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綺羅の琥珀  作者: 神空うたう
『綺羅の琥珀』番外編

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番外編1 月の精と踊る商人

『綺羅の琥珀』本編の、だいたい7話以前のどこかでのお話。

何があるわけでもない、二人の日常のお話です。本編読んでからだと余計に楽しく読んでもらえるはず。





「んな顔すんなよ。今日の俺ぁ、お客様だぞ?それも、『お得意様のバジェ様』じゃねえかよ」

 敷物を広げていた店主に『疫病神がきた』みたいな顔をされて、俺はむっとした。

 相手の露天商は、お前程度が客なもんかという顔をしているが、通りを行き交う『未来の客』の目を考えたらしい。


「はいはい、いつもありがとうございます、『お得意様』、っと。しかしバジェよ。また懲りもしないで……誰狙いか知らないけど、どうせ無理だろ、お前じゃあ。で、いくつだ?」

「ばらまくほど買やあしねえよ。んー……これでいいか」


 敷物の上に広げられた指輪をひとつ買う。青い石を削り出して作られた指輪だ。見た目は綺麗だが、銀貨どころか銅貨で買えてしまう。

 ……いわゆる、オモチャだった。



 エーラにはこの程度で十分だ。金なんて、かけてられるか。

 俺は、最近思いもかけず手に入れた『ちょっとした拾い物』ことエーラの顔を思い出す。



 銀の髪に銀の瞳。ぎょっとするようなその特徴。『穢れの銀』と言われて遠ざけられるのも当然だ。

 ……今時、そこまで『穢れの銀』らしい『穢れの銀』も、そう見かける事もないが。


 たいていは、髪なり目なりに銀の名残が見受けられる程度だ。それも、たいていは人目を気にして髪を染めるなど隠しているから、わからない。

 エーラのそれは、見事なものだった。その分、人から受ける視線は、とげとげしい。連れている俺でも感じる。でもまあ、ああいうわかりやすい『穢れの銀』ってのは、その分美人だ。神様はそれでバランスを取ってやっているつもりなのだろう。……あいにくと、人間はそんなにできた存在ではないが。

 まあ、俺みたいに心の広い男が拾ってやらなければ、アイツは今頃『餓死』していたらしい。……何が餓死だ餓死。甘えんな。


 ともかく、本人がそう思っているのをいい事に、俺はエーラに恩を売り、エーラを連れて旅をしている。今日も、アイツとこの街に辿り着いたばかりだ。

 今日のところは顔なじみの店を回りつつ、街の情報を仕入れるだけ。市場で出す店の場所を決めてきた。ちょうど次の町に発つ奴がいたので、その空く場所に店を出す事になった。少しばかりハズレではあるが、斜め向かいに繁盛している布屋があった。あぶれた客が、こちらに流れてくるかもしれない。


 俺はズボンのポケットに入れた、オモチャの指輪の感触を確かめた。

 エーラがポケットを繕ってくれたので、何を入れても、もう落とす事は無いだろう。気のつく奴だ。


「……もう少し早く繕ってくれていれば、金を落とす事もなかったのによお」



 まあ、俺が『空いたポケットの穴から金を落とした』と騒いだ事で『わかってたなら、何で縫っておかないの?……かしてよ。荷馬車に乗ってる間に縫っておいてあげる――えっ、それしかズボン持ってないの!?』なんて一幕があったわけだが。



 アイツはバランス感覚がいいのか、荷馬車に揺られていても平気で細かい作業をしている。川で採った色石の選別だとか、薬草の乾燥下準備だとか、色々任せる事ができて重宝する。本当に、いい拾い物だった。

 生意気で人を舐めている節はあるものの、『穢れの銀』とは思えない愛嬌がある。

 『月の女神』と呼ぶには落ち着きとか諸々足りなさすぎる。しかし、ゆくゆくはそう呼ばれそうだ。まだガキっぽいし、なんだか放っておけない感じからすれば、『月の精』あたりか。『穢れの銀』でなけりゃあ、よほどモテただろうと思う。そこに目を瞑りさえすれば、かなりの上玉だ。可愛い奴だと思う。夜もなかなか――


「……にひひひひ」


 ちょっと楽しい思い出し笑いをしたところで、宿に辿り着く。ポケットの指輪を確認。よしよし、ちゃんとある。




 この程度のものでも、たとえば酒場の姉ちゃんは喜ぶ。まあ、芝居だが。『一生大事にする!』と言いながら、翌日には質屋なりに売り飛ばされている。ずいぶん儚い一生だ。

 まあ、こういうのはモノの質ではなく――まあ、向こうからすればどうせ売るものなのだから、高い方がいいのだろうが、『貴女の事を見てますよ』『贈り物を捧げたいほどメロメロですよ』という、ポーズが必要なのだ。お決まり事というか、お作法というか。

 もちろんお互いわかり切っている。どうせ本当に喜ぶわきゃあねえ。それで一晩共に過ごせるなんて、思ってやいない。それがわからない奴は、真面目に母ちゃんとガキの世話をしていた方がいい。

 せいぜい、贈り物を渡したその夜、店にいる間は上客であるかのように扱ってもらって、いい気分にさせてくれりゃあそれでいい――ぐらいの。大人のお付き合いって、そういうもんよ。それができるんだから、俺は十分大人の男だとも。


 まあ、アイツはチョロいし、こんなのでも何も知らずに喜ぶだろう。ふっふっふ。




「おい、エーラ。いるか?」


 宿の部屋に入ってみれば、エーラはベッドで口を開けて寝ていた。


「……荷馬車に乗っているだけなのに、何をそんな、昼日中から眠るほど疲れる事があるんだ、コイツは」


 夜、眠れなくなるぞと、俺は呆れる。……ああ、別にそれはそれでいいのか。なるほど、意外と賢い奴かもしれない。そんな風に思う。

 宿はたまたまいい部屋が空いていたようで、ほどよく日が差し込んできて、熱すぎず、心地よい。窓を開けると砂埃が入ってくるが、それはどこも似たようなものだった。風の通りがいい分、差し引きを考えて、今の時間、窓は開けておく。


「……」


いや、しかし。……本当に可愛いな、コイツ。

 茶なり黒なり、髪を染めさせてみようか。……でも、そうしたら、他の男もエーラに飛びついてくるだろう。コイツチョロいし、絶対騙されるぞ。俺の後をちょこちょこついて回ってくるぐらいだ。よく今まで、五体揃って無事だったもんだと思う。

 俺は向かいのベッドに腰をかけ、指輪を取り出した。

 エーラのつけているサークレットに合わせて選んだ、青い石の指輪。きっと、こういうものを貰った事もないのだろう。『穢れの銀』でさえなければ、こんな色石のオモチャではなく、それこそ金の台座に宝石なり魔石をあしらったような指輪をいくつも送られているだろう。つくづくいい拾い物だと思うし、世間の『穢れの銀』に対する偏見の酷さを考える。まあ、俺だって人の事は言えないが。ただ、俺の場合は『なんか嫌』とかのあいまいなものではなく、そう表明するに足る、十分な理由がある。

 ……ただ、エーラを見るにつけ、俺の『穢れの銀』に対する印象は、間違っているのではないかとも思う。基準線がおかしいのか。それともやはり、エーラが特別なのか。


「んん……んんん?んー……」

「んっだよ……起きるのか、起きねえのか、どっちだ、おい」


 まあ、このまま寝ていてくれた方が、飯代の心配をしなくていい。多少ごねたところで、指輪を見せりゃあこいつはコロッと誤魔化されるだろう。……どんな顔をするだろうか。なんと言うだろうか。


『キャー、バジェステキー。サイコー。抱イテー!』


 ……多分こんな感じだな。俺は深く頷いた。多少都合が良すぎる気もするが、大外れでもないはずだ。だってこいつ、チョロいし。ころっと騙されて――

 と、そこで、俺は不安になる。

 不安と言っていいのか。ともかく――エーラのチョロさについてだ。

 エーラは、あまりに『穢れの銀』らし過ぎて、まったく男と縁がなかった。……そもそも、人付き合いそのものも、ろくにしてこなかったのかもしれない。

 そんなエーラに、この指輪を贈るとする。



 ……こいつ、まさか『マジ』に取るんじゃねえだろうな?



 いやいやまさか。だってこれはオモチャの指輪だぞ?誕生日なら、子どもでも親にねだる程度のものだ。しかし、俺はまだエーラという女を掴みきれていない。時々変に遠い目をしていたりする。意外とロマンチスト、ってやつなのかもしれない。

 あと、コイツは根本的に俺を舐めている節がある。


 このオモチャの指輪を、俺が本気で財布をひっくり返して買ってきて、愛を捧げて贈ってきたと、勘違いするかもしれない。

 ……ねえぞ!?もし俺にその気があるなら、ちゃんとそれらしい準備や段取りはする!

 まあ、奇を衒ってという演出ならこういう手もありかもしれねえが!――あー!コイツ、そういうのも好きそうだなあ!?夢見る乙女系っぽいもんなあ!?


「……どうする」


 俺は今、とんでもない爆弾を抱えているのかもしれない。

 期限を超えて使い続けている、炎の魔石よりも厄介な代物を。あんな質の悪い炎の魔石でも、爆ぜりゃあ火傷をする。これは……火傷どころではすまないかもしれない。


「……いや。いやいやいや」


 エーラは可愛い。それは認める。だから手元に置いている。でもだからって。それとこれとは話が違う。そもそもこいつは『穢れの銀』じゃねえか。――ああ、でも。たとえばこいつが栗色の髪に、栗色の瞳とかで。『お帰りなさい、旦那様』とか言って、迎えてくれたら……

 顔が赤くなってくる。


 いやいやいや。……いやいやいや!?


 こんな遊び慣れてねえ女に、余計な事をするもんじゃないのかもしれない。マジになられたら困る。感化されて、俺までどうかなったら、目も当てられない。


「やっぱエーラは、『月の精』で合ってるな……」


 月の女神のそばで舞い踊るのが月の精。

 月の精は、月の女神に見惚れた不埒な旅人の耳元に舞い飛び、耳元に囁いて、人を狂わせるという。きっとこいつは我知らず、そういう性質の女なんだ。でなけりゃこのバジェ様が……

 俺は、青い石でできた指輪をポケットに押し込んだ。

 こいつに渡すわけにはいかない、と。


 ……ただ、銅貨七枚も出して買った物には違いない。こんな安物、売りに出しても半値にもなりゃしないだろう。だからそう、それはずっと俺のズボンのポケットに残ったままだった。エーラがポケットを馬鹿丁寧に繕い直したせいで。




 ……それを、今も渡しそびれて、持っている。

 もしアイツが俺の元を離れるというのなら。その時、餞別に渡してやりゃあいいかな、なんて。掲示板の紙を剥がしながら――もしかしたら、これがいいきっかけになるのかもと思いつつ。


「ほとほと、『穢れの銀』は俺を振り回しやがる……」


 ……金の台座を探し求める前でよかった。そう思いながら。



 もう少し、日常のくだらなくて、でも楽しい話を番外編として書いてみたいなあと思います。


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