三十一、意味深な言葉
「これは申し訳ありません。皇太子殿下。私が玲莉を泣かしてしまったので、慰めようと思っただけですよ」
玲莉の前に現れた李義はつかんでいた晨明の手を振り払った。
「玲莉に何を言ったのですか?」
晨明は玲莉を見ながら、口角を上げ、意味深な表情をしていた。
「何もないですよね?玲莉」
(まさか本当に姉上は承知の上で罠に引っかかったの?晨明殿下もなぜ私にそのことを話したの?陛下にバレたら首をはねられるはずでしょ?晨明殿下意図がわからないから、どう対応したらいいのかわからない)
「・・・玲莉!玲莉!」
玲莉は李義の声で我に返った。
「玲莉、顔色が悪いですよ。晨明に何を言われたのですか?」
「いいえ、何もありません。大丈夫です」
玲莉が晨明を見ると、晨明は玲莉が耳元で話したことを絶対に話さないと確信しているような態度をとっていた。
玲莉は晨明が何を考えているかようやく理解した。
(なるほど・・・私が陛下に晨明殿下の話をすれば、晨明殿下は処刑されるけど、同時に姉上も処刑されることになるわ。私が話さないことを見越してわざわざあの話をしたのね。何て性格悪いのかしら)
「義、疲れたから部屋に戻ります」
「私もついていこう」
晨明は笑顔で玲莉に手を振りながら見送っていた。
(悔しい・・・でも姉上を巻き込むことはできない)
玲莉はいつか晨明に天罰が下れと願いながら、紅玉宮へ戻っていった。
「玲莉、一体晨明に何を言われたのですか?正直に話してください」
玲莉は紅玉宮に戻ってから、しつこく李義に問い詰められていた。
「ただ・・・その・・・そうそう、晨明殿下が皇后になりたいなら、私の王妃になれ、みたいなことを言っていたので、拒否していたのですよ」
「李晨明・・・殺されたいのでしょうか」
今すぐにでも行って本当に殺しそうだったので、玲莉は李義をなだめながら止めた。
「安心してください。もし義が皇帝にならなかったとしても、私は義と一緒にいますから」
李義はうれしそうに微笑みながら、玲莉を抱きしめた。
「それにしても、皇后になりたいなら、王妃になれとは。晨明が皇帝にでもなると?」
「そういえば・・・」
玲莉は晨明の言い回しが気になっていた。
「どうしましたか?」
李義は玲莉を抱きしめていた手を離し、玲莉の肩に手を置いて、心配そうに見つめていた。
「いえ、晨明殿下の言っていたことが気になりまして・・・晨明殿下はこう言ってました。『君はこのまま義と一緒にいても皇后にはなれないよ。妻を全員捨てるから、私の王妃になる気はないか?』と」
「私と一緒にいても皇后になれない?ですか。どういうことでしょう。晨明は皇帝になるつもりなのでしょうか?あの人が皇帝になってしまったら、それこそ魏の国は滅びるでしょうね。玲莉は心配しなくても大丈夫です。あの人に玲莉を渡すはずがありません。誰であろうと絶対に渡しません。もし、玲莉が私の前から消えてしまったら、私は地の果てまで玲莉を捜し続けます」
(私が楚に行ってしまったら、義はどんな手を使ってでも私を取り戻しに来るだろうな。私が楚に行く目的は聖女に関する情報を得ること。何かわかったらすぐに義のもとに帰ろう)
玲莉は李義に申し訳ないと思いながら、李義の胸に顔をうずめながら、抱きしめた。
李義も玲莉が遠くに行くような妙な胸騒ぎし、不安になりながら、玲莉の頭を優しくなでていた。
「殿下、いよいよです」
「よかった。なんとかなりそうだな。黄飛、景天さんに・・・」
黄飛は景天のところへ急いで向かった。
「さて、これから魏はどうなるかな?」
劉翔宇はほくそ笑みながら、窓の外を見ていた。




