1話 扉を蹴破るなんて、アリですか!?
新連載! よろしくお願いします!
ここは村のはずれにある一軒のお家。
何の変哲もない外観の家に住んでいるのは、おばさんと私。
そんな家の前に三人の人影が現れた。
「見つけた……!」
中央にいる少女が呟く。
そして今現在、そんな事も露知らない私は……。
「…………」
自分の部屋の隅で小さくなっていた。
扉の前に人の気配がして、そして遠ざかって行く。
緊張の一瞬。人の気配がなくなった頃に……。
ガチャリ、と扉を開く。よかった、もういないみたい。
扉の向こう側は廊下……だけど、私は廊下よりも足元に視線を落とす。
お皿の上に置かれたパンと干し肉。
置いてくれた人はもうその場にいない。
「ありがとうございます」
誰もいない廊下に向かって小声でお礼を言って、お皿を自分の部屋に招き入れた。
真っ暗な部屋。窓からの明かりも布で遮断して、暗闇に包まれた部屋。
「いただきます」
手を合わせてから食べ始める。
美味しい。だけど……味がするけど、満たされない。
お腹は膨れるけど、心は満足していない。
いつまでこんな生活を続けるんだろう。でも私はもう、日が当たるところで生きてはいけない。
「はぁ」
部屋に引きこもってから、何千回になるかわからない溜め息を吐いた。
食べ終わって、静かな部屋の隅に座り込む。眠るまでそうする、毎日こうだった。
そんな時、廊下の方からドスドスと荒い足音が聞こえてきた。
……おばさんがお皿を引き取りに来たのかな? でもいつもはこんな足音じゃ……?
「きゃああああぁぁ!?」
突如、自室の扉が勢いよく開いた。いや、開いたどころの話じゃない!
勢いが良すぎた扉は、そのまま壊れてバターンと倒れる。い、いいいい一体何事!?
「…………ふうっ!」
入り口に仁王立ちする人物は、私の知らない人で。
長いツインテールが特徴的だな、なんてぼんやりと思っていた。
「やっと見つけたわよ」
「……ど、どなたですか?」
私の質問には答えない。
ツインテールの女の子の両脇から女性が二人現れ、腰を抜かした私に近付いてきた……かと思えば。
私の両脇をガッチリとホールド。立てない私を無理やり引き起こし、そして……。
「はい連行」
「……え? え、え? 何事ですか……!?」
二人がかりで抱きかかえられ、強制的に部屋から連れ出された。
ズルズルと引きずられていたかと思うと、持ち上げられて部屋どころか家からも連れ出される。
「はいこれ、扉の修理にでも使って」
「お……おばさんっ、助けて……っ!! え、なんで親指立てて…………なんで笑ってるんですかぁ!?」
唯一の味方だったはずのおばさんは、私の不本意な門出を布袋を片手に祝うのだった。
そして。
ここはどこなんだろう?
何処か立派な場所だっていうのはわかる。椅子だってふかふかだ。
壁には高そうなツボや絵。こんな豪華な部屋に一人放ったらかしにされても……。
というか、どうして私は連れてこられたんだろう?
ずっと部屋から出てこなかった私を、おばさんが見限ったとか?
……ありえる。
穀潰しの私を、誰かに売り払ったとか?
…………ありえるぅ……!
「待たせたわね」
良くない方向へどんどんと妄想を膨らませていると、扉が開いてさっきのツインテールの女の子が入ってきた。
……さっきはそれどころじゃなかったけど、見れば見るほど……可愛い。
艷やかな黒髪。自信たっぷりにつり上がった目は、自信の表れのよう。
私とは大違いだ。
「さて、今更聞くのもアレだけど……貴女、ヴィーナよね?」
「は、はい……そうです、けど」
「メール村のヴィーナ。ヴィーナ・メール。あってるわね?」
「……………………ええ、はい、そうです」
メール村。私の記憶にずっと蓋をしていたい名前。
だけど罪は追いかけてくる。罰を与えようといつまでも追いかけてくる。
「あたしはシルフィ。カルディラ商会の会長をやってる者よ」
「えっと……はい」
「シルフィ・メール・カルディラ。それがあたしの名前」
「…………えっ、メールって……!?」
驚いた。
メール村の人が私を訪ねてきたことに? ううん、それも確かにそうだけど……。
…………メール村に“生き残り”がいたなんて。
「そう、あたしも貴女もメール村の生き残り。魔物に襲われて滅んだ生まれ故郷」
「…………っ」
今でも昨日のように思い出せる故郷の景色。
そこで、私はしてはならないことをした。
結果村は滅んで……私は、母さんの妹であるおばさんに引き取られた。
おばさんは可哀想な私を今まで文句一つ言わず育ててくれたけど……私にとっては、生きている事自体が苦痛だった。でも自分で命を断つ度胸もない。
でも、でもまさか……。
「私以外にも……いたんですね。生き残りが」
「……は? え、ちょっと待って? 覚えてないわけ!?」
「…………なにがです?」
「貴女があたしを助けてくれたんじゃない!!」
「え……?」
覚えていない。
故郷の景色はこびりつくように覚えているけれど、あの日何があったか、詳しいことは何も覚えていない。
覚えているのは、私の所為で村が滅んだ…………ただ、それだけ。
「その様子だと……本気で覚えてないみたいね」
「覚えてないって……?」
「……まあいいわ、そんなことは問題じゃないから」
とってもマイペース。
私にとっては蓋をするほど忘れ去りたいほどの記憶。それなのに、私が人を助けた?
そんなわけない。だって、あの時の私は……臆病に震えているだけだったんだから。
「ちょっと背中見せて」
「……へ? あ、はい」
「…………うん、間違いない。その薄桃色の髪の背中は、間違いないわ」
「あの……少しは私にも説明を」
「とりあえず、貴女が忘れていようといるまいと、あたしには関係ない」
聞いてもくれない。
私にとってはわからないことだらけだ。メール村の生き残りが突然訪ねてきたかと思ったら、強制的に拉致して。
さらに、私の知らない記憶を彼女は持っている。
さらにさらに、何も説明してくれない。疑問を持つのも当然じゃないかな……? というか疑問しかないよ!
「とりあえず……これにサインしなさい」
そう言って、私に突きつけたのは一枚の紙。
…………なんとか、書? 肝心な部分は彼女の指に隠れて見えない。
色々書いてあるけれど、早くサインしてくれとせがむ紙はゆらゆらと揺れ続けて内容が見えない。
「……イヤです」
「なんでよ」
「だって、怖い……」
「怖くないわよ、普通の紙だから」
「内容を教えて下さいっ、何の紙なんですか?」
「…………サインすればわかるわ」
そんな横暴なっ!
内容もわからないモノにサインなんて出来ない。
だけど。
彼女の脅迫じみた強制に少し怖くなってきてしまい……。
「……ああもう! 早くサインしなさいっ!!」
「ひっ……い、イヤです……!」
「ぶつわよ!?」
「……っ!?」
ぶたれる!?
本能的に恐怖を感じてしまった私は、思わずサインしてしまう。
震える指で書いたサイン。書きにくいにも関わらず、そのサインは生まれて一番綺麗に書けたかもしれない。
「……よし」
ニヤリと笑う。
……はっ? 私、とんでもないことをしちゃったんじゃ……!?
それは私にとっての転機だった。
部屋に引きこもっているだけの人生とはまるで違う、日の当たる場所。
今の私には相応しくない場所。
「これで貴女……ううん、あんたは――あたしのモノ」
そんな場所に、彼女の手によって……力付くで、引きずられていった。
「――ようこそ、カルディラ商会へ」
サインさせられた紙をぴらぴらと見せつつ、嬉しそうに笑う。
その紙には、こう書かれていた。
“雇用契約書”と――
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