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綺羅の琥珀  作者: 神空うたう
『綺羅の琥珀』本編

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19/29

19話 夢の貴方~言質はいただけた、かな?



 ……話した。

 私が幼い頃から見ていたものを。

 ただの夢なのか、私の『見るべきものを視る』力によるものなのか、『綺羅の琥珀』の『見るべきものを視る』力によるものなのか。どこから誰の何なのかはわからない。

 けれど、『綺羅の琥珀』はこうしようとしてるんだと。



『猛る魔獣―― 裂ける人々―― 見よ、お前を愛する男の死を。この男は、お前のために死ぬのだ――!』



 その声を『視て』、それにあわせて書き重ねられる、荒い素描。揺れるターバン。明るい光を背に、笑って落ちていく男の人。幼い頃の私には『なんでこんなオジサンなの?』と不満しかなかったけれど。今はこの人以外他にはいなくて――でもこんな未来には絶対なってほしくない。


 落ちていく人は、バジェだ。


 『綺羅の琥珀』候補者を送りだす紹介人として少しめかしこんで、若めに見えるバジェ。……まあ、監禁とか色々で、朝一番より少しくたびれているけど。それでもまだ、普段よりは見た目年齢的に、三歳は若い。

 ……ともかく、私は必死に話した。多分『綺羅の琥珀』の狙いはこうなんだ。幸せを壊したバジェを殺す。ただ殺すんじゃなく私が一番傷つくように。悲しむように。バジェが愛している私が、『綺羅の琥珀』と同じだけ――復讐なんだからそれ以上、と。


 ……なんか、皆の雰囲気が、変だった。

 生あたたかい。

 口火を切ったのは、ヴィオさんだった。


「愛しているのですか?」


 バジェの方を向いて、バシッと一言。


「愛!?あい!?」

「――愛してないの!?」


 心の声が、漏れた。


「いや……愛……そんな……大仰な……おい、エーラ。おまえ、なんかこう……自分に都合よく勘違いしてないか?ちょっとこう……いじくってんだろ?乙女の恥じらいで。愛する、お前が、男の……おかしいな。おー、おおお……そうだ!『お前が愛する男の死を』!こうじゃなかったか?『が』!『が』、な!?」

「ううん?『が』じゃないよ『を』だった。『を』。『お前を愛する男』だった」


 特に今日なんて、何回も聞かされたし。


「いいや、『が』だ、『が』!」


 バジェが細い体をしならせるように、今期一番ぐらいの大きなリアクションで訴えている。


「……もう、どちらでもいいではないか」


 どうでもよくない!と、私とバジェの声が重なる。


「リステさんなら、愛が何たるかはわかるでしょう!?」


 ヴィオさんに関しては諦める。何か言いたげに視界の端でふわふわしている気もするけど、ごめんなさい、今は無視。リステさんにすべての望みを託す。私とバジェ。二人の視線を受けて、リステさんはたじろいだ。


「……我々『菫の監視』一族は、『義務』はあれど、『愛』はないのだ……」

「『菫の監視』一族、サイテー!」

「お前んとこ、たいがいだな!?」


 ヴィオさんならここで大反論が来ただろうが、リステさんは一族の特異な観念の自覚があるのが、ぐっと飲み込んだ。代わって反論をしたがっているヴィオさんを取り押さえつつ、リステさんは勝手に話を始める。


「視えた光景に限った話であれば、背後に光を帯びていたとするなら、陽の光という主張か。この建物の屋上なら、高さ的にも合う。そもそも、他の建物は壊されているし、せいぜい二階だ。……階段を踏み外しただけでも人間、死ぬ時は死ぬが。つまり、商人の死ぬ状況は、極めて限定的だ。日没までの数時間、商人を守りきれば、勝ちだ」 

「……向こうの性格を考えると、日没で決めに来るとは思うけどよ、決まらなけりゃ、明日に持ち越しだぜ?明日は朝から日没――まではかからねえかもしれねえけど、短期決戦見込みで、目減りしたとはいえ魔獣が消えるまで。俺ぁそんなに持久力ないぞ」


 ……真面目な話になると、すぐバジェ、そっちに行く!話が途中だったのに!自分が愛してるって認めたくないから!


「……あ」

「お!?どうしたエーラ。またなんかいいひらめきか?一足飛びに『見るべきものを視る』力で大団円でもかまわねえぜ!?」

「そうじゃなくて。……見えた光景はそうだけど、文言もセットだから。今までもそうだったし」


 聞いたわけではなく『視えた』んだけど、あんな荘厳な感じで、はちみつパンについて語る事もあったし。


「だから――ば、バジェが私の事、愛してなかったら、そもそも関係なかったね」


 そうだ。バジェはそんな感じだった。綺麗なお姉さんが道を行けばずっとそっちを見ているし。お酒を呑めば女の人の話ばかり。『綺羅の琥珀』さんにだって好きではないけど機会があるなら――が発端で、とんでもない事になっている。

 私の時だってそう。『腹ぁいっぱいになったか?そ、そうか。よかったな。……あーっと。で、だ。……お、……俺が、お前の命を助けてやったんだから……わ、わかるよな?』という最低すぎる感じだった。

 あの時私は、命が助かったってそればかりで。それだけしてもらったんだから、お返しはしなきゃとか、どうせ『穢れの銀』なんて、一生誰にも相手にされないんだから、命の恩人相手なら、諦めもつく――って、私も私でそれなりに最低だったな。


 でも今はバジェの事好きだし。大好きだし。


 でも、バジェは『穢れの銀』の事で怒ってはくれるけれど、お嫁さんにはしてくれないんだっけ……怒られたから迎えに来てくれただけなんだった……

 だから……私の事は、ただ、ちょうどよかった、ってだけで……


「ご、ごめんね、バジェ。色々巻き込んじゃって。え、えへへ……」


 リステさんとヴィオさんが、同時にバジェを見た。


「……いや……愛するっつってもだな……だから……それが『綺羅の琥珀』の『見るべきものを視る』力によるものの場合、俺がその時に突然、力のせいで愛に目覚める事もあるわけで。そうしたらやっぱ俺は死ぬかもだし――だから……」


 バジェのいつも土気色みたいな顔色が、よくなってきた。


「ううう……完全に地雷なはずの銀髪銀眼の女なのに、そばにいてくれりゃあ、可愛く思えてくるだろうよ。まして、こんなにわかりやすい奴なんだぞ?」


 バジェが私を指さしてくる。お行儀が悪い。


「……俺ぁな、息抜きはしても、もう商売以外の事をするとろくな事にならないと、おおいに自省してだな?だから――なのに――その……うう……エーラが先だ!エーラの方が先だからな!?そこぁ譲らねえぞ!?」


 つまり?リステさんとヴィオさんの声が重なった。



「……ああ、もう。俺の負けだ!だから、皆で俺の命を助ける手伝いをしてくれ!」



「知っています、知っていますよ!『惚れた方が負け』ですね――もが!」


 ……ヴィオさん、黙っていれば、綺麗な人なんだけどなあ。喋っていても綺麗ではあるんだけど、綺麗なだけでいてくれないなあ……




「『綺羅の琥珀』は、絶対に、何かしら出てくる」

「本人が出てくる必要はないのでは?向こうはおそらく、こちらの状況を把握しています」


 ヴィオさんが、悔し気に眉をひそめている。『菫の監視』一族が有する『見ているものを視る』力は、人――だけでなくあらゆるものの、現時点での視界を覗き見る力らしい。

 でも、そのためには二人で儀式を行う必要があるらしく、逃げ回るバジェを補佐しながらどうこう、みたいな事はできないそうだ。


 『綺羅の琥珀』の『見るべきものを視る』力は、望んだ未来に変える力だけれど、未来視ともいえる数瞬先の未来を視続ける――とかなら、実質『菫の監視』と同等な事ができる。しかも『菫の監視』は覗き見だけで、その視覚所有者に働きかけはできないけど『綺羅の琥珀』なら、『望んだ未来』として、視覚所有者の行動や思考すら変えられるとか。


「古い書物で読んだ話と、本人が喋っていた話だ。どこまでホントか怪しいけどな。けど、アイツの力がとんでもないのは確かだ。そして、それだけの力があって、のんきに見物なんてするわけがない。……いいや、力が無くても、奴は来る。この街が、アイツの力の及ぼせる限界範囲内っていうならな」

「……化け物みたいな言い方、しないであげてよ」


 大好きな人が死んで、気持ちのやりどころを無くしているだけなんだよ。


「エーラ、お前なあ。あの女の何を知ってるっつーんだよ。見た目だけ!見た目だけだ、あの女は!アイツは!絶対!俺を!殺りに!来る!そういう!女だ!」

「そこまで力説されるような人って感じはしないけどなあ……その辺は、バジェの日々の接し方が悪かったんじゃないの?」

「だったら見てろよ!?あの女が、どんな女かを!」


 ……どんな人だか、ものすごく会いたいような、やめといた方がいいような


「こんな雑談をしている間に、陽が落ちてくれれば、一番いいのだがな……」


 リステさんが窓の外を眺めながら、零した。明らかに日は傾いているけれど、まだ夕方にも届かない。



 じわじわと、陽が落ちていくのをリステさんと一緒に祈っていただければ……


※ 完結まで執筆済! エタりよう無し!あなたを一人、孤独にはしません!

  毎日一話ずつ更新中。


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