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綺羅の琥珀  作者: 神空うたう
『綺羅の琥珀』本編

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27/29

27話(完) エピローグその2~へっぽこでもない旅商人と『綺羅の琥珀』ではない女剣士



「賢いねえ、さあさ、おたべー?」


 差し出された飼い葉に対し『うえけけけ』とお礼にひと鳴きしてから、ポンすけはもっそもっそと食べ始めた。街の子ども達も『どーぞー』と摘んできた草などを飼い葉おけに入れている。

 そばの大人が止めないので、馬の害になるようなものではないようだ。




 ポンすけはあの日、魔獣の襲来がいったん落ち着いてから、宿屋の宿泊客用の馬小屋から飛び出した。

 そして、建物に閉じ込められた生存者の発見や、荷物運搬の手助け、さらには大泣きする子どもの頬をぺろりとひと舐めして心を癒し――と、獅子奮迅の大活躍をしていた。今や南の街一番の人気者だ。


「そうでしょうそうでしょう、賢いでしょう、うちのポンすけ。我がバジェ商会、『バジェ商会』一番のっ!賢馬でございます。神話の時代であれば、神に召し上げられ、星座になっていたやもしれません」


 そしてポンすけ人気に全力で乗っかろうというのが、飼い主のバジェである。人気はまだない。

 相変わらずの細い体、商人特有の崩して巻いたターバン姿で、砂塵舞う街にガラついた声を響かせる。


「――さて!そのバジェ商会ですが、今回も復興のため、隣の町よりパンを仕入れてまいりましたっ!顔より大きなこのパン!ご家族でいただくのにちょうどいい!なんと銅貨二枚!銅貨二枚でこのおおきなパンが!――なおこちら、隣町の『大麦堂』『大麦堂』から仕入れております!皆様落ち着かれた際には、ぜひ、『大麦堂』にも、皆様の無事な顔をお見せください。髭の店主も喜ぶ事でしょう!」


 復興にかこつけて、連日連夜何かしらしているせいか、客の呼び込みは多少マシになっている。客の入りはそこそこ。


「なあバジェー。パンくれ、パンー」

「いらっしゃいいら……金持ってる奴引っ張ってこい。こっちゃあ商売なんだ」


 看板馬、ポンすけの横に広げた敷物に積まれたパンを見ながら、何人かの子どもがバジェに絡んでいる。


「いーじゃんかよー」

「配給のパンもあるだろ、配給のパンが。そうでなけりゃあ復興手伝ってこい。くず拾いなりなんなりすりゃあ、お前らでも稼げんだろうが。上手くすりゃあ、俺のように、億万長者よ!」

「おいバジェ、虚偽広告だぞ、キョギコーコク」

「寝言は寝て言えって、かーちゃんいつも言ってたー」


「うっせえ!なんもしねえなら遊んで来い!元気な顔を大人に見せるのが、子どもの仕事だ!」


 しっしっし!バジェが子ども達を追い払う。子ども達も、日課のバジェいじりがすんだので今日はレンガ造りの手伝いに行くか何をするかと騒ぎながら通りを走っていく。




 入れ替わりに、子どもにも負けない元気な声が響いた。


「バージェー!」

「おー?どうした、エーラー!」


 バジェの胸に、明るい銀色が飛び込んでくる。銀髪銀眼のエーラだ。

 女剣士という溢れんばかりの体力を発揮し、崩れた家々の残骸撤去に協力している。『穢れの銀』と忌避される、お手本のような今は亡き北方異民族の特徴を宿しているが、復興支援にここまで協力されると、街の者達も表立って文句も言えない。

 多少ぎこちなさもあったりするが、そこそこに受け入れられている。


 あと、なんだかんだでエーラは可愛い。

 『穢れの銀』でなければ……いいやこの際『穢れの銀』でも……復興支援を共にする男性諸氏の中にはそのように淡い思いや野心を持つ者もいるが、ごらんの通りエーラには『素敵な恋人・へっぽこ旅商人バジェ』がいるので相手にもされない。なんでよりにもよってあんなのに?との声がやむ事はないが、世の中では首を傾げる組み合わせはよくある事だったりする。




「パン、ただで配っちゃえばいいのに」


 二人は『バジェの小さなお城』こと、店代わりの敷物の上に並んで座った。


「仕入れてくる俺が破産するだろうが!それに、ただはいけねえ。人間を駄目にする。これだって手間を考えりゃ完全にただみたいなもんだぞ。こんな美味いパン、普通は銅貨二枚じゃあ食えねえぞ?」


 バジェが手にしているパンに、エーラがぱくつく。


「――あ、おいひい」


 午前中しっかり残骸運搬をして、お腹が減っているのだが、それを差し引くまでもなく、美味しい。小麦の風味が生きている。


「ちゃんと食べ比べて仕入れてんだから、美味いぞ」


 バジェがエーラをかぶりつかせたままパンを半分に割り、自分も食べた。

 うん、美味い。満足気に頷く。

 そしてエーラに手を突き出した。


「……ほれ、お代。半分だから、銅貨一枚で許してやらあ」


 エーラがぺちんとその手に自分の手を重ねた。バジェから、顔より大きなパンを受け取ってもっぐもっぐと食べ始めている。


「預けてるお金から、引いといて」

「……本当に引くからな?今までの分も、帳簿にちゃんとつけてあんだからな?」

「わかってるって。もうすぐドクドロノウサギが繁殖期を迎えるから、毛皮売って、バジェよりお金持ちになる予定だし」


 ぐぐっ……とバジェが苦い顔をする。


「お、俺だってなあ?今は復興協力で慈善事業みたいな良心価格でやってるが、今に億万長者に――」

「小麦、売れてるもんねー?」

「ううう……」


 目利きの腕は相変わらず。今も、『バジェ商会』筆頭売れ筋商品は、バジェの小麦の魔法で生産されている小麦である。今は店頭売りではなく、契約店舗に直接卸している。そのあたりのあれこれがあって、銅貨二枚のパンが販売できているのだ。


「馬車だって二頭立てになったし」

「ありゃあ代車だ!この街が勝手に押し付けてくるから、復興支援物も運ばなきゃなんねえしって使ってやってるだけだからな!?」


 この街で一番の人気者、ポンすけについては、『ぜひ、復興の顔としてお譲りいただきたい!代わりの馬車は用立てますので!』などと、軽い『親権争い』が勃発している。

 なんなら金貨の山が積まれたとも聞くが、バジェはそれをはねのけたらしい。その金貨は復興に使うべきであると。

 バジェにしてはまともな事を言うが、人の道云々ではなく、単純にポンすけを手放すつもりが一切ないだけらしい。


「街の瓦礫も、エーラ達が頑張ってずいぶん減り出したからな。ようやく国の応援も、色々機能し始めているし」


 お役所仕事的な諸々で腰は重いが、動き出すとやはり規模が違う。


「そうだね、今月中には、めどがついちゃうかも。ドクドロノウサギ、たくさん狩れちゃいそう!」

「あれやってこれやって。んで、懐が潤ったら、借り物の馬車を返して――」


 バジェが指を折り折り、これからの展望を口にする。


「ポンすけを!絶対に!返してもらって!」


 ……そこは絶対に譲れないらしい。食事が終わったポンすけが、嬉しそうに厚い睫毛を伏せている。


「でもって、またあちこちでバリバリ稼がねえとな」

「大丈夫?」


 エーラがくすくすと笑う。そこで笑われるのは心外であるとバジェはむっとした顔をした。


「まずは家の頭金分を――」

「えー?私は別に、バジェとずうっと一緒に旅をしていてもいいけど?」


 そう言ってから、エーラははっとした。


「あ、いや……わ、私は別に、関係ない事だよね。ごめんね、変な事を言って」


 勝手に二人一緒の未来を想像してしまったと、エーラは慌てた。

 バジェは『綺羅の琥珀』に対して立派な事を言った。だが、あれは場を収めるための『商人の嘘』だったのかもしれない。バジェはずっと以前に『穢れの銀』と一緒になんて――と口にしていた。エーラはそれを、ずっと覚えている。


「関係ない事ねえだろ。俺とエーラの事だぞ?」

「……そ、そう?」


 バジェが当たり前のように言ったので、エーラも何でもないように返事をした。

 けれどとても――嬉しかった。


「まあ、エーラがそんなに旅が好きっていうなら、家の頭金だけと言わず、俺の店の頭金分も稼いでもいいけどよ」

「バジェ、店、持つ気あるの!?」

「お前、俺だけ外回りして出稼ぎして来い、っつうのか!?」

「あ、いや……そんな……一緒の方がいいに決まってる……」


 家で一人待ち続けるなんて嫌だ。最近はなさそうだけど、バジェはいかにも浮気をしそうだし。エーラの未来予想図に、自分だけではなく、お家、バジェとポンすけが描き足される。

 商人と女剣士。ただそれだけ。特別でも何でもない二人の未来は、ごくごくありふれていて、退屈なものかもしれない。それでも二人には関係なかった。……街を危うく滅ぼしかけて、国をもしかしたら救ったかもしれないが。

 二人で幸せになる。ありふれていて退屈で――とても難しい。そんな夢を語るのが楽しいだけの二人なのだ。


「あー……それに……あれだ。子どもの教育の事を考えると、腰を落ち着けた方がいいとか聞くし」


 エーラの未来予想図が大所帯になってきた!男の子?女の子?未来予想図、紙の大きさ、足りる!?


「あ、でも、言えよ!?計画は計画だからな!?柔軟に変更できてこその計画だ。子ども連れての旅だって――!?」



 エーラが、バジェに抱きついてキスをした。



「バジェ、大好き!」

「おいこら、今ぁ真っ昼間だぞ!?夜まで待てって!」


 ましてバジェは――というか、ポンすけが、だが、街の一番いい場所を使わせてもらっている。人目があるのだ。『やなもん見せられた』と悔しがる男も多かったが、『あらあら、いいもん見ちゃったわー』という主婦や、『ちゅーだちゅー!』とはやし立てる子もいて、まあとりあえず、目立つ。




「ねえバジェ、だ・い・す・き!」


 エーラが銀の瞳で、バジェを見る。バジェはいかにも『しょうがねえなあ』といったふうなため息をつく。


「俺もだよ。……大好きだ、エーラ」


 そう言ってキスをした。『しょうがねえなあ』というそぶりをしたわりに、たっぷりと。



 こちらで完結です!ありがとうございました!その後や本編中の事を、番外編かオマケとして書けたらなと思います。


※ 完結まで執筆済! 作品完結! 毎日1話ずつ更新済。

  エタりよう無かったよね!?!あなたと一緒に走り抜けました!


 感想・評価・ブックマーク、あとなんかもう色々、お待ちしています!


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