二十七、跡継ぎ問題
魏の皇帝の血筋は今のところ代々守られてはいる。幸い生まれる割合は男子が圧倒的に多い。
しかし、多くの妃を抱えていても、子は多くて三人までしか生まれない。
先代の皇帝の子は李泰、李叡、李誠明の三人だけだった。皇帝が崩御後は長子の李泰が皇帝になったが、何者かによって暗殺され、李叡が皇帝の座についた。
李叡も何人もの妃を後宮入りさせたが、結局懐妊したのは、今の皇后だけだった。
他の妃は廃妃となり、一生後宮から出ることもできず過ごすことになった。
妃や妾が多い李誠明の息子李晨明でさえ、未だに子がいない。
李義は現皇帝の唯一の息子であるため、皇帝からも民からも期待がかかっている。
しかし、李義は今まで一度も女性と関係を持ったことがなく、子が生せるかどうかわからなかった。
もし、玲莉と婚姻し、皇帝となり、子が生せなかった場合、跡継ぎ問題が出てくる。
李義はその問題で玲莉を苦しめることはしたくないと考えていた。玲莉以外の妃を迎えることは李義には考えられなかった。
(皇太子殿下ってたしか二十歳。その年でまだ女性と関係を持ったことがないなんて・・・興味がなかったと言っていたけど、本当に興味がなかったのね。まぁ、前世で二十五歳にもなっても何もなかった私が人の事とやかく言う筋合いはないけど)
「どうして笑っているのですか?」
李義は皇太子である自分と一緒になることに躊躇するのではないかと考えていたが、玲莉はなぜか笑っていた。
「皇太子殿下、まだ私と殿下との間に何も起きていないのに、今心配したところでしょうがないのではないですか?私のことは心配しないでください。子ができなかった時はその時考えましょう。できることをやってから、考えるのが一番です」
玲莉は自信満々に答えていたが、その言葉が李義を誘っているように聞こえる言葉だとは気づいていなかった。
「なるほど・・・では今からできることでもしましょうか?」
李義は玲莉をお姫様抱っこして、寝室まで連れて行った。
寝台に下ろされた玲莉は李義に抵抗していた。
「皇太子殿下、ちょっと待ってください。私はそういうことを言ったのではなくて・・・」
玲莉の抵抗も虚しく、玲莉の唇は李義に激しく貪られていた。玲莉は抵抗しても無駄だと受け入れ、李義の首に手を回し、応えていた。
「皇太子殿下、陛下がお呼び・・・」
春静は二人の状況を察して、後ろを向いて見ていないふりをした。
「続きはまた後日。本当に子ができないのか試す必要がありますしね」
耳元で李義のそう囁かれた玲莉は、顔赤らめて、馬鹿と言いながら、李義に枕を投げつけていた。
李義は玲莉を投げた枕を片手でつかみ、玲莉の頭の下に枕を置いた。
「玲莉、皇太子殿下ではなく、義と呼んでください。私たちは夫婦になりますし、名前で呼ばれた方がうれしいです」
「皇太子殿下、陛下がお呼びだそうなので早く行かないと」
李義は玲莉を押し倒すように、玲莉の頭の横に両手をついていた。
李義は玲莉が名前を呼ぶまで動かない様子だった。
「・・・義」
(翔宇を名前で呼ぶのは簡単なのに、なぜ皇太子殿下の名前を呼ぶだけでこんなに照れるの)
「よくできました」
李義は最後にもう一度玲莉に軽く口づけし、皇帝のところへ向かって行った。
「玲莉お嬢様、間違えました。皇太子妃。邪魔して申し訳ありませんでした」
明らかににやにやしてからかっている春静に言い返す気力は玲莉には残されてなかった。
「義、羅洋からの報告だと・・・」
皇帝と李義はそれぞれの知りえた情報を交換していた。
「父上、安心してください。手はずは全て整えています」
皇帝は安心した様子で、李義を見つめ、頷いていた。
「義、婚姻のことだが婚姻できる年齢を十六からにしようと考えている。玲莉は三月生まれだから、あと十六まで五月だ。魏の内外の情勢は義も理解していると思うが、あまりよくない。義と玲莉の間に子ができれば、この国にとって大きな救いとなる。義と玲莉のことを心配していたが、今では相思相愛の仲だ。子ができるのも時間の問題だろう。玲莉ならきっと義の子を宿してくれるだろう。まぁ、義も頑張っているみたいだな」
皇帝はそう言って、微笑みながら、唇をさしていた。
義が自分の唇に触れると、そこには玲莉の紅の痕が残っていた。
義は恥ずかしがりながら、はいと真っすぐな目で皇帝を見つめていた。




