二十五、女護衛
玲莉の目の前に女でもほれぼれするような、背が高く、勇ましい顔立ちの女性が一人立っていた。
「彼女は将軍の娘で袁馨です。きっとこの国で彼女にかなう男はそうそういないでしょう。もちろん、私は負けることはありませんが。今日から玲莉の護衛です」
「はじめまして、皇太子妃。袁馨です。実は以前、妹が皇太子妃にお会いしたことがありまして。楚の皇太子劉翔宇の妃選びの時に・・・」
(誰だ?正直、全く覚えていない。あの時は翔宇が楚の皇太子だって知った衝撃の方が大きくて、まともに令嬢なんて見ていなかったし。袁・・・袁・・・そんな令嬢・・・?あっ!)
玲莉は一人だけひときわ目立つ厚化粧していた令嬢を思い出した。
「あの時の厚化粧の。あっ!」
玲莉はまずいことを言ってしまったと思い、思わず口を両手で塞いだ。
袁馨は声高らかに涙を流しながら、笑っていた。
「厚化粧っ。その通りですよ。妹は着飾ることしか考えていなくて。あの日も皇太子殿下の目に留まるためにと厚化粧していました。私はやめたほうがいいと言ったのですが」
(そういえば、翔宇もだいぶ引いていたような)
玲莉は妃選びの時の翔宇の引きつった顔を思い出し、くすくすと笑っていた。
「皇太子殿下が選ぶだけありますね。本当に愛くるしい方ですね」
玲莉は袁馨に触れられた頬が熱を帯びているのを感じた。
(この人、男の人だったらモテていただろうに。女の人とわかっているのに、ドキドキしちゃう)
玲莉はは思わず照れて目を背けてしまった。
「袁馨、いくらあなたが女でも私に玲莉を誘惑したら、その手を斬り落としますよ」
「皇太子殿下は皇太子妃以外には本当に手厳しいですね。安心してください。私にも皇太子妃のような可愛い妹がいたらなと思っただけですので」
「あのひとついいですか?その・・・私はまだ皇太子妃ではありませんので、名前で呼んでいただければ」
皆一斉に李義の顔色をうかがっていた。
李義は隣に立っている玲莉の肩に手を置き、自分の方を向かせ、玲莉の目線まで顔を近づけた。
「玲莉。私は玲莉以外娶らないし、皇太子妃は玲莉以外いません。いずれそう呼ばれるのですから、今から呼ばれても問題はないでしょう。それとも、何ですか?私の妻になりたくないのですか?」
李義に詰め寄られ、玲莉は返す言葉もなかった。
「わ・・・わかりました。では皇太子妃で」
「いい子ですね」
李義はそう言って、玲莉の頭をなでていた。
「もう、皇太子殿下。私を子供扱いしないでください」
「玲莉はまだ子供でしょう」
玲莉が頬を膨らませて怒った顔をしていると、玲莉は大人でしたねと言って、わざと音を立てるように、口づけをしてきた。
「皇太子殿下は私をからかっているのですか?」
「からかっていませんよ。本当に可愛いなと思っただけですよ」
玲莉は怒っているふりをしながら、笑みをこぼしていた。
「あの・・・皇太子殿下と皇太子妃。私たちの存在を忘れていませんか?」
玲莉が右を向くと、春静、袁馨、侍女たちがにやにやしながら二人を見ていた。李義を見るとうれしそうにしている顔を隠すように口を手で覆っていた。
玲莉は頭から湯気出るほど恥ずかしくなり、後ろを向き、両手で内輪のように扇ぎ、自分の顔を冷ましていた。
急に李義は真剣な表情に変わり、皆を見渡していた。
「わかっているとは思いますが、玲莉の容姿に関しては一切他言してないけません。玲莉についての情報が漏れた場合、全員首を斬り落とします。私が選んだ人たちですので、そんなことは万が一にもないとは思いますが。紅玉宮から出る時は必ず玲莉の顔が見えないよう、この笠を被せるように。袁馨、もし誰かがその笠を取ろうとしたら、その場で斬り殺してください」
「御意」
(これほど物騒なことを言っても、顔色一つ変えないのは、ここにいる人は安心していい人たちなんだ。一人だけ震えているけど・・・)
春静だけは李義の言葉にプレッシャーを感じ、玲莉を守らないと殺される恐怖で震えていた。
李義は玲莉の手をつかみ、
「今から会わせたい人がいます」
と言って、玲莉にある人物を紹介するために、春静だけ玲莉につけて、手を引っ張っていった。
春静は今まで以上に左右を見渡し、玲莉に何も起こらないよう警戒していた。




