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綺羅の琥珀  作者: 神空うたう
『綺羅の琥珀』番外編

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番外編2 思いもかけない拾い物

 『綺羅の琥珀』本編より前の話。

 本編内でパラパラと触れていたので、おおよそにおいて本編を読まれた方の予想と変わりはないはずです。



「……うっわ、コイツ……」


 荷馬車から見えたぼろきれ。ポンすけが足を止めたのは『アレ』のせいか。俺は荷馬車を止める。ポンすけを道の端で待機させようとしたが、一緒に来たいらしい。……まあ、好きにさせる。ポンすけに見せたいものではないが。そう思いながら、川辺のそれを覗き込んだ。

 別に、酒場の儲け話を真に受け、本気で行き倒れた死体から身ぐるみを剥がそうと思ったわけではない。ほんの出来心だ。


「うううう……」


 コイツ、死んでねえ。

 さらには……


「……女か」


 喉が鳴る。

 だが、わずかに開いた瞼の下は銀の瞳。同じような銀の髪。砂まみれでもキラキラしてやがる。


「これは……しくじったな」


 近づくんじゃなかった。

 銀髪銀眼。『穢れの銀』だ。

 どうしてこんな、関わり合いになっちゃいけないものと、俺は縁があるんだ。


「……これは――」


 置いて、逃げる……か?


「うう……どなたか、存じませんが……」

「喋ったぁ!?」

「うけけけけ!?」


 ポンすけがいななき、ばたつく。……ポンすけが驚いたのは、この女の声じゃなくて、俺の声だな。


「お、落ち着け。ポンすけ。……何より、俺」


 女は地べたに身を投げ出したまま、俺を見上げている。伸ばした髪をまとめていて、簡素な装備がいかにも貧乏冒険者らしい感じだった。――目が合った。最悪だ。


「どう……した?ゆ、遺言か?」


 いっそそうであってくれた方が、面倒がなくてよいと思う。意外と血色は良く、死にそうにも見えないが。


「遺言になるかも……」


 女の目から涙が滲んだ。


「だーっ!弱音吐くな!なんだ、どうした。魔物の魔法か毒にでもやられたか?俺ぁ旅商人だ。金は貰うが、たいていのものはあるぞ!?」


 ……実は、そんなに品揃えはない。

 しかし、売り物ではなく、俺に何かあった時用の薬草などはある。虎の子ではあるが――


「死ぬ……」

「ああもう!死なねえよ!なんだよ、言えよ!目の前で死なれちゃあ、こっちだって寝覚めが悪い!」

「寝はするんだ……」

「文句あんのか!?こっちは一人で長旅してんだぞ!?寝る時寝なきゃ、俺の方が死ぬってんだ!」


 なんて図々しい奴だ。地面に顔をつけて寝そべってはいるが、さては、かなり余裕あんな?……もしかして、俺を嵌めて、逆に荷馬車ごとぶん捕る気か!?

 俺はざっと女から距離を取った。しかし、女は立ち上がる様子もない。

 ……しばらく間をおいて、近づき直す。


「おい。……おいって」

「ごめんなさい……好きなだけ寝てもらっていいんで――」

「……ああ、もうその話はいい。で、何なんだ?」


 銀髪銀眼とは、とことん相性が悪いらしい。

 なんとなく、俺は先行きに暗雲が立ち込め始めた気がした。


「お腹がすいて、餓死しそうなんです……何でもいいんで、ご飯をください……」

「餓死だあ!?」


 そんなツヤツヤした肌をしてか!?ふざけんな!




「……おいしー!」


 満面の笑みだった。

 ……正直、悪い気はしない。しないが――


「だろうよ。お前なあ、明日の分の粥まで……!」

「ありがとうございました。命を助けてもらいました!」

「ああ、そうかい。感謝しろ、このバジェ様にな」

「……『バジェ』さん。――はい、バジェさん、ありがとうございました!私、エーラって言います!」


 食うだけ食ったらにこにこしてやがる。

 本当に餓死するような奴は、いくら粥でも、いきなりガツガツ食えない。それをやるとむしろ死ぬ。

 しかしどうだ。



 つやっつや!

 血色なんて、俺より良くなっている!



「もう三日もろくなものを食べてなくて」

「三日!?」


 三日程度で、餓死とかぬかしてやがったのか、コイツ!?


「そうなんです、三日もです!実際、最後に干し肉の欠片を昨日の夜の間中舐め続けて……」

「食ってんじゃねえかよ!」

「お腹いっぱい食べられたのは、三日前!」

「いっぱいでなくても、そこそこ食えてたんだろ、昨日の夜までは!」

「ま……まだまだ私、成長期だもん!剣士で、体も使うし……ちょっと食べないだけでお腹がすくし!」


 腹が膨れて目のピントが合い始めたのだろう。俺の顔を見て――『よっぽど餓死しそうな』俺の顔を見て、自分が大袈裟に騒ぎ過ぎていた事を自覚したようだ。女は言い訳を始めた。


「空腹の感じ方は人それぞれで……!特に三日前は、ホホブクレウサギを捕まえて丸焼きにしたから、余計につらくて……」

「ホホブクレウサギ!?俺よりよっぽどいいもん食ってんじゃねえか!魚の干物や干し肉までつぎ込んで粥を作ってやった俺が、馬鹿みたいじゃねえかよ!」

「色んなおだしが出ていて、美味しかった……こんなに美味しいお粥、初めて食べた!」


 ……そ、そうか?美味かったか?


「――って、騙されねえぞ!?救ってやって、損した!」

「ひ、人助けに損も何も!感謝してる!感謝してますって、バジェさん!私は、末代までバジェさんの徳の高さを語り継がせますよ?」

「はあ?お前らの後を継ぐ血があると思ってんのかよ」

「――!」


 その表情を見て、俺も体を強張らせた。しまった。

 元気なものだから、ついつい。俺は、慌てて言葉を継ぎ、誤魔化す。


「ま、まあ、エーラ……エーラ、っつうんだな?なんにせよ、喧伝してもらう必要はねえ。『お優しい商人様』と、舐められてカモにされたかねえからな」

「……」


 何つう顔だ。『穢れの銀』なら、この程度言われ慣れてるだろうが――という気持ちもあるが、俺だって、人の心は持っている。

 こんな、まだガキっぽさのある女をいたぶって胸をすかせるほど、人間は小さくない。

 ……ご機嫌取りしてやるほど、お人よしでもないが。


「まあ、お前は俺に感謝だけしてりゃいい。――あと、粥食わせたんだから、飯代な。今手持ちが無けりゃあ、街に行くまでにホホブクレウサギでも何でも捕まえて、売る準備でもしてくれりゃあいい。……ついでに俺に食わせてくれりゃあ、なおいい」


 食ったばかりなのに、よだれが出そうだ。今の時期は身が固いとか言われるけど、俺はその方が食ってる感じがするから、むしろ今食いたい。


「……わ、わかった――わかり、ました……」


 視線は落ち着きないが、納得したようだ。まあ、向こうは女剣士。本人は餓死だのと騒いでいるが、引き締まった腕は、下手すりゃ俺より太い。本気でやり合えば、青痣を作るのは俺の方だろう。……痣ですむなら、大金星かもしれない。


「感謝はしてる。本当に……です」


 最初の頃の『素敵な命の大恩人様』に向ける尊敬の念は薄れている。ちょいちょいため口が混じっているのが気にかかるが――まあいい。俺は大人だ。

 エーラはぺこりと頭を下げ、粥の入った器を差し出してきた。それを受け取る。わずかに、手が触れた。

 ……ちょっと、その。まあなんだ。

 月夜に煌めく銀髪銀眼が不気味だ。でも――第一印象どおり、可愛くはあるんだよな、コイツ――エーラは。腹が満ちると、他も満たしたくなる。女でさえあれば、問題ない。目さえ閉じてりゃ何もわかんねえし。


「な……なあ」

「はい?」

「俺……エーラを助けてやったよな?」

「はい」

「感謝、してるよな?なにせ、命を救ってやったんだ」


 大袈裟な話だが、ここはエーラの主張に合わせておく。その方が、都合いい。


「……う、うん。それはもちろん」


 よしよし。


「俺は命の恩人で――お前は俺に感謝をしていて――感謝を示そうにも――」

「……『ありがとうございます』?」

「そういうこったねえんだよ!示そうにも、手持ちはない。となると、何で『お支払い』するかってなったら……」


 これは、大チャンスでは?


「……『何で』、って?どういう事?」

「わ、わかんねえか?つまりだな――」


 直後、俺の顔に、青痣確実な拳が飛んできた。


「命の恩人のバジェ様に、とんでもねえ奴だな、エーラ!」

「よく言えるよね!?」



 まったく、とんでもない奴だ!


 ……そう思ったのは、お互い様なのかもしれない。それでも――

 まあともかく。それが、俺達の『はじまり』だった。


 番外編なので、好きなタイミングで好きな話が書けるのが、いいところ!何かあれば、増えているかもしれません。

 現在、別軸の話や、また違う人達の話を執筆中!きりの良いところまで書ければ、また投稿させていただきます!


 感想・評価・ブックマーク、あとなんかもう色々、お待ちしています!


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