三十、晨明が明かしたあの日の真実
玲莉は夜中に一人で蘭玲からの文を読んでいた。
文の蘭玲の字を見るだけで、蘭玲を近くに感じることができた。
玲莉を心配させないためか、冷離宮の悪辣な環境については一切触れていなかった。
(意外と楽しくて充実しているって絶対嘘でしょう・・・)
玲莉は蘭玲が恋しくになり、静かに涙を流していた。
しかし、文の後半を読むにつれて、流していた涙も止まってしまった。
『玲莉、実は一つだけ気になることがあるの。冷離宮に亡くなった人の骨があったの。大きさからすると女の人だと思うの。玲莉に言うべきことではないかもしれないけど、私は冷離宮から出ることができない。だから、玲莉。父上や母上なら何か知っているかもしれないから伝えて。この亡くなった人は皇族と関りのある人のはずだから。先帝時代か現皇帝かはわからないけど、過去に何か大きな出来事があったはずよ。もしかしたら聖女に関わることかもしれないから、玲莉、気を付けて。今、あなたのそばで守ることができない姉を許して』
(冷離宮に白骨化した遺体?どういうこと?この後宮内で一体何があったの?義に聞くわけにもいかないし、父上に聞くしかないか・・・)
玲莉は考えることをあきらめ、そのまま目をつむり眠った。
次の日、玲莉は意外な人物と鉢合わせした。
「君は王玲莉だね。顔を隠しているけど、すぐわかるよ」
「晨明殿下、お久しぶりです」
護衛の袁馨は警戒し、玲莉を守るように立っていた。春静は胸を張って威嚇し、態度だけは袁馨より強気だった。
「君は袁将軍の娘の・・・袁馨だね。玲莉は本当に皇太子殿下に愛されているようだね。袁馨を相手にできる人など片手の数ほどしかいませんから。袁馨が目の前にいては私は手も足も出せません」
(本当に袁馨さんって強かったんだ。私は武術とかできないから、心強い)
「晨明殿下、用がないようでしたら、失礼します。皇太子妃、行きましょう」
袁馨は玲莉を自分の背に隠しながら、晨明から離れようとしていた。
「待って」
晨明は振り返って玲莉たちを止めた。
「王玲莉、君はこのまま義と一緒にいても皇后にはなれないよ。妻を全員捨てるから、私の王妃になる気はないか?」
(この人急に何を言っているの?)
玲莉たちは晨明の言葉の意味が分からず、怪訝な顔で晨明を見ていた。
「晨明殿下。私はたとえ義が皇帝にならなくても一緒にいます。私は皇后になりたいから、義と一緒にいるわけではありません。好きだから一緒にいるのです」
玲莉は鋭い目つきで晨明を睨みつけながら、怒りを抑えていた。
「そうか、そうか。君が皇太子殿下を想っていることは理解した。しかし、建明も可哀想に。未だに君のことを想っているのに、君の姉と婚姻させられて。君は皇太子殿下と相思相愛になっていて。でも、君は私に感謝しないといけないのだよ」
「どういうことですか?」
晨明は不敵な笑みを浮かべながら、玲莉を手招きした。
「皇太子妃、近づいてはいけません」
袁馨は玲莉の前に出て、いつでも剣を取り出せる構えをしていた。
「君はこれを逃すと、なぜあの日、君の姉と建明が寝ることになったのか知らないままになるよ」
(今、姉上が冷離宮にいるのは私の責任だ。あの日の真実を・・・私は知りたい)
玲莉は袁馨に、大丈夫ですと言って、玲莉から晨明の近づいていった。
晨明は近づいてきた玲莉の手を引っ張り、引き寄せた。
袁馨は剣を抜こうとしたが、玲莉に止められた。
「本当に綺麗な瞳だ。ぞくぞくする」
「晨明殿下、早く話してもらえませんか?」
玲莉は嫌な顔をしながらも、晨明に問いただした。
晨明は玲莉の耳元に近づき、囁くような小声であの日の真実を告げた。
「あの日、玲莉の部屋の香に催眠草を入れたのは・・・私だ」
「何ですって!」
衝撃的な事実に玲莉は思わず大声で叫んでしまった。
晨明は静かにと言いながら、もう一度玲莉の耳元で告げた。
「あの日、建明に媚薬を飲ませたのも私だ。建明はどうしても君を自分のものにしたいと思っていたんだ。私が香に細工する機会をうかがっていた時にちょうど君の姉が一人になってね。元々君には建明と寝てもらうつもりはなかったから、適当に誰かと建明を寝かせようと思っていたけど。私は幸運だった。君の姉がその代わりをしてくれたのだよ。それに君の姉は私の細工に気づいていた。でも、そのまま建明と寝たんだよ。だから、感謝してほしい。君の貞操を守って、君の姉の想いを遂げさせてあげたのだから」
晨明の頬は玲莉の平手打ちによって赤く腫れていた。
「よくも・・・よくも・・・姉上の・・・」
玲莉は涙を浮かべながら、鋭い眼光で晨明を見ていた。怒りで涙が血の涙になっていた。
「これが聖女の涙・・・美しい・・・」
晨明が玲莉の頬をつたっている涙を手で拭おうとした時だった。
「玲莉に触れないでください!」
晨明の手を阻むものが颯爽と現れた。




