16話 あなたの隣のとんでもない人~その正体
本当に船が山に登るかはともかくとして、四人では話が進まないとなった。そうかな?なんだかヴィオさんをそれとなく輪から外したい感じがあるようだった。バジェとリステさんが話をする事になった。私はヴィオさんが話に割り込んでこないよう監視する役を任せられたんだと思う。
……ヴィオさんはヴィオさんで『ワタシが見ておいてあげましょう』みたいに私のお守り役を任されたと思っているようだった。まあ、お互い納得しているなら、いいよね。無言もアレなので、世間話めいた事を始める。
『綺羅の琥珀』の事、色々知っていそうだし。
「つまり、貴女が『綺羅の琥珀』の力を使えば、何でも実現可能という事です」
ヴィオさんからはっきりそう言われると、自信がなくなる。
「そ……そう……なのかな?」
「そういう事でしょう」
なんか、シャープな美人さんなんだけど、見た目の割に、圧が強いな。
「例えば――そうですね。この街が、魔獣に襲われなかった事にすれば、万事解決ですね」
「すごくいい!」
そうだ、そうなったらいいよね!屋根が割れて、壁がなくなってぺたんこになった家も、かぎ裂きにされた家族なんかも一人もいない……今朝までの街!
「ではどうぞ」
「『ではどうぞ』!?」
いや、だから。私、自由に『綺羅の琥珀』の力を使えないんだって。ちょっと前に、使えないとかなんとか私に言い放ったばかりだよね?
「知っていますよ。民草は『互いを思いやる気持ち』というのものがあって、それが美徳なのでしょう?貴方の、街の皆を思う力が出鱈目な奇跡を起こす。いいではないですか。身勝手な『綺羅の琥珀』らしくて」
……この人はどういうつもりで、こういう事を言うのだろう。
「さあいきましょう、はいいきましょう!」
「待って待って待って!無理!」
「亡くなった大勢の人は、そのままでいいと?」
「あっ……いや……その……」
「いえ、貴女は『綺羅の琥珀』の力に目覚めたばかりでしたね。それで大勢を助けるというのは大きな負担となるかもしれません」
「そっ……そうだよー」
とはいうものの。こころにじぐりと棘が刺さる。
私の力が本当にそんなにすごいものなら、ヴィオさんの言うとおり、皆丸ごと助けてあげればいいだけじゃないの?しないの?やらないの?できないの?……本当に?
なんだか、心臓が変な感じで動いている気がする。
「では……人数を絞りましょう」
街の偉い人だけ助けましょう、とか言うのかな。選ぶの?命を。この人は良くて、この人は駄目なの?お年寄りや子どもを助けるために、若者は死んでもいいの?女の人はか弱くて助けないといけないから、男の人には我慢してもらうの?お金持ちと貧乏人は?賢い人とそうでない人は?じゃああれは?これなら――?
「ひとり。たった一人で良いのです。それならきっと、貴女にもできます」
「で……でも。私、そ、そんな……きめ、決められない……」
嫌だ。無理。そんな事。
「いえいえ、貴女が決めるも何も。というより、決めるまでもない事だと思いますが……?でしたら、ワタシがあらためて指定しましょう」
「……」
それって誰?ヴィオさんのお友達?何。誰。その人はなんで助けるの?
手が震えてきた。その手を、ヴィオさんが優しく包んでくれる。ひんやりしていて心地よい。ヴィオさんが、にっこり笑った。
「『綺羅の琥珀』――先代の、『綺羅の琥珀』を殺せばいいのです」
「へっ」
「失われた命は戻りませんが、この先奪われるはずの多くの命を、先んじて救う事になるでしょう」
「……」
「たった一人の命を奪うだけで、どれほど多くの命が救える事でしょう。その救われた命は、やがて子を育み、さらに次の世代を築いていくのです。……有象無象が増えたところで何がいいのかわかりませんが、人の世とはそういうものなのでしょう?知っています、知っていますよ?」
さあいきましょう、ほらいきましょう。ぱん、ぱん、ぱん、と、リズムに合わせでもするように、ヴィオさんが手を叩き始める。少しずつ、そのリズムが早くなり、急かされる。
殺……ころ……ころ……
「まぁて待て待て待てー!?」
ガラついた声がどこかから近づいてくる。急き立てるような拍打ちが消え、私はいい匂いなんだか嫌な臭いなんだかよくわからないけれど、それでも落ち着く匂いに包まれた。
「おっ前らなあ!?どういう価値基準で暮らしてんだよ!?」
「我が一族の特異性は、我々も自覚はしているんだ!あの女はその中でも飛び抜けているだけだ!我々の派閥と、向こうの派閥を、決して混同するな!それは、我々と貴様らを混同する以上の侮辱だ!」
「侮辱なんざどうでもいいんだよ!見てみろエーラを!ジェリーコネズミみたいに、ぷるぷる震えてんじゃねえかよ!?四人じゃ話が進まねえっつうから俺とお前で段取り組んでたのに、肝心要のエーラを駄目にしちまうところだっただろうが!」
大丈夫だったか、って声が、やさしい。大きい人は、困った顔をしていた。
「そこは……そこはっ……確かに……」
「こいつ連れて三人で話すでよかったじゃねえかよ、どうせエーラは口あけて見てるだけなんだから」
……なんか、ひどいことをいわれている、きがする。
「馬鹿を言え!あの女を放置して自由にさせておく事がどれほど危険か、商人、貴様が身をもって体感した事ではなかったか!?」
「なっ……そっ……そうだった……」
「駄目だ。あの女は、『本人はできているつもり』だから一番たちが悪いんだ……」
「それはワタシの事ですか!?」
あっ、ダメ、こわい!
……二度ほど『休憩』と『やっぱダメ』を繰り返して、どうにか元に戻りました。エーラです。もう大丈夫。
『ヴィオさんはああいう人』
『ヴィオさんはああいう人』
『ヴィオさんに関しては諦める』
……よし、大丈夫。
「……『綺羅の琥珀』は何もかもを憎んでいるが、何を一番憎んでいるか、っつったら俺だ」
「でしょうね」
「だろうな」
「あの……その、『でしょうね』『だろうな』がわからないんだけど」
小さく手をあげて、たずねてみる。どうにも、色々置いてきぼりにされている感が否めない。
「バジェは――何の人?『菫の監視』?」
私の質問に、ヴィオさんが眉を吊り上げた。
「こんなおぞましい存在、我が血に関わり合う事など在りません!」
「……まあ、そこまでではないにせよオレも同意見だ。『菫の監視』は『菫の監視』の血の中で次代に繋がらなければならない。他の血はいらん」
……なんかこのへんも意外とややこしそうだけど。
じゃあ何だっていうの。そもそも、どうしてそんなに憎まれる事があるの?『綺羅の琥珀』なんて、おいそれと関われる存在じゃないはず。『砂の塔』に住んでいる、『見るべきものを視る』力っていうのを使って、王様に助言をする乙女――
え、まさか。
「王様……?」
指をさすと、ぶふっとバジェが噴き出した。
「ずいぶん暇な王様もいたもんだな?世直しでもして回んのか?そもそも年齢が合わねえだろうがよ」
「知らないよ、そんなの!」
……ちなみにその直後、三人から『そのぐらいは知っておきなさい』と、お叱りを受けた。バジェまで常識人みたいな顔するの、本当に納得いかない。
「じゃあ……じゃあ……」
違うよね?違ったらいい。お願い、違っていて――
心臓が、早鐘を撃ち続ける。
「『綺羅の琥珀』の……恋人……だったの?」
バジェが、ギョロついた眼を、ことさら大きく見開いた。私の息が、一瞬止まった気がした。
「はっ……はははは!恋人!恋人かよ!?」
えっ、何、その大爆笑。違うの?どうなの?
「なんだ?じゃあ恨まれるってのは、『綺羅の琥珀』そっちのけで、どこかの月の女神と浮気でもしたからか?それともガキ作っておいて逃げたって?はははは!あー……そんな単純なもんだったよかったのにな?」
「なに?だから何なの?だってそんな難しい事――」
バジェはひとしきり笑った後、私の目を見て少し困ったように笑った。普段無駄に偉そうで、根拠のない自信に満ち溢れているバジェらしくもない表情だった。
「いや、違う。――単純だ。単純すぎて笑っちまったんだよ。本当に」
なのに、私はこの表情を、よく知っている。諦めたような、でも私を安心させるような、優しい顔。
――落ちていく、あの人に。
「俺は商人。ずーっと昔から、ただの商人。それだけだったんだよ」
何それ。今までと同じじゃない。ただのバジェって事じゃないの。
「それだけでしかなかったのに――商人以外の事をしようなんて、欲をかいちまった。そのせいで、ぜーんぶ駄目にしちまった。……それだけだ」
バジェは笑っていた。でもそれは――多分本当は、『泣き顔』だったんだと、思う。
次回は、一話使って、バジェさんに思い出話をしてもらいます。
※ 完結まで執筆済! エタりよう無し!あなたを一人、孤独にはしません!
毎日一話ずつ更新中。
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