二十一、劉翔宇の作戦
「李誠明の配下って・・・かなり危険ではないですか?」
「母上に会うためだ。大したことはない。それに、翔宇殿下は約束を守ってくれた。だから、俺も最後まで翔宇殿下の目や耳となり情報を伝える。俺のことを心配してくれたのか?」
景天はうれしそうににやにやしていた。
「ここからが本題ですが・・・」
劉翔宇は玲莉を訪ねた本来の目的を話しはじめた。
「昨日玲莉に伝えたように、景天さんの情報では近いうちに李誠明が後宮を攻めてくる。狙いは皇帝の命と皇太子殿下の命、そして、玲莉を手に入れることだ。李誠明が後宮を攻めたと同時に私も後宮の外廷から内廷へ入る。その後は状況次第だが、後宮から玲莉を連れ去る。景天さんも李誠明の配下と共に攻め入るだろうから、その後の指示は黄飛が伝えるだろう」
玲莉は不安な顔をしていた。
(もし、皇太子殿下が殺されたら・・・私は本当に楚に行くべきなの?皇太子殿下と一緒にいたいと思っているのに、なぜか楚に行かないといけない気がする。王玲莉のせいかしら。私が楚に行けば皇太子殿下を裏切ることになる。皇太子殿下から離れたくない)
劉翔宇は玲莉が李義のことを心配していることは、手に取るようにわかった。
劉翔宇は高翔宇だった時から、秀英しか見ていなかった。
秀英が少しでも気がある素振りを見せる男に対し、徹底的にガードしていた。秀英が二十五歳になっても恋の一つもしたことなかったのはそのせいである。
(秀英はやはり迷っているな。それはそうだな。皇太子殿下の命がかかっている。気がかりだろう。でも、俺が忘れさせてやる。あいつより俺の方が秀英を想っている。秀英も楚に連れて行った後、俺にきっと感謝するはずだ)
「玲莉、皇太子殿下は大丈夫だ。あの冷徹皇子が李誠明に屈するわけがない。万が一でも殺されることはないよ。それに・・・李誠明は敗北するはずだ」
「・・・そうですよね。魏の皇帝と皇太子殿下が殺されるはずがないですよね」
玲莉は暗い表情のままだったが、少しだけ不安が和らいだようだった。
(玲莉の許嫁が皇太子殿下か。でも関係ない。誰がどう足掻いても俺と玲莉が婚姻することは決まったことなのだから)
景天は余裕のある表情をしていた。
「李誠明が動き出したら、黄飛から玲莉に知らせる。玲莉、何があっても私についてこい・・・何があってもだ」
意味深な言い方をする劉翔宇に少し引っかかったが、玲莉は頷いた。
「では、これで失礼するよ。景天さんもあまり長く持ち場を離れると疑われてしまいますし」
「それは早く戻らないと」
「まぁ、多少は遅れても何とかなるよ。今は黄飛が唐天のふりをして頑張っているよ」
「黄飛さんがですか?顔が全然違うのに。景天さんではないと気づかれませんか?」
劉翔宇は鼻で笑って、
「問題はない。風邪を引いたことにして、顔の半分は隠れているからな。あとは髪型を似せれば、家族じゃない限りわからないさ」
(そうは言っても、黄飛さん、敵にばれないか冷や冷やしているだろうな)
「おい、唐天。汗がすごいぞ」
「ゲホッ、ゲホッ。ずいまぜん。がぜをひいでるもので」
(早く景天さん戻って来ないかな。殿下はいつまで景天さんを連れまわしているんだよ)
その頃の黄飛は玲莉の予想通り、冷や汗をかきながら、景天の帰りを待っていた。
後宮では玲莉を出迎える準備が着々と進んでいた。
(玲莉はきっと喜んでくれるはずだ)
「皇太子殿下、これはどこに」
「それは・・・そこに置いてください」
玲莉との甘い生活を想像しながら、李義が率先して玲莉の宮を整えていた。
「義、愛しの玲莉姫を迎える準備は順調かしら?」
「母上、恥ずかしいのでやめてください」
李義の様子を見に珍しく皇后が訪れた。
「私はまだ会っていないのよ。噂の玲莉姫に。義の心を射止めるなんてどんなお嬢様なのかしら。やっと私にも娘ができるのね。会うのが楽しみだわ」
「明日にはまた後宮に戻ってきます。近々必ず会わせますから」
「私も確認していいかしら。女心がわかっているか見てあげるわ」
「ちょっと待ってください、母上」
周りから恐れられてる冷徹皇子も母親にはかなわなかった。




