六、正真正銘の親子
劉翔宇と皇帝はお互いに睨み合いながら、相手の出方をうかがっていた。
「翔宇殿下、晨明殿下が言っていた皇太子殿下の母上が楚の元公主劉若㬢というのは事実なのでしょうか?」
沈黙にしびれを切らした袁馨が劉翔宇に思い切って聞いた。
「その答えは陛下と皇后様がよくご存じではないでしょうか?」
二人とも劉翔宇と目を合わせず、劉翔宇の問いに答えなかった。
「父上、母上。なぜ、黙っているのですか?私は父上と母上の子ですよね?」
「そうよ、義は私が産んだ子よ。翔宇殿下、あなたの考えは見当違いです」
李義は母の言葉に安心していた。
劉翔宇は相変わらず不気味な笑みを浮かべながら、皇帝と皇后を見ていた。
「皇后様、こちらの青年は唐・・・景天と言います」
劉翔宇が景天の名を口にした瞬間、皇后はみるみる血の気の引いた顔になっていった。
景天は劉翔宇の後ろから控えめに顔を出し、ぎこちない挨拶をしていた。
「景・・・天。まさか、そんなはずが・・・」
皇后は誰の目から見てもわかるほど動揺していた。
「驚いたでしょう。まさか、あなたが隠した子がここにいるとは夢にも思っていなかったでしょう」
「隠した子?もしかして、翔宇殿下。俺の母親は皇后様なのか?」
景天は手を震わせ、目を見開きながら、劉翔宇に尋ねた。
「いえ、厳密に言うと皇后様はあなたの母上ではありません。そうですよね?皇后様?」
皇帝も劉翔宇の話が理解できず、皇后を見つめ困惑していた。
「薇美、翔宇殿下は何の話をしている。どういうことだ?」
皇后の目は泳いでおり、落ち着きがない様子だった。
「翔宇、話しが全然見えないのだけど、義と景天さん、皇后様にどんな関係があるの?」
「皇后様が話したくないようだから、私の口から全て話すよ」
劉翔宇は皇后がどう反応するか見ていたが、皇后は黙ったまま、何も話そうとしなかった。
李義は母親の事よりも玲莉が劉翔宇のことを呼び捨てにいていたことが気に入らなかった。
「玲莉、いつから翔宇殿下を呼び捨てする間柄になったのですか?」
李義は玲莉にしか聞こえない声で玲莉を問い詰めていた。
「義、今はその話はどうでもいいでしょう。あなたの母親が誰なのか問題になっているのですよ」
「私にとっては玲莉のことが最優先事項です。さぁ、話してください」
「いや、その・・・」
李義は周りのことも気にせず、玲莉に顔を近づけ迫っていた。
「玲莉は無事か!」
息を切らしながら王浩が現れた。
「これは・・・一体・・・」
王浩の足元には無数の遺体が転がっていた。
「李誠明?・・・晨明殿下・・・それに、黒風まで。陛下、何があったのですか?」
皇帝の近くには元気な玲莉の姿を確認できて、王浩は胸をなでおろしていた。
「王丞相、その話はあとで。今はこの場で二十年前の真相を明らかにしなければなりません」
「二十年前の真相?」
王浩は二十年前に何か大きな出来事があったか、記憶を掘り起こしていた。
(二十年前・・・二十年前といったらちょうど若㬢と景天がいなくなった年か・・・)
王浩はふと落ち着きのない様子の皇后を見た。王浩はその顔にある人の面影を感じた。
(あの顔、どこかで見た記憶が・・・いや、まさかな)
劉翔宇は王浩が皇后の顔を見て、何かを思い出したことに気づいた。
「王丞相も気づいたのではないでしょうか。皇后様、いえ、こうお呼びするべきでしょうか・・・劉・・・若㬢」
皆の視線は皇后に集まっていた。
「そんな馬鹿な・・・お前は若㬢なのか?」
皇帝は、そんなはずはないと何度も自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。
「劉若㬢、いい加減、真実を話したらどうですか?あなたも被害者です」
皇后は昔の嫌な記憶を思い出したのか、涙を流しながら膝から崩れ落ちた。
李義は目の前にいるのが母親なのかそうでないのかわからず、近寄って慰めることもできなかった。
顔を上げた皇后は隠しきれないと覚悟したのか、力強く勇ましい顔つきになっていた。
「そうよ。翔宇殿下の言う通りよ。私は楚の元公主、劉若㬢よ。私は・・・私はあの男に全てを狂わされたのよ」
劉若㬢が指をさした先にいたのは、皇帝李叡だった。
「義、これだけは信じて。あなたは私の子であることはたしかよ。でも、あなたの父親はこの男ではないわ。あなた父親は孟子謙よ」
「孟子謙?」
「そんなはずはない!あの時確かに朕とお前は・・・」
「やっと認めたわね。李叡。あの時私を襲ったのはあなたね」
皇帝はつい口走ってしまい、自らの口で墓穴を掘ってしまった。
「景天もいるなら話しましょう。あれは、二十年も前・・・」
劉若㬢は義と景天のつながりについて全て包み隠さず語りはじめた。




