二十八、冷離宮の秘密
「なぜ、李誠明はまだ攻めてこないのだ。何をしているのだ」
劉翔宇はなかなか行動しない李誠明に焦っていた。このままでは、玲莉を楚に連れて帰る時、真冬の極寒の中連れて行くことになる。玲莉が寒さに耐えれるのか不安だったため、劉翔宇は少しでも早く攻めてきてほしいと考えていた。
「殿下、李誠明はあえて遅らせているようです。おそらく、玲莉お嬢様が魏から出ないようにするためだと。逃げても雪の中では遅くなり、追いつくのも容易ですから」
「私は李誠明を甘く見ていたようだな」
劉翔宇はイライラしながら、机を思い切り叩いていた。
「それで例のものはどうした?」
「実際にその場所で見ていただいた方が良いと思い、そのままにしていますが」
劉翔宇は頭を抱えていた。
「黄飛、あの場所には・・・もういい。あの二人がどう処理したのだけ確認しておけ。あれは重要な証拠だからな」
「そうでした。申し訳ございません。確認します。それと、殿下。陛下の体の調子があまりよくないようです。早く戻らないと・・・」
「あぁ、わかっている。しかし、玲莉を連れて行くのが先だ」
(こうなったら一か八か賭けるしかないな・・・)
「黄飛、いつでも楚に帰れるよう準備をしておけ」
黄飛は今まで見たこともないほど、怒りを表している劉翔宇に怯えながら、走り去った。
「ここが、冷離宮か・・・」
戸を開けると、そこには人の頭蓋骨が建明の方を見ていた。
「わぁ!」
思わず叫び声を上げながら、尻もちをついてしまった。
「建明、遅かったわね」
そこには睨むような鋭い目つきで立っている蘭玲が立っていた。
蘭玲は建明がなかなか冷離宮に来なかったため、最低限生活できるように一人で整えていた。
「驚かすなよ・・・なぜ人の頭蓋骨があるのだ。この冷離宮は長い間使われていなかったはずだが」
「さぁ、私にもわからないわ。でも、見る限りそこまで古い骨でもないようね・・・二、三十年くらいは経っていそうだけど」
(どういうことだ?)
建明は長年使われていないはずの冷離宮に人の骨があることに疑問を抱いた。
「蘭玲、この骨以外はなかったのか」
「だぶん全部この人の骨だと思うけど。頭蓋骨以外は庭に埋めてあるわ。これはあなたを驚かせるためだけにわざと置いていたから」
「蘭玲は昔から変わらないな」
建明は玲莉に会うためよく王家を訪れていたので、蘭玲のことも知っていた。
蘭玲は昔から勇毅や逸翰と遊んでいたため、虫などを捕まえては王家に来ていた建明を驚かせていた。
王浩と思敏は蘭玲の言動に頭を抱えながらも、無理やり強制することなく、最低限の令嬢としての礼儀作法だけ叩き込み、あとは自由にさせていた。
そのためか剣術、武術など女としておくにはもったいないほどの才能を開花させていた。
建明は蘭玲を好ましく思っていなかった。
なぜなら、建明は一度も蘭玲に勝てたことがなかったからだ。
「建兄ー」
玲莉はいつも建明のそばに駆け付け、優しい笑顔で出迎えていた。
玲莉は王家の愛情を一気に受け、大事に育てられたため、怪我をすることがないよう剣術や武術など習うことはなかった。
玲莉には自分自身で守る術を持たなかった。
建明は初めて自分が守らなければならない存在に、喜びを感じていた。
(あぁ、こうなってしまったのも自分の責任だ)
建明はゆっくりと立ち上がり、頭蓋骨を手に取った。
(それにしてもこの骨は誰のだ?最低でもここは百年は使われていないはずだ。なぜ、骨が・・・)
このまま中に置いておくのも気味が悪いので、建明は一旦頭蓋骨を庭に埋めることにした。
「建明、この件は陛下に報告した方がいいと思うのだけど」
「・・・この件は私に任せておいてくれ」
(どっちみち私に残された道は限られている。ならば一層の事・・・)
蘭玲は建明の怖ろしい顔つきに言葉をかけることができなかった。
(これがあの建明なの?穏やかで優しかった建明はどこにいったの?)
玲莉が建明のもとから離れていった日から、建明は以前のような穏やかさは失っていた。




