十三、ただ・・・愛していれば
「皇太子殿下、最後に玲莉と話させていただけませんか」
建明はもう二度と玲莉に会うことも話すこともできないため、最後に確かめたいことがあった。
李義は春静を蘭玲に付き添わせ、王浩と共に王家に帰るよう告げた。
李義は部屋の中に建明、玲莉を残し、他の者は去らせた。李義は玲莉のそばに寄り添い、立っていた。
建明が玲莉を見つめる瞳に玲莉は心の奥で苦しい思いで押しつぶされそうだった。
知らないはずの建明との過去の記憶が玲莉の頭の中を駆け巡っていた。
(これは王玲莉の記憶・・・建明と王玲莉はこんなにも楽しい日々を送っていたのね)
初めて王玲莉が建明に恋をした感情も自分のことのように感じた。
「玲莉、本当に申し訳なかった。ただ、これだけは信じてほしい。私は玲莉をずっと愛していた。この想いは本物だ。玲莉はずっと私のことだけを愛してくれていたか?皇太子殿下、翔宇殿下が玲莉の前に現れた時、その時も私のことを想ってくれていたのか?」
玲莉はすぐに答えることができなかった。
「・・・わかりません」
玲莉は正直に答えてしまった。建明と会うのは最後となってしまうので、最後の時くらい、ずっと想っていたと答えればよかったものの最後だからこそ嘘をつくことができなかった。
「皇太子殿下、翔宇殿下と会った時はまだ建・・・兄のことが好きでした。しかし、殿下たちと多くの時間を過ごすうちに、私は・・・変わってしまいました。今は皇太子殿下と共に過ごす時間が大切だと思っています。だから、建兄。私のことは忘れてください。姉上がきっと建兄のことを支えてくださいます。姉上は美しくて、優しくて、妹思いの姉です。きっと建兄のことも優しく包んでれるはずです。建兄と過ごした日々は忘れません」
「建兄?玲莉もしかして記憶が戻ったのか?」
「はい、建兄との過ごした日々が私の頭の中を駆け巡っています。忘れていたはずの全てを。だから・・・私は建兄のことが本当に好きでした。ずっと一緒に過ごしたかったです。何でこんなんことを・・・建兄が何もしなければ・・・ただ、私を好きでずっと守ってくれていれば・・・私は今でも建兄のことが好きだったと思います。皇太子殿下ではなく建兄を選んでいたはずです」
玲莉は泣き崩れていた。玲莉の中で秀英と王玲莉の感情が入り混じっていた。
それを見た建明は玲莉に手を伸ばしたが、李義が建明を警戒するように玲莉を抱きしめた。玲莉は李義の胸に顔をうずめながら、声を殺しながら泣いていた。
「私は何をしていたのだ・・・余計なことを考えなければ・・・ただ玲莉を愛していれば・・・」
建明も自分の愚かさを改めて理解し、何度も床を右手の拳で叩いていた。
「建明、安心してください。玲莉は私が幸せにしますから。建明は蘭玲のことを大事にしてください」
建明は思いがけず蘭玲と一緒に寝ていたが、なぜこうなったのか疑問に思っていた。
「皇太子殿下、昨夜はなぜ玲莉はこの部屋にいなかったのですか?なぜ蘭玲が・・・」
「あぁ、それは・・・」
李義は玲莉をなだめながら昨夜の出来事について話しはじめた。
玲莉と蘭玲は聖女伝を見ながら、過去の聖女たちから学べることがないか探していた。
「蘭玲お嬢様、玲莉お嬢様。ずっと書物とにらめっこしてても目が疲れますよ。茶をお持ちしましたので少し休憩してはどうですか?」
二人は春静が持ってきた茶を飲みながら、たわいもない話をしていた。
「玲莉!」
玲莉の名を呼ぶのと同時に、戸が開き、そこには焦った様子の李義がいた。
「皇太子殿下、どうされたのですか?そんなに慌てて」
李義は普通に蘭玲と話している玲莉を見て安堵していた。
皇帝から晨明と建明の怪しい行動について聞き、玲莉に何かあるのではないかと思い、急いで玲莉のところに来ていた。
(今のところは何も起こりそうもないが、いつ、晨明と建明が玲莉に接触してくるのかわからない)
「玲莉、私の部屋に行きましょう」
「えっ?」
李義は玲莉の手をつかみ、無理やり連れて行こうとしていた。
「ちょっと待ってください、皇太子殿下。今日は姉上が来ていまして」
李義は無表情で蘭玲を見た。蘭玲は李義が何を考えているのか全くわからなかった。
(皇太子殿下って本当に玲莉以外には全く関心ないのね)
蘭玲はくすっと笑いながら、
「皇太子殿下、私のことは気にしないでください。この部屋で玲莉を待っていますから」
と言って、玲莉と李義を見送り、春静も玲莉についていくよう促した。
玲莉は不満そうな顔をしながら、李義に手を引っ張られていった。




