十九、動き出す歯車
玲莉たちが泣いていると、蘭玲が玲莉を訪ねてきた。
「姉妹として過ごせる時間はほとんどないだろう。玲莉、蘭玲とゆっくり話すがいい」
王浩と思敏は涙を拭いて立ち上がり、王浩は蘭玲の肩を軽く叩いた。
玲莉は蘭玲の顔を見ただけで、また号泣しそうだった。
蘭玲は春静に玲莉と二人にしてほしいと伝え、春静は部屋を出て行った。
「姉上・・・本当にごめんなさい。私・・・私が・・・」
「泣かないの、玲莉」
蘭玲は玲莉に笑いかけながら、優しく抱きしめた。
「私のことは大丈夫だから。私はあなたのことが何よりも大事なのよ。玲莉が幸せならそれでいいの。建明はあなたに甘かったから、きっと私のことも優しくしてくれるはずだわ。だから、心配しないで」
「でも・・・姉上は冷離宮で・・・会えない・・・」
「大丈夫よ。冬陽?だったかしら。父上が冬陽を通して玲莉と私の間の文を届けてくれるらしいの。会うことはできないかもしれないけど、お互いに文を出すことができるわ」
「その話本当ですか!」
蘭玲は笑顔で頷いた。玲莉は蘭玲の話に喜んだ。
愛おしそうに玲莉の顔を見ながら、蘭玲は玲莉の頬に触れ、涙をぬぐった。
「私はあなたの姉になれて本当に幸せだった。玲莉、私のこともう忘れないでね」
「もう、姉上。今度は絶対に忘れません」
玲莉は蘭玲の笑顔に救われた。玲莉は蘭玲と文のやり取りができることを喜んでいたが、あることに気づいた。
(私が楚に行ってしまったら、姉上との文は届けてくれるのだろうか。文を届けるのにどれほど時間がかかるのかな。王玲莉に楚に行けと言われたけど・・・行きたくないな)
「玲莉、どうしたの?何か気がかりなことでもあるの?」
「・・・いいえ、何でもありません。姉上にどんな文を書こうか考えていたところです」
玲莉は精一杯の笑顔を見せた。
「殿下・・・見つかりました」
「本当か!で、どこにいた」
黄飛は二人しかいない部屋なのに小声で劉翔宇に伝えた。
「・・・どういうことだ?黄飛、その話がもし間違っていたら、お前の首が飛ぶぞ」
「殿下、命を懸けても構いません」
黄飛は冷静を装っていたが、手足が震えていた。劉翔宇は黄飛に肩を二回叩いた。
「よし。役者はそろったな。あとは李誠明が動くのを待つだけだ。黄飛、あいつに見つかったことだけ伝えろ。もうじき会わせてやると伝えてくれ」
(やっと秀英を楚へ連れ出せる。きっと喜んでくれるはずだ。さて、魏がどう転がっていくのか見ものだな)
劉翔宇は腹黒皇子の名にふさわしく、腹に一物を抱えていた。
「皇太子殿下、もうじき攻めて来ます」
「そうですか・・・あの人には悟られていませんよね」
「もちろんです。あの人の目には私は李義皇太子殿下を裏切り、李誠明に組している者と思われていることでしょう」
李義は予定通りに事が進み、笑みを浮かべていた。
「わかっているとは思いますが・・・」
「心得ています。何が起こっても玲莉お嬢様をお守りしろ、ですよね?」
「その通りです」
李義は窓を開け、玲莉の笑顔を思い浮かべながら、うっすらと見えはじめた月を眺めていた。
その日の夜、王家では宴会が行われていた。
王浩と思敏は明るく振舞っていたが、勇毅と逸翰は蘭玲が後宮入りする理由が建明のせいであるため、場を盛り上げることができなかった。
蘭玲は二人のぎこちない様子に気づき、声をかけた。
「兄上、逸翰、もう過ぎたことです。過去に戻ることはできません。どうか私の幸せを祈ってください」
「姉上!私は毎日祈りますね!」
玲莉は勢いよく蘭玲の手をつかみ、任せてくださいと言わんばかりの顔をしていた。
勇毅と逸翰は玲莉の行動につい笑ってしまっていた。
「蘭玲の言うとおりだな。私は兄としてお前が何事もなく平穏無事に過ごしてほしいと思っている。いつも通り男らしい蘭玲でいてくれよ」
「兄上、女子に向かって男らしいはないでしょう。それでよく義姉上と一緒になれましたね」
「そうよ、勇毅。私に感謝してちょうだい」
勇毅は苦笑いをしながら、逸翰に話をふり話を逸らした。
「逸翰、お前も蘭玲に何か言うことないのか」
逸翰は少しだけ考えて、
「まぁ、姉上。元気に暮らしてください」
と一言だけ言った。
「逸翰兄上、姉上ともう二度と会えないかもしれないのにその一言だけですか?」
玲莉がムッとしていたため、慌てて何か他に言うことないか考えていた。
「玲莉、私と逸翰は双子だから言葉にしなくてもわかるのよ。あれでも私のことをとても心配してくれているのよ」
玲莉は逸翰を見ながら、双子とはそういうものなのかと感心していた。
「玲莉、恥ずかしいからあまり私を見るな」
玲莉の悪戯心に火が付き、逸翰に近づき、じっと顔を見つめていた。
「玲莉、勘弁してくれ」
「玲莉、それ以上近づくと逸翰が兄妹として犯してはならない過ちをするかもしれない。離れてやれ」
「えっ?どういうことですか?勇毅兄上」
逸翰は耳まで赤く染めながら勇毅を睨んでいた。
「この子たちがこのように騒ぐこともなくなるのか・・・」
思敏はぼそっとつぶやいた王浩の手を取り、悲しげに微笑んだ。




