三、裏切り者の死と制圧
「ぐはっ」
ある人物が血を吐きながら、膝から崩れ落ちていた。
「白庭が私を裏切ると思っているのですか?」
白庭の剣は李義を通り過ぎ、皇帝を背後から襲おうとしていた者の脇腹を一突きしていた。
「本当に優秀な護衛ですね・・・黒風」
部屋の空気が一気に冷めるかのような、冷たく重い李義の声が響いた。
皇帝を背後から殺そうとしていた人物は李建明の元護衛の黒風だった。
「皇太子殿下・・・いつから私があなたを裏切っていると知っていたのですか?」
「私たちの行動が李誠明に筒抜けでした。もうこれは内部に内通者がいるしかないでしょう。皆は白庭か黒風かと思ったようですが、白庭が私を裏切るようなことは絶対にしません。あと残るのはあなただけでしょう。あなたが内通者だとわかった時点から白庭が私を裏切っているように見せかけました。黒風のおかげで李誠明も晨明も白庭が私を裏切っていると信じたのでしょう。そちらの情報も知ることができました。ある意味黒風は優秀な護衛ですね」
黒風は悔しい表情をしながらも、脇腹を抑え、痛みを堪えていた。
「それにあなたは早くから建明のことも裏切っていましたよね?」
「その通りですよ」
黒風は開き直って李義に全て話しはじめた。
「玲莉お嬢様誘拐事件の前、私は北誠王府で北誠王と従者の会話を盗み聞きしていたのです。それで・・・」
北誠王では玲莉誘拐計画を話していた。
「もう失敗は許さないぞ。王玲莉を連れてきさえすればよい。絶対に傷つけるな」
陰で息をひそめながら黒風が話を聞いていた。
(殿下に知らせないと!)
黒風は音を立てないよう、静かにその場をあとにした。
しかし、北誠王府の護衛の者に見つかってしまった。
「北誠王、鼠が隠れていました」
「何だ、黒風ではないか。で、私たちの話をどこまで聞いた」
黒風は恐怖で声を出すことができなかった。北誠王府の護衛は容赦ない者たちばかりであったため、拷問にかけられるのではないかと考えていた。
「黒風。安心しろ。お前は建明の護衛だ。殺しはしない。しかし、私の言うことは聞いてくれるかな?」
今すぐにでも殺されそうで、黒風は頷くしか選択肢はなかった。
「建明殿下もまさかここまで北誠王と私がつながっていることは知らなかったと思います。玲莉お嬢様、後宮に晨明殿下が帰って来てから、なぜ建明殿下が晨明殿下のそばを離れなかったと思いますか?」
「えっ・・・」
玲莉には建明の行動の意図が読めなかった。
「建明殿下は・・・あなたをまだ愛しているのですよ。晨明殿下が玲莉お嬢様に目をつけていたのは誰が見てもわかります。だから、晨明殿下と玲莉お嬢様が関わりを持たないように自分を犠牲にして、あなたを守っていたのですよ」
「黒風、それ以上はやめろ!」
声のする方を振り向くと、そこには建明が息を切らして立っていた。
「黒風、お前は何をしたのかわかっているのか?陛下を殺そうとしていたのだぞ」
黒風は下を向いたまま、建明の目を見ることができなかった。
「建明、今さら何の用だ?お前はもう用なしだ。申し訳ないが、玲莉は私がもらう。私の実の弟だから殺しはしないさ。冷離宮で蘭玲と子作りにでも励むといい」
晨明は視線で合図をし、建明を連れて行こうとした。
「私に触るな!」
建明は連れ去ろうとしていた晨明の配下の者たちを斬りつけた。
「玲莉をお前なんかに渡さない。玲莉は・・・」
玲莉は自然と涙が流れていた。
晨明は鼻で笑いながら、玲莉を近くの配下の者にあずけて、剣を抜いて建明の前に立った。
「兄上ー!」
建明は叫びながら、晨明に斬りかかったが、晨明に峰打ちされ、気絶した。
「建明を冷離宮に連れて行け」
建明は抱えられながら、冷離宮へ運ばれていった。
(よかった・・・さすがの晨明でも実の弟は殺さないのね)
晨明の意外と兄弟想いのところに玲莉は感心していた。
晨明は玲莉のところに戻り、荒々しく手をつかんだ。
「さて、皇太子殿下。これからどうしましょうか?」
李義と晨明はお互いに睨み合っていた。
晨明は勝ち誇ったかのような顔をしていたが、李義は鋭く突き刺さるような目をしていた。
「殿下、黒風をどう処理すればいいでしょうか?」
「白庭、言われなくてもわかるでしょう?・・・殺せ」
黒風は命乞いをすることもなく、一瞬で首をはねられていた。
玲莉はその光景を直視できず、目をつむっていた。
「さて、皇太子殿下。これからどうしましょうか?黒風を殺したところで私の手の中には玲莉と皇后がいます。あなたにとってはどちらも大切な方ですよね?」
「晨明、私の話を聞いていましたか?私は白庭からあなたたちの情報を得ていたのですよ」
李義は大きく深呼吸し、後宮中に響き渡るような声で叫んだ。
「殺せ!!」
李義の合図で一斉にある部隊がやってきた。
一瞬で李誠明と晨明と二人の配下の者たちは囲まれていた。
皇后を捕らえていた者たちはすでに血を流して倒れていた。
玲莉も気づけば李義の腕の中にいた。
「義ー!」
玲莉は李義を抱きしめて離さなかった。
「晨明、あなたの負けです」
晨明に剣を向けていたのは皇帝だった。
剣を向けられているにも関わらず、晨明はにやにやしていた。
「陛下、私は知っているのですよ。李義は陛下と皇后の子ではないと!」
晨明の言葉に皇帝は晨明から視線を逸らし、ある一点を見つめていた。




