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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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3話 一人で全部なんて、アリですか!?


 傭兵団に来て、数日が経った。

 今のところ、傭兵団のみんなと仲良くなれた感じは……しない。


 ライラさんはずっと部屋に引きこもって寝てるし。

 リースさんはあちこちを走り回ってて捕まえられない。

 ユノさんに至っては何処にいるのかわからない。


 食事こそ一緒だけれど会話もなく、同じ家に住んでるけれど、まるで他人みたいな生活。

 こんな状況で、何かと戦うってなった時に……上手くいくのかな。

 今のところ不安しかない。


 そんな不安しかない状況で、シルフィさんが仕事を持ってやってきた。


「さあヴィーナ! 剣聖としてのサクセスストーリーを作りに行くわよ!」

「傭兵団としてではなく……?」

「もちろん傭兵団としても、よ! 栄誉と名声は後からついてくるものなのっ!」


 いよいよ、いよいよだ。

 傭兵としての初仕事。心臓が速まるのがわかる。

 息が上手く出来ない。そんな状態で連れてこられたのが…………。


「厩舎?」

「そ、今日のあんた達の仕事は、厩舎の清掃よ」


 ここは南にある王都、ヒザークの首都。

 ……の町外れにある、大きな牧場。

 農業が盛んなヒザーク王国には、農耕用の牛が欠かせない。

 それに広大な土地を移動するには馬も欠かせない。だから厩舎ひとつにしても、とってもだだっ広い。


「これが傭兵の仕事ですか?」


 文句があるわけじゃない。むしろ命のやり取りをするよりかは大歓迎な仕事。

 大変だし、疲れるし、動物たちの糞尿もばっちぃけど。生きるか死ぬか、よりはよっぽどマシ。

 だけどシルフィさんは私が文句を言ったのだと受け取ってしまったみたいで、大きな溜め息を吐いた。


「あのねえ……立ち上げたばかりの傭兵なんて、実績も信頼もゼロなの。不安要素しかない傭兵相手に、前線依頼なんて来るわけないでしょ?」

「いや、良いんですけど……。厩舎の掃除をして得られる実績って、掃除上手くらいなものですけど……いや、良いんですけどね……でも、これが剣聖のサクセス……ストーリー……?」

「あーもう、ごちゃごちゃうるさいわね! せっかく貰ってきた仕事なんだから、笑顔で受け入れるくらいしてみなさいよ!」


 それは確かにそう。私の雇用主はシルフィさんなのであって、彼女が持ってきた仕事なら私に拒否権はない。

 ……まあ、プラスに考えよう。ずっと素振りだけしていても不安ばっかりだったし、そんな状態で戦場に行くのもイヤだ。

 ここなら命の心配はない。馬に蹴られて死ぬかも知れないけれど、ここには恋路なんて無いし、馬も放牧されてる。それに四人でやればすぐに終わるはず。


「はい、頑張ります……っ!」

「…………っ」

「……どうかしましたか?」

「いきなり笑わないでよ、少しドキッとしたじゃない」

「笑えって言ったのに……」


 兎にも角にも初仕事。

 シルフィさんは商会長だし、雇用主。仕事には参加せずに商会へと戻って行った。

 つまり、ここには私を含めた四人が………………。


「……あれ、ユノさんは?」

「知らなーい、いつものことじゃん? ……ふぁぁ」


 いきなり一人脱落したみたい。

 教えてくれたライラさんも、退屈そうに大きなあくびをしていた。


「んじゃ、後よろしくー」

「はい…………って、えっ!? 何処行くんですか!?」

「眠いから昼寝してくる。んじゃ、頑張ってねぇ」

「え、いや、あの、ちょっとっ!?」


 背中越しにひらひらと手を振りながら何処かへと行ってしまった。

 ……ウソでしょう? 二人で、この広い厩舎を……?


「悩んでいてもしょうがないよ! やろやろ!」

「そ……そうですよねっ、とりあえず手を動かしましょう!」


 まずは敷き詰めた藁から、汚れてるモノとそうでないモノを分ける。

 剥き出しになった地面を掃き掃除して、水桶と飼い葉桶の中も掃除する。

 で、後は綺麗な藁を敷き詰める。これを全部やる。

 ………………終わるかな? 不安になってきた。


「ヴィーナちゃん、水桶キレイにして水入れてきたよ…………ってわきゃーっ!?」


 なみなみと注がれた水桶を持ったまま走ったリースさんは、盛大にすっ転ぶ。

 リースさんは頭から水を被り、辺り一面はびしょびしょ。


「あちゃー、やっちゃった……。ごめんね、すぐに拭くからっ!!」

「リースさん、そっちは……!!」

「わーっ!?」


 藁の中へとダイブした。しかも汚れた藁の方に。

 藁は飛び散り、他の綺麗な藁に混ざっていく。


「うう……ドロドロ……」

「あ……洗ってきた方がいいですよ……」

「そうするぅ……」


 ぽつん、という擬音が似合うかも。

 広大な厩舎に、私一人。

 ……ウソでしょう? 一人で、この広い厩舎を……?


「……帰れるのかな」


 呟いた一言は、妙に現実味を帯びていて。

 少し血の気が引いていくのがわかった。

 でも、作業はしないと。帰るのがどんどんと遅くなってしまう。


「それにしても……」


 一心不乱に手を動かしながら、考えるのは仲間の三人のこと。

 ライラさんは非協力的。如何に自分が楽をするか、が一番最初に来てるみたい。

 リースさんは、一生懸命なんだけど何処か空回りしてるというか。悪気は無いんだけど……。

 ユノさんは今日……ううん、顔合わせ以来姿を見ていない。本当に住んでるのかな?


 協調性は無く、意思の疎通も難しい。

 今回は掃除だからまだマシだけど……戦場でも、こうなってしまうと考えると……。


「……あれ? 私、いつの間に……」


 いつの間にか、戦うことを受け入れている自分がいることに驚く。

 バカ高い違約金は支払いたくないから、受け入れるしか無いと言われれば、そうなんだけど。

 私がやってきたのは、子どもの頃裏山で遊んでた記憶くらい。

 友好的な動物もいたけど、見た途端襲ってくる動物もいた。

 そういうのは木の棒で追い払ったりしてたけど、ああいうのも戦いっていうのかな。違う気がする。


 戦いの真似事みたいな記憶しか無い。そんな私が、シルフィさんを助けた……らしい。

 そのことでひどく過大評価を受けてる。

 ……まあ、私みたいな人間は手酷い罰を受けるくらいがちょうどいいかも。

 メール村を襲った魔物。

 その魔物たちの封印を解いてしまった私なのだから……。


 忘れたい過去を思い出しつつ、手を動かし続ける。

 だけど、終わるわけもなく。


「……全然進んでないじゃない!?」

「あ、お疲れ様です……」

「おつかれ……じゃなくて、他の皆は!?」


 商会の仕事が一息ついたのか、シルフィさんが様子を見に来た。

 だけど一人では限界がある、ギリギリ半分終わったか終わってないか。その程度の進捗状況。


「えっと……」

「いや、いい。言わなくてもわかる。ライラはサボり、リースは戦力外通告、ユノは姿を見せてすらいない、でしょ?」

「すごい、さすが」

「まったく……まったくまったくまったくもう……! まともな人材を集められなかった、あたしの落ち度だわ……!」

「そんなこと……」



 人選が間違ってるのだとすれば、リーダーに据えられてる私が一番人選を誤っている気がするけど。

 私よりも先に来ていた人が間違ってるとか、そういう判断は私には出来ない。


「どんな仕事でもして、協力的で、しかも女! そういう人を求めてたけど……当たってるのは女って部分だけじゃない!」

「どうして女性限定なんですか?」

「え? 私が作った傭兵団だもの、むさい男なんて邪魔なだけじゃない」


 そんな理由だったんだ。

 今となっては遅いけれど、男性もいた方がここの仕事は早く終わったはず、たぶん。

 とはいえ、ずっと引きこもってた私からしてみれば、知らない人は怖い。

 知らない女性も怖いし、知らない男性は……もっと怖い。

 もしかしたら、私の事情を汲み取ってくれたとか?

 ……そんなわけないか。


「はいはい、ライラ、ユノ!! さっさと終わらせちゃいなさい!」


 パンパンと手を叩く。だけど寝に戻ったライラさんと姿すら現さないユノさんに聞こえるわけが……。


「ふあああぁぁ……しょうがない、やりますかぁ~」

「えっ!?」


 ライラさんが綺麗な藁の山の中から出てきた!

 そんなところにいたんだ!?


「まかせて」

「ユノさんまで!?」


 いつの間にか姿を見せていたユノさんが、瞬く間に綺麗な藁と汚れた藁を選別していく。

 重いはずの飼い葉桶と水おけを、いくつも重ねて運ぶライラさん。

 ……一人でやってたのがバカみたいなくらいに早く終わりそうだ。


「ほらほらヴィナちゃんも、サボってないで働いてね?」

「……私半分頑張ったんですけど、一人で。それと、ヴィナって私のことですか?」

「うん、ヴィーナって伸ばすのいらないかなって」

「そこはめんどくさがらないで欲しかったです……」


 三人で働くと、ウソみたいな速度で進んで行く。

 そこに。


「ただいまー! リースも手伝うっ!!」


 蘇る記憶。水桶をひっくり返し、辺り一面水浸しにした後、汚れた藁の山にダイブする姿。


「はいはい、リースは今日あったことを聞かせてくれる?」

「うんボス! あのね、今日ねっ!!」

「よーし、シルフィちゃんが気を引いてくれてる間に終わらせちゃおうか」

「……はい、そうですねっ」


 私が半日かけてやった敷地半分の掃除。

 三人でやった残り半分の掃除は、分担したお陰ですぐに終わった。

 ……最初から手伝ってくれればいいのに。


「やーよ、眠いもの」

「そんなぁ……」

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