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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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2話 傭兵団って、アリですか!?


 商会でサインをさせられた後、連れてこられた場所で、私はあんぐりと大口を開けた。

 アーチをくぐると、中央には広々とした中庭。

 中庭をぐるりと半分囲むようにL字の長い家が建てられていた。

 なんというか……すごく、高そうな家だった。


「あ、あの……シルフィさん……私はここで、何を……?」

「んー……ちょっと待って、顔合わせが先」

「…………」


 初めて会った時から思ってたけど……。

 マイペースすぎる!

 自分の思い通りにならないと気がすまないというか、絶対に思い通りにさせるというか。

 見た感じ、私とあまり年齢も変わらないのに商会長なんて地位にいるんだし、やっぱり多少……多少? 強引じゃないと出来ない仕事なのかな。


「さて……んんっ」


 中央の中庭で咳払い一つ。


「集合ーっ!!」


 大声を張り上げる。み、耳がキーンってする……。

 それから数分後、家の方から人影が現れた。

 出てきた人影は二人。


「おーシルフィちゃん。その子が言ってた子なの?」

「そうよ、あと“ちゃん”付けはよしなさい。それに敬語も!」

「まぁまぁ、堅いこと言いっこなしなし。アタシはライラ、ヴランのライラ。よろしくー」

「よ、よろしくお願いします」


 ボサボサの茶髪をかきながらやってきた女性は、とってもフランクな感じ。

 握手した後に出た大きなあくびを見た第一印象は、少しズボラ……ううん、雑……いや、フランクな印象を受けた。


 次は隣にいる女の子。

 私のことをキラキラと輝く目で見つめてくる。

 …………すごく落ち着かない。


「リースはリース! ストレニア村のリースだよ!!」

「よろしくお願いします」


 本人の明るさと同じく、明るいオレンジ色の髪を揺らしながら私の手を掴んでブンブンと振る。

 ちっちゃなショートポニーがトレードマークの、可愛らしい髪型。……でも、なんで少し右寄りにあるんだろう?


「で、最後が……」

「……最後、って……二人しかいませんけど……」

「いるわよ、ここに」


 当然のように言うシルフィさんに視線を向けてみると……。

 いた。彼女の隣に、まるでシルフィさんの影に隠れるように。


「ああもう……いつまでもあたしにくっついてないで、自己紹介しなさい」

「………………ユノ」

「…………よ、よろしくお願いします……?」


 とても短い自己紹介だった。

 それよりも不思議なのは、格好。

 フードを被りマスクをしていて、見えるのは目だけ。

 フードから覗く毛先から青い髪をしているというのはわかるけど……それ以外は何もわからない。

 あ、一つだけわかったことがあった。

 …………どうしてか、私を睨んでいる。何故か敵意を向けられていた。


「あの……?」

「ほら、あんたも三人に自己紹介しなさい」

「あ、はい。ええと、私はヴィーナ、メール村のヴィーナです。よろしくお願いします」


 頭を下げる。私の頭頂部に向けて口々に『よろしく』という声が聞こえてきた。

 ……これで全員なのかな? 四人……シルフィさんも入れたら、五人?


「うん、これで全員ね。それじゃ、他の三人には既に説明してるけど、ヴィーナのために改めて説明するわね。ここにいる四人で、傭兵団を設立するわ。この建物は傭兵団のために建てた家よ」


 私以外の三人は驚いた様子はない。

 そう、私以外は。


「はあ、傭兵団……傭兵団!?」

「そう、ちなみにリーダーはあんたよ」

「私ですか!? どうして私なんですか!?」

「……おっきい声、出るのね」

「今そんなことはどうでも良くてですね! 無理です、無理無理!! 傭兵ってあれですよね、人と戦ったり魔物と戦ったりとかの、アレ!!」


 そんなこと出来るわけ無い!

 私が遊び半分で戦いの真似事をしていたのなんて、過去の話。昔は木の棒を剣代わりに振り回していたけれど、引きこもって以来握ったりなんてしてないんだから。


「大丈夫大丈夫、いけるいける」

「そんな投げやりなっ!」


 無理。絶対無理。

 商会で働かされるにしても、てっきり雑用だと思っていた。

 なのに傭兵? 戦うことを生業とする、あの?

 すぐに死んでしまうのがオチ。断らないと……!


「じゃあ、違約金払うのね?」

「………………うっ」


 そう、あの雇用契約書には罠があった。


『自己都合による退職を行った場合、不履行として違約金を支払うこと。その金額は――』


 目玉が飛び出るような金額だった。

 その金額たるや、今からお婆ちゃんになるまで雑用を続けても支払えるかどうか、といった金額。


「期間は一年。更新は自由よ」

「うう、ううう……でもぉ……!」

「大丈夫よ」

「どうしてそんなこと……!」

「信じてるからね」


 シルフィさんの瞳を覗き込むと、彼女はまっすぐに私を見返していた。

 疑っていない。信じてるというのが本当だとわかるくらい、まっすぐな瞳。

 ……どうして? 私自身は私を信じられていないのに、何故貴女は私を信じているの?


「あの時、私を守ってくれた背中はウソじゃないって、信じてる」

「だけど、私は覚えて……」


 覚えていない。だけどシルフィさんは間違いなく私だという確信を得ているみたいだ。

 覚えてない、自信もない、不安しかない。

 でも……。

 このまっすぐな瞳を裏切ることは、出来ない。


「……わかりました。わかりましたよ、もうっ」

「っ……そう言ってくれると思ってたわ!」


 シルフィさんの表情に花が咲く。

 勝ち誇ったような笑みではなく、本当に嬉しそうな……年相応の笑顔。

 思わずドキッとした。彼女は今まで私には想像もできないほどの苦労をしてきたはず。

 年齢相応の感情なんて既にもう無いと思っていた。

 だけどそうじゃないみたい。


「それで……イチャイチャタイムは終わり? もう戻って寝ていい?」

「イチャ……!? ライラ!!」

「あっはっは、照れるシルフィちゃんも可愛いねー。んじゃもう何も無さそうだし、部屋に戻るねー」


 私をチラリとも見ずに家の中に戻って行く。

 嫌われてる……ってわけじゃないよね。

 たぶん、純粋に興味が無いだけなんだと思う。


「まったく……私も仕事に戻る。傭兵としての仕事は後日追って伝えるから、それまでにある程度の勘は取り戻しておきなさいよ」

「はい、わかりました」

「じゃーね」


 手を振って去って行く。

 入り口に立っていた護衛のメイドさんは私たちに向けて頭を下げ、シルフィさんと共に去って行った。

 残されたのは、私とリースさんとユノさ……。


「……あれ、ユノさんは?」

「あの子はね、いつの間にかいなくなってるの! 基本的にボスがいない時は姿が見えないんだよ!!」

「ボス……シルフィさんですか?」


 そう、と元気良く頷くリースさん。

 今のところ、友好的なのは彼女だけかな……?


「家の中を案内してあげるねっ!」


 勢いよく踵を返し。

 ……べしゃりとコケた。


「あたた……えへへ、じゃあ行こっ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「へーきへーき、いつものことだから!」


 食堂から浴場、食料倉庫から武具倉庫。

 書庫から部屋まで、隅々と案内してくれた。

 ……その間、何回リースさんはコケたかな。

 五回からは覚えていない。


「ここがヴィーナちゃんの部屋ね、隣はライラちゃんの部屋で、その隣がリースの部屋だからっ」

「ありがとうございます」

「ううん、早く馴染めると良いね!」


 とっても良い子。

 ちょっとドジなのは、これだけ良い子なら愛嬌だと思えてくる。

 家の中の案内も終わり、リースさんは自分の部屋に帰って行った。

 ようやく一人。張り詰めていた空気が緩んでいくのがわかる。

 改めて部屋を見渡してみると、ベッドとクローゼット、姿見が一つという質素な部屋。


「……ふう」


 ベッドに腰を下ろして、考える。

 私が、シルフィさんを助けた……?

 記憶にない。

 蓋をした記憶を開けようと目論むけれど、長年開くことの無かった蓋は錆びついていて開かない。

 要は思い出すことが出来なかったんだ。


「うーん……」


 ベッドに横になる。柔らかい感触。

 唸りながら思い出そうとしてみるけれど、思い出す気配は微塵もなく。

 そのまま……知らない間に、眠ってしまっていた。


 その日、夢を見た。

 メール村での楽しかった記憶。

 お母さんとお父さんが、笑顔で出迎えてくれる夢を。

 その時、視界の端に映っていたのは、大人しい黒髪の女の子。

 話したことは無かったけれど、ひょっとしたらあの子は……?


 だけど、起きた時――私は夢の内容を、何も覚えていなかった。

読んでいただきありがとうございます。


30話までは毎日更新しますので、よろしくお願いします!

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