18話 『綺羅の琥珀』の目的~あまりに単純な、それ
「まだ、いるのか?」
「いますね。……リステ。貴方が一番背が高いのだから、貴方が率先して偵察活動をすべきでは?」
「押すな!オレは、体が大きいから目立つというんだ!」
わかっていた事だけど、リステさんとヴィオさんでの偵察活動は駄目だな。……この二人、『菫の監視』一族を代表する長二人なんだよね?大丈夫?
「能力至上主義も考えもんだな……」
バジェも同じ事を思っていたみたいだった。
魔獣は、時折建物に体を擦りつけたり、瓦礫を尾でひっくり返したりしているけど、積極的に人間を探しているようではなかった。ヴィオさんが観察していたように、食べているわけでもない。生きている人が多かった時は、飛び回るだけで人を裂き殺せていたから、あの巨体やスピードでは、細かい作業がし辛いのかもしれない。
……そもそも、人間に興味がないのかも。
「数が減っているな」
「そうなのですか?」
「離れた山に隠れているものや、羽をたたんでいるものがいるので、嵩が違って見えるが――それでも、もっと多く飛来していたはずだ」
「そうなのか?」
そうか。バジェとヴィオさんは、私とリステさんが魔獣を見たタイミングより、遅いんだ。私は割れた窓からひょこっと頭を出した。……本当だ。もっといた。半分――とはいかないけれど、三分の二ぐらいの頭数になっている気がする。
「減ってる減ってる!……どうしよう!他の街に行ったのかも!」
「どうしようも何も、こっから連絡する方法なんてねえよ。そういう魔法が使えるなら――」
期待を込めて視線を向けるが、リステさんもヴィオさんも首を振った。『菫の監視』一族は、『見ているものを観る』力に関しての血の掛け合わせが優先されるから、それ以外にまで手が回らない、との事。魔法の為に血筋を大切にするのが魔術師だから、それと同じ感じなんだねと言ったら、『我々誇り高き『菫の監視』は――』とヴィオさんから集中講義が始まりかけた。
「俺らにゃあ、その尊き血が畏れ多過ぎてわかんねえんだわ。そちらさんも、一族の秘伝を下々の者に話してもしょうがねえだろ」
「――確かに。そのとおりです。知識の過多ばかりは、いかんともしがたいですね……」
ヴィオさんは納得したらしい。バジェが早くも手綱取りを覚え始めた。心強い。リステさんより上手になるかも!リステさん、ライバル登場だね!?と思ってリステさんを見ると『どうぞどうぞ。あとは任せた』とばかり、荷物を久々に下ろせたと穏やかな顔をしていた。切磋琢磨する気はないらしい。……まあ、今日ぐらいは。
「……数が減っているのは、単純に『見るべきものを視る』力がつきかけているだけかもしれねえな。魔法だって、大出力で長時間は難しいだろ?まして、神話に出てくる魔獣なんて『ありえない』ものを無理やり出してるんだからな」
バジェの小麦の魔法も、頑張って一日三袋。ただ、バジェの場合はお店の客入りがそもそも悪いので、だいたい一回一袋だっけ。
「だとしても、昼頃からだぞ?『綺羅の琥珀』の力の底が知れんな……いっそ夜を明かすか?さらに数が減って、明日の今頃には、一匹もいなくなるかもしれん」
「そうですね。私とリステさんでも、魔獣は流石に無理だと思います。……ううん……弱った魔獣を二人がかりなら、一匹ぐらいは……?」
「リステが?魔獣を?」
ふっ。
ヴィオさんが顔を背けている。……なんだろうか。
「ま……まあ。安全策をとるならば、完全に魔獣が消える事を期待して、長期戦を見据えよう」
それが確実だとリステさんの言に賛同しようとしたところで、バジェが口を挟んだ。
「長期戦は無理だな。仕掛けてくるなら今日、日が沈む前に『綺羅の琥珀』はやる」
「短期決戦を?だったらなおの事、今、何もしかけてこないのっておかしくない?」
「なんで今まで何年も手を出してこなかったかも、わかんねえんだ。今さら一時間や二時間がなんだ。……昼飯でも食ってたんじゃねえか?」
そうか、『砂の塔』が崩れた頃が勇者様が処刑された直後だというなら、確かにそうだ。
「距離かもしれません。この街は、この国の最南端の街です。『見ているものを観る』力で見つけた『綺羅の琥珀』がいる場所は、南の国。北の砦の牢に繋がれていますから」
魔獣を飛ばせる、ギリギリの距離なのかもしれない。それにしても、牢だなんて。砂の塔も実際は軟禁状態のようだったけど、牢は酷すぎる。牢に繋がれるぐらいなら……そんなにこの国にいるのが嫌だったの?……そう、だろうな。だって、愛する人を殺した国だ。
「この街なら、俺はあれから何度も来たぜ?別に定期的ではないけど……こんなにドンピシャで魔物を寄越せるなら、今日でなくてもよかったはずだ」
軍の派兵が。宗教の大祭が。収穫時期を終えるのを待って――三人が色々話しているけれど。私は気づいた。
「……私が、この街に来たからだ」
ああ、少し違う。私だって、女剣士として色々と街を回っている。『穢れの銀』ではあるけれど、腕を見込んでと、護衛としてこの街に来た事だってある。正しくは――
「私と、バジェが。揃ってこの街に、来たからだ……!」
待ってたんだ。私が、『あの夢』を見たのは、ずっと幼い頃。『愛する私のために死ぬ男』の夢。あるいは、不完全な『見るべきものを視る』力の、初めての発露。
バジェの思い出話から考えると、それ自体に『綺羅の琥珀』さんの意図があったとは思えない。けれど、バジェと出会ってから――その夢か、未来視かわからないものが繰り返される頻度が増えた。夢の人とバジェが一致したから印象が強くなったとか、バジェと一緒にいるからだとか思っていた。不安に思うから、余計に視るのだと。けれど――
ヴィオさんに捕まったバジェを探していた時。嫌がらせみたいに何度も何度も繰り返し視た。けど、それに抗っていたら――『視えた』のだ。そう。『視え』た。不思議な感覚だけど。それは確かに声であるはずなのに、声として聞こえない。視える。男か女か、若いか老いているのかもわからない。声なのに。視えるだけだから。ともかくそれが、『言った』のだ。予言めいて『告げた』のではなく。言ったのが、『視え』た。
『――そうか。ならば』と。
そして、続いて『視え』たのが、椅子に縛り付けられていた、バジェ。その後、地下室に監禁されていたはずのバジェと、三階で再会できた。
あれは、意図しての事だった。
頭が痛んでいたのは、私ではない『見るべきものを視る』力が強い力で上書きしようとしていたんだ。バジェを殺そうと。
「エーラをか?俺と、次の『綺羅の琥珀』をまとめてやる気で?それから、清々したって戻ってきて、『綺羅の琥珀』の座に座り直すつもりか?……まあ、王は喜ぶだろうよ。エーラより、向こうの方が圧倒的に『綺羅の琥珀』としての力は強いし安定している」
バジェの言っている事は、筋道としては綺麗だ。復讐を遂げて、後顧の憂いとなるライバルを消す。そして、牢獄生活から華々しく砂の塔の頂へ。『見るべきものを視る』力をもってすれば、牢からの脱獄も、崩した砂の塔の再建も、神話の魔獣を十数匹も出すよりずっと楽だろう。
けど、きっとそんなに毒々しいものではない。
いいや、恨みはあるし復讐もある。けどそうではなく。それよりもっと単純で、ちっぽけで、人によってはなんだそんなものと思うような――
はらりと、涙が落ちた。
「違う……嫌がらせだ。仕返しだ。……自分がされた事と同じ事を。やり返したいだけなんだ――」
言葉にすれば、なんて矮小な、捻くれたものだろうか。でも、そうだ。
きっと、もう『綺羅の琥珀』の座なんてどうでもいい。砂の塔になんて、本当に未練はない。だってあの場所に来てくれる人は、もう死んで、いなくなったから。だから崩した。
好きで好きで、好きになった人を。ただただ、喪ってほしいだけなんだ――
相手側の目的が明らかになりました。出鱈目さは、どこまで出鱈目でしょうか。
※ 完結まで執筆済! エタりよう無し!あなたを一人、孤独にはしません!
毎日一話ずつ更新中。
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