第1章:逃げることから始まる物語
あらすじ
「僕は、世界を救うような人間じゃない。でも……逃げたままじゃいられないんだ」
感情が消えていく世界で、
スキルも力もない“ただの泣き虫”が立ち上がる。
幼なじみを救えなかった後悔。
それでも信じてくれる仲間たち。
この物語は、
「選ばれなかった僕」が、
「優しい誰か」とともに、
「世界を変えていく」までの、
一歩一歩の記録だ。
涙も弱さも、そのままでいい。
君が進む限り、物語は止まらない。
キャラクター紹介
■ユウト(17歳・主人公)
気弱でネガティブ思考、何をやっても「自分はダメだ」と思いがち。
村の薬草畑で地味な生活をしていたが、「感情を失う呪い」によって大切な人が壊れてしまい、逃げるように旅に出る。
戦闘スキルゼロ、魔法の素質も平凡。だけど──優しさと覚悟は、誰にも負けない。
「僕は誰かを助ける力なんてないよ……でも、それでも……!」
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■リィナ(18歳・治癒魔法使い)
ユウトの幼なじみで、診療所の見習い治療師。
母性系ヒロイン。怒ると怖いけど、基本的には全肯定型のやさしいお姉さん。
ユウトをずっと見守ってきたが、彼の旅立ちに何かを感じ取り、後を追う。
「いいの、ユウト。私が信じてるんだから、あなたも自分を信じなさい」
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■ティオ(15歳・風魔法の少年)
快活な元気っ子。人懐っこく、ユウトを「兄ちゃん」と慕う。
世間知らずで無鉄砲なところもあるが、その純粋さが皆の心を救うことも。
風を読む魔法に長けているが、本人はあまり意識していない。
「おれ、兄ちゃんについてくって決めたんだ!」
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■ザック(20歳・剣士)
口数少なめだが熱い男。戦闘では最前線で仲間を守る盾的存在。
過去に仲間を失っており、それが彼の静かな怒りの源になっている。
ユウトの成長に誰よりも敏感で、時に強く背中を押す。
「おまえが逃げたいなら、逃げてもいい。だが、逃げた自分を責めるな」
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■シス(25歳・元王国騎士)
かつて“英雄”と呼ばれた騎士。現在は放浪中。
冷静沈着で知識が深く、若い旅人たちの「指導者」的ポジション。
ユウトに、かつての自分を重ねている節がある。
「勇気ってのは、恐れを殺すことじゃない。恐れながら進むことだ」
ユウトはその日もまた、村はずれの薬草畑で地面とにらめっこしていた。
「……あ、また枯れてる……僕が水あげたのに……」
しおれた薬草の葉先をそっとつまんで、ユウトはため息をこぼす。空は晴れているのに、心の中は曇り空。畑の隅に腰を下ろし、空を見上げた。
「はぁ……なんで僕って、こう……何をやってもダメなんだろう」
手元のかごには、わずか数本の草しか入っていない。目の前の畑にはまだたくさんの薬草があるはずなのに、ユウトは手を止めてしまっていた。
誰かが近づいてくる足音がして、彼はビクッと肩を震わせた。振り返ると、赤毛の少女が立っていた。
「やっぱりここにいた、ユウト」
リィナだった。村の診療所で見習い治療師をしている彼女は、ユウトの数少ない友人だった。手には、彼の分のパンとスープの包み。
「お昼、一緒に食べようって言ったのに、また来ないんだから」
「あ、ご、ごめん……その……ちょっと気分が……」
ユウトはうつむいて、かごの中身を隠すように背中に回す。リィナは苦笑して彼の隣に座った。
「薬草、枯れてたの?」
「……うん。僕が悪いんだと思う。水のやり方間違えたのかも……」
「そんなことないよ。あの薬草、最近この辺りの土に合わなくなってきてるって、師匠も言ってたもん」
「でも僕が……」
「ユウト」
リィナの声が少し強くなった。彼はびくっとして顔を上げる。
「自分を責めるの、やめよう? 全部が全部、ユウトのせいじゃないよ」
その言葉は、まるで心の奥まで届くようだった。
彼は、何も言い返せなかった。
……けれどその時だった。
空が、音もなく、裂けた。
雷でもない、地鳴りでもない、でも確かに“世界がひび割れた”ような感覚。
「な、何……?」
思わず立ち上がるユウト。空の一角に、まるで影のような黒いひびが走っていた。それはやがて、もやのような何かを村の方へと垂らし始めた。
「……あれ、まさか“静寂の呪い”……?」
リィナが、呟いた。
そして数刻後。
ユウトの幼なじみであり、ずっと一緒に遊んでいた少年・レンが「感情を失った」。
──笑わない。怒らない。泣かない。
ただ、空っぽの目で遠くを見ているだけだった。
それが、ユウトが逃げてきた日だった。
自分には何もできないと、そう思っていた。
けれど、それでも──。
「……僕が逃げたから、レンは……」
その夜、ユウトはひとり、村を出る決意をした。
「選ばれた人じゃないけど……僕だって、何かできるはずだ」
小さく、小さく、彼の中で灯った炎。
それが、世界を救う旅の始まりだった
次回、第2章「仲間は優しさとともに」
ユウトは小さな町で、最初の“仲間”と出会う。