十五、決別
「玲莉が誤って私の果実酒を飲んでしまい、そのまま眠ってしまったので、私の部屋で寝かせたのです」
李義は玲莉が積極的に口づけしてきたことやもう一歩で建明と蘭玲と同じ状況になりそうだったことは話さなかった。
玲莉は昨夜の自分の失態を思い出し、顔を赤らめながら、下を向いていた。
建明は魂が抜けたように笑っていた。
「私は本当に愚かだ・・・」
「建明、蘭玲を大事にしてあげてください。蘭玲は玲莉の姉なのですから」
建明は両手を強く握りしめながら、李義に頭を下げた。
建明は立ち上がり、宦官たちに連れて行かれようとしていた。
しかし、玲莉の前で立ち止まり、玲莉の頬に触れた。玲莉は驚いて見上げた。
建明は玲莉への愛おしさと二度と会うことができない悲しみで複雑な表情をしていた。
李義が建明の手をつかみ、玲莉の頬から離した。
建明は鼻で笑って、昔のような優しい眼差しで玲莉を見つめながら去って行った。
玲莉の頬には涙がつたっていた。
(この涙は私ではなくてきっと・・・)
李義は何も言わずに後ろから玲莉を抱きしめた。
玲莉はこぼれる涙を止めることができなかった。
心が落ち着いた玲莉は李義にあることを尋ねた。
「皇太子殿下、冷離宮とはどういうところなのですか?」
李義は玲莉のどう説明すべきか悩んでいた。
「そうですね・・・あまりいいところではありませんね」
「皇太子殿下、姉上がそこに住むのです。私は姉上を訪ねることができますか?」
李義は深呼吸をして玲莉に真実を告げた。
「冷離宮は元々侍女や宮女が皇帝の子を身ごもった時に送られる場所でした。つまり、公にできない子を育てる場所です。例えば皇后よりも先に男児を産んだ場合です。皇帝、皇族の全ての男子のお手付きがある女は後宮から一生出ることはできません。皇帝の子だとしても身分が低いため、その子が皇子として迎えられることもありません。冷離宮での扱いはひどく、侍女や宮女さえ置くことはなく、女と子の二人で生きていかないといけないようなところです。誰からも存在を知られることなく、死んでいくのです。今は使われていない宮です。ですので、玲莉が冷離宮にいる蘭玲に会いに行くのは難しいかもしれません」
「そんなところに姉上は一生過ごすのですか?・・・」
玲莉は愕然としていた。
「玲莉、本来ならば建明も蘭玲もその場で処刑されていたはずです。玲莉は私の許嫁で未来の皇太子妃であり、未来の皇后です。その玲莉の部屋で共寝をしたのですよ。お互いに正常な判断ができない状況だったとはいえ、許されることではありません。蘭玲は元々私の許嫁です。父上が私の許嫁にする娘です。父上も蘭玲のことを不憫に思われたのでしょう。もし子ができたとなれば、尚更です。皆の目がある以上冷離宮送りが最善の結果だと言えます」
「私が・・・私が・・・」
玲莉は李義の部屋で眠ってしまったことを後悔していた。間違えて李義のお酒を飲まなければ、玲莉は蘭玲と一緒に寝ているはずだった。
「玲莉、自分を責めないでください。蘭玲が自ら望んだことかもしれませんし・・・」
「どういうことですか?」
「いえ、何でもありません」
李義は首を横に振った。
(この部屋に残った香の匂い・・・玲莉は気づかないだろうが、蘭玲なら気づくのではないだろうか)
「玲莉、父上が玲莉のために宮を用意してくださっています。ここは蘭玲と建明が共寝した場所ですので・・・それまでは私の部屋に」
玲莉はまた同じ失態を犯しそうで、全力で首を横に振った。
「そんなに拒否しないでくださいよ。遅かれ早かれ夫婦になるのですから」
「それはそうですけど、今は違います。それに私はまだ十五ですよ」
「でも子は産めるでしょう?」
玲莉は怒っていたが、急に冷静な表情になった。
「一旦王家に帰ります・・・姉上と会えるのも最後になるかもしれませんし・・・」
「・・・そうですね。父上には私から伝えます。蘭玲が後宮入りする三日後には玲莉の宮もできているでしょう。私が玲莉のためにできることはします。叶えられないこともあるかもしれませんが・・・」
「ありがとうございます、皇太子殿下。その言葉だけで十分です」
玲莉の笑顔に、李義は思わず玲莉を抱き上げた。
「ちょっと、皇太子殿下、下ろしてください」
「私は今から父上に会いに行きますので、玲莉は私の部屋で待っていてください」
玲莉は諦めて李義にお姫様抱っこされたまま、李義の部屋に運ばれていった。




