十二、寛大な処分
李義は宦官が持ってきた衣を建明に渡し、建明が衣を着てから、玲莉の部屋に再び入った。
李義は建明を床に正座させた。
玲莉は李義の後ろに立ち、李義の袖をつかんでいた。
建明は李義と玲莉の様子を見て、玲莉がもう自分を見てくれることはないということを悟った。
(そうだよな・・・私はなぜ愚かなことをしたのだろう・・・)
蘭玲は寝台に座ったまま、建明を見守っていた。しかし、建明が蘭玲を見ることはなかった。
「建明、全て話してくれますよね?」
李義のただならぬ雰囲気と威圧感で建明は震えていた。
(兄上のことは絶対に話せない・・・これは私のせいなのだ。玲莉だと確認もせずに、蘭玲と寝てしまった私が悪いのだ)
建明は昨夜玲莉の部屋に忍び込み、深い眠りに陥る薬を混ぜた香を焚き、自分はある薬を飲み、玲莉を襲い、既成事実を作り、無理やり婚姻しようと計画していたことを話した。
しかし、実際に香を仕掛けたのと薬を建明に渡したのは晨明であった。建明はその事実を隠したまま伝えた。
「玲莉と関係を持ち、子ができれば、陛下も王丞相も襲ったとはいえ、婚姻を許してくれるだろうと考えました。玲莉は聖女です。万が一、私が処刑されたとしても玲莉は責められないはずだと・・・まさか、玲莉の部屋で寝ていたのが蘭玲だったとは・・・」
「途中で気づかなかったのですか?蘭玲と玲莉は顔も背丈も違います。蘭玲と逸翰を見間違えるならわかるのですが」
「飲んだ薬が強力で・・・玲莉を想う気持ちが強かったせいでしょうか・・・蘭玲の顔が玲莉にしか見えず・・・」
玲莉は建明と何もしていないのにも関わらず、体が汚されたみたいで、悪寒がしていた。
李義はそれに気づいたのか、玲莉を見て、そっと手を握った。
「建明、先程から私にしか謝っていませんが、一番謝らないといけないのは蘭玲ではないですか?玲莉と間違われた上に純潔を失ったのですよ」
建明ははっとなり、蘭玲を見た。蘭玲は建明と目を合わせることはなかった。
建明は蘭玲の前まで足をずりながら、移動し、床に頭を打ちつけながら謝罪した。
「本当に・・・申し訳・・・」
「玲莉!蘭玲!」
そこに現れたのは王浩だった。
李義が建明を部屋の外に出した時に、宦官に皇帝と王浩に報告するよう伝えていた。
「玲莉、無事か?」
王浩は玲莉の両肩をつかみ、興奮しながら、声をかけていた。
「父上、私は大丈夫です。でも・・・」
王浩は部屋の中にいる蘭玲に駆け寄り、蘭玲に目線を合わせるように屈んだ。
「蘭玲・・・」
蘭玲は王浩を抱きしめて、泣き出した。
その様子を見て玲莉は驚くと同時に心が痛んでいた。滅多に泣くことがない蘭玲が泣いており、自分のせいで建明に身をささげる結果となってしまったことに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「建明ー!」
ただでさえ鬼面で恐ろしい顔をしている王浩だが、建明への怒りで、王浩を見た全ての者が震え上がるような顔をしていた。
建明はあまりの恐ろしさに王浩の顔を見ることができず、床に頭を擦りつけながら、ひたすら謝っていた。
王浩の力強い拳が建明の左頬を殴った。建明は勢いよく飛んでいった。そのせいで玲莉の部屋にあった机や椅子が飛んでいった。
「よくも蘭玲に手を出したな!私の大事な娘に。蘭玲はお前のようなやつに嫁ぐ娘ではないのだ。大事に大事に育ててきた娘だぞ。よくも・・・」
王浩は今にも建明を殺しそうな勢いだった。李義でさえ王浩の気迫に立ち向かえなかった。
「王浩、そこまでだ」
「父上!」
王浩の手を止めたのは皇帝だった。
「陛下・・・」
さすがの王浩も皇帝には逆らえなかった。
「大体の話は宦官からの報告で聞いた」
李義は補足して建明がこの部屋で実行した計画について皇帝に話した。
「建明、本当にお前が一人で計画した実行したのか?・・・晨明が関わっているのではないか?」
「陛下!私が一人でやりました!兄上は関係ありません!」
建明は必死に弁解していた。
「しかし、朕の耳には晨明が建明に何かを渡して、ひそひそ話していたと報告があったぞ」
「違います!陛下!あれは・・・そうあれは、兄上から土産をもらっていたのです!」
皇帝は低く重苦しい声で最後にもう一回尋ねた。
「建明、もしお前の話が嘘だった場合、お前も晨明も斬首だ。それでも否定するのか」
「はい、陛下。全ては私一人で行ったことです」
皇帝はしばらく建明を見つめていた。建明も皇帝から目を逸らさなかった。
「そうか・・・では皆に命じる」
その場にいた者皆一斉に跪いた。
「李建明と王蘭玲の婚姻を命じる。ただし、正式に婚姻するのは李建明が十八を迎える来年とする。李建明は引き続き後宮内外で皇太子李義の護衛をするように。ただし、李建明は王玲莉との接触を禁ずる。李建明が王玲莉に接触した場合・・・その場で処刑することを許す。王玲莉には特別に宮を用意する。専属の護衛もつけよう。そして、王蘭玲は三日後に後宮入りするように。お前たちにも宮を用意してやろう・・・冷離宮だ」
皇帝は宦官たちに直ちに準備するよう命じた。
皇帝は王浩の耳元で誰にも聞こえないように話した。
「王浩、朕がお前の娘にしてやれることはここまでだ。お前の娘でなかったら、李建明と共にその場で処刑していた」
皇帝はそれを王浩に伝えると部屋から出て行った。
「感謝します」
王浩は深々と皇帝に頭を下げた。
(冷離宮・・・あそこはたしか・・・)
王浩、李義は冷離宮がどういうところなのか知っていたため、何とも言えない微妙な表情をしていた。
玲莉は蘭玲が後宮に来ることに関してはうれしかったが、事情が事情なだけに素直に喜べないでいた。




