第2話:雪の向こうにある答え
「どんな方法があるというの?」
私は夫のほうを振り向き、雪が静かに降り積もるのを眺めていた窓から視線を離した。
彼の言葉に、私は愕然とした。私たちは懐妊のために考え得る限りのことをすべて試してきた。それでも、何ひとつ実を結ばなかった。そんな中で、彼は今になって「子どもを持つ方法がある」と言うのだ。
「私たち、ありとあらゆる方法をもう全部試したでしょう? もう嫌なの。何度も何度も失敗を突きつけられるのは、心が折れるわ」
「信じてほしい、エララ」と彼は落ち着いた声で言った。「この方法は、理論上では成功率が77%なんだ」
その自信に満ちた口調に、私は不意を突かれた。彼がそんな確信を示すのを、私は今まで一度も見たことがなかった。
「……その方法って、何なの?」
懐疑心よりも好奇心が勝り、私はそう尋ねた。
「ついてきてくれ」
それだけ言うと、彼は説明もせずに歩き出し、宮殿の出口へと私を導いた。通り過ぎるたびに、侍女たちが深く頭を下げる。
彼は立ち止まり、上着を羽織ってから振り返った。
「何をしているんだ? 君もコートを着なさい」
「どこへ行くの?」私は戸惑いながら尋ねた。
「医師のところ? 世界最高の医師たちには、もう全員診てもらったでしょう。何も変わらなかったわ」
「科学者たちに会いに行く。子どもを授けてくれる人たちだ」と彼は言った。
私は思わず足を止めた。
「研究所? 科学者? どうして彼らが、私たちを妊娠させられるというの?」
「何を馬鹿なことを言っているの!」私は声を荒げた。
「今は2010年よ。人類は、まだ実験室で人間を創り出せるほど進歩していないわ。SF映画でも見すぎたんじゃないの?」
「そういう話じゃないんだ……」
彼は忍耐強くため息をついた。
「聞いて。私は行きたくないわ。あなたの“SF由来の希望”に付き合って、恥をかくなんてまっぴらよ」
「彼らのほうから、実験に招待されたんだ」と彼は淡々と言った。
「実験?」
その言葉に、私は全身が粟立つのを感じた。
「どういう実験なの?」
「それは、科学者たちから直接説明してもらうほうがいい」
そう言い残し、彼は雪の降る外へと足を踏み出した。
私は渋々コートを羽織り、彼の後を追った。王家の車に乗り込み、運転手が研究所へと車を走らせる。
施設に到着し、車を降りて敷地内へ入る。私は、実験室で人間を創れると本気で信じている夫を哀れむべきなのか、それとも、理解できていないのが私自身なのか、判断がつかなかった。
厳重な手続きを経て建物内に入ると、白衣を着た科学者たちが私たちを迎えた。彼らは驚くほど普通で、特別な雰囲気は何も感じられなかった。
その中から一人の年配の男性が前に出て、口を開いた。
「ようこそ、陛下。私どもの方法に信頼をお寄せいただき、光栄です。私はこの研究所の主任科学者、ネイサン・マッツィと申します」
「その方法について、説明してください」
私は不安を隠しながら言った。
「ご主人からは、まだ聞いておられませんでしたか?」
彼は驚いた様子で夫のほうを見た。
「君にとっては、彼らから直接聞くほうがいいと思ってね」と夫は言った。
「私たちが用いる方法は、遺伝子工学です」とネイサンは説明した。
「高度な技術を用いて人間のDNAを操作し、ゼロから新たな存在を創り出します。複数の人間の遺伝子を組み合わせることもあれば、特定の性質を得るために人工的な改変を施すこともあります」
私は、そんな話を聞くとは思ってもみなかった。
衝撃と恐怖が一気に押し寄せ、体が震え、私はその場に崩れ落ちて膝をついた。
「エララ、大丈夫か!」
夫が慌てて駆け寄り、私を支えて立ち上がらせる。
「……これは何? 手の込んだ冗談?」
私は息を荒げながら叫んだ。
「子どもを産めない女王を、皆で嘲笑っているの?」




