にべもない。

 背中を向けてもぐもぐと食べだした。

 …………でも。


「可愛い……」


 マスクを取った姿を始めて見たけど。

 あんなに可愛い顔してたなんて……!!


「む…………誰が可愛いって!?」

「ちょ……シルフィさん!?」

「可愛いのはこのあたしでしょ!」

「そう、一番可愛いのはシルフィ」


 ここぞとばかりにユノさんが話に乗っかってくる。

 それはいいんだけど、シルフィさんに絡みつかれてる私を見て、睨むのだけはやめてほしい。


「こらヴィーナ! あたしを可愛いって言いなさい!」

「ほ……本当に酔ってませんか!?」

「酔ってないわよ、ジュースだもん!」

「……あ、間違ってアタシのやつ飲んでるかも」

「ライラさん!? ちょ……っと、シルフィさん、グラス置いてください!」


「許さない……!!」

「ユノさん敵意を飛ばさないで!?」


「おいしー!!」

「リースさん皆の分残しておいてくださいよ!!」


 ……と、まあ。こんな感じで。

 初仕事お疲れ様、アンド私の歓迎会は。

 とっても騒がしい感じで終わったのでした。

読んでいただきありがとうございます。


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