二十二、三姉妹、兄と妹の最後の日
玲莉と蘭玲が王家を去る前日の夜、二人は嬌と共に寝台に寝ていた。
三人で普通に寝ると狭いため、寝台の幅の狭いほうに川の字に並んで寝ていた。
嬌と蘭玲は女性にしては身長が高いため、かなり足を折り曲げていたが、玲莉は身長が低いため、そこまで窮屈ではなかった。玲莉は蘭玲と嬌に挟まれ、真ん中で寝ていた。
「義姉上、勇毅兄上は今日はどこで寝ているのですか?」
「あぁ、勇毅なら蘭玲の部屋で寝ているわ。勇毅が今日は玲莉と蘭玲と一緒に寝てやれってね。本当は自分が一緒にいたいでしょうに。可愛い妹たちがいなくなるから本当は寂しいはずよ」
「兄上はいつでも自分のことより、私たちのことを優先してくれるから」
蘭玲は勇毅の兄としての優しさを改めて感じていた。
「勇毅は本当にあなたたちのことを大事に思っているから。特に玲莉には甘いからね。私もそうだけど」
嬌は玲莉に頬ずりしながら抱きついていた。玲莉は抱き枕になったような気分だった。
「私が王家に嫁いだは、もちろん勇毅が素敵な人だったこともあるけど、あなたたちがいたからなの」
「そうだったのですか?」
蘭玲も玲莉も初耳だったので驚いていた。
「私の家は兄が二人、弟が二人で姉も妹もいなかったの。私は妹が欲しかったの。一緒に刺繍したり、髪を結ったり、ずっと憧れていたの。私の父は義父上と仲が良いから、昔からずっと言われていたの。お前が婚姻するのは王家の長男勇毅とだって。父上は勇毅の事しか話さないから、まさかこんなに綺麗で可愛い妹たちがいるなんて知らなかったのよ。蘭玲は綺麗な顔に似合わず、少し男勝りだけど、令嬢としての作法や教養はきちんとできていて。年も近かったからすぐに仲良くなれたわね。玲莉は王家の宝と言われているだけあるわ。いつも笑顔で純粋で。いるだけで皆が笑顔になれる太陽みたいな子だわ。私は感謝しているの。蘭玲と玲莉というかけがえのない義妹に出会えたことに。本当に・・・」
恥ずかしくて嬌と目を合わせられなかった蘭玲と玲莉は急に言葉が途切れたので、同時に嬌を見ると、泣きすぎて声が出せなくなっていた。
「義姉上、泣かないでくださいよ。義姉上が泣くと私まで・・・」
次は蘭玲が泣きはじめてしまった。
「もう、姉上たちは・・・」
蘭玲と嬌は二人とも玲莉に抱きつき、玲莉も声を出して泣きながら、二人を抱きしめるのであった。
「いつの間に寝たのだろう」
蘭玲は部屋に差す光で目が覚めた。隣には玲莉を抱きしめたまま眠っている嬌と幸せそうな顔で眠っている玲莉がいた。
蘭玲は起こさないように玲莉の頬にそっと触れた。
(可愛い寝顔。そういえば玲莉と一緒に寝るのも久しぶりだったわね。最後に一緒に過ごすことができてよかった)
蘭玲は外の空気を吸おうと思い、戸を開けた。すると、そこには勇毅が座っていた。
「あぁ、蘭玲か。昨夜は三人の泣き声が響いていたが、大丈夫だったのか?」
「義姉上のせいですよ。急に泣き出すから。私も玲莉もつられて大泣きしてしまいました」
「そうか、嬌は感情が豊かだからな」
勇毅は笑いながらもどこか寂し気な表情だった。
「兄上、ありがとうございました。最後に、義姉上と玲莉と一緒に過ごすことができて、良かったです。兄上はいつも本当に優しくて、私や逸翰、玲莉の心配ばかりで・・・いつも心配ばかりかけて本当にごめんなさい」
勇毅は立ち上がり、蘭玲の頭をなでながら、抱きしめた。
「私はお前たちの兄なのだ。弟や妹たちを心配するのは当然だ。私こそ謝らないといけない。蘭玲の力になってあげられなくてすまない。本当はお前を手放したくない。もう二度と会うことができないなんて・・・。私は大事な妹を救うことができなかった。後悔しても後悔しきれない。もっと寄り添ってあげればよかった。本当に申し訳ない・・・」
勇毅は下唇を噛み、泣くのを必死に堪えていた。
蘭玲はそっと勇毅の腰に手を回した。
「兄上、兄上は悪くないです。兄上はいつも私たちのことを想ってくれていました。私は兄上の妹であったことを誇らしく思います。兄上はもっと自分のことを考えるべきです。玲莉はまだ子供ですが、私と逸翰はもう成人しています。私たちのことより、義姉上や堅のことを優先してください」
「皆が大人になろうと私にとっては可愛い弟と妹なのだ。嫌がられようが私はいつまでもお前たちの兄なのだ。抵抗しても無駄だ。これは長子の特権なのだからな」
蘭玲は冷離宮に行くことにためらいを感じることはなかったが、勇毅の温かさに、ここから離れたくないと思ってしまった。




