七、李義VS李建明
李義は後宮に戻ると早速、皇帝のところへ向かった。
ちょうどその時、皇帝は李建明と話しをていた。
「義、もう戻ったのか。蘭玲と話せたか」
李義は皇帝の目の前で跪くと、いつもの調子で淡々と話しはじめた。
「陛下、私は王蘭玲ではなく王玲莉との婚姻を願い出ます。玲莉との婚姻を許可してください」
「王玲莉?王玲莉はたしか建明の許嫁ではないのか」
「はい、陛下。王玲莉は私の許嫁です」
皇帝も驚いていたが、それ以上にいつも穏やかな雰囲気をまとっている建明が怒りをあらわにしていた。
「私は今まで妻なんて誰でもよいと思っていました。次期皇帝として後継ぎを残せば問題ないと。しかし、心がないと言われている私が初めて心を奪われた娘です。私はあの娘以外と婚姻したくありません。陛下、王玲莉と婚姻させてください」
皇帝は李義を見つめながら、考え込んでいた。
建明は皇帝の前に跪き、懇願した。
「陛下、王玲莉は私の許嫁です。私は幼い頃より玲莉を慕っていました。この気持ちは今も変わりません。玲莉との婚姻も陛下から賜りました。陛下!」
建明は李義を睨みつけていたが、李義は気にも留めていない様子だった。
皇帝は深いため息をつき、ある結論を出した。
「義、お前がそこまで人に執着するのははじめてだ。父としてはうれしく思っている。ただ、建明と王玲莉の婚姻は決まっていることだ。それを取り下げることはできぬ。しかし、二人の婚姻まではあと三年ある。一つ条件をだそう。三年後までに王玲莉から朕にお前との婚姻を願い出れば、義、お前の願いを聞こう。ただし、王玲莉が自らの意志で願い出ればの話だ。それまでは、今まで通り、建明の許嫁とする。蘭玲と義との婚姻も三年後とする。王玲莉から何もなければ、義、お前は三年後、蘭玲と婚姻する。二人ともそれでよいか」
二人はお互い顔を見合わせ、深く頷いた。
「皇太子殿下、玲莉は渡しませんから」
「建明、玲莉は私のものにしますから」
二人の間には激しい火花が散っていった。
「父上、それは本当ですか?」
王浩は皇帝より李義と建明の間に何が起こったのか聞いていた。しかし、蘭玲と玲莉に伝えられることは、建明が玲莉に許嫁で変わりないこと、蘭玲と李義の婚姻が三年後に延期されたことの二点だけだった。
「でも、なぜ姉上の婚姻が三年後になったのでしょうか。よくわからないですね」
(おそらく、陛下は皇太子殿下に玲莉のことで何かしらの条件を出したはずね。その条件を果たすことが、三年後までってとこかしら。玲莉は気づいていないでしょうね。これから大変になりそうだわ)
蘭玲は玲莉を心配しながらも、婚姻が延びたことに少しほっとしていた。李義のことは悪い人ではないとは思っているが、夫婦になっても、愛されることはないだろうと考えていた。
「玲莉、ひとまずよかったわね。でも、これから玲莉の周りは慌ただしくなると思うわ。玲莉、いつでも困ったことがあったら、私に相談してね。私はあなたの姉なのだから」
玲莉はこれから先何が起こるのかよくわからなかったが、蘭玲の温かさがうれしかった。玲莉は甘えるように蘭玲に抱きついて、お礼を言った。
王浩は争いに巻き込まれていく娘たちを見ながら不安げな顔をしていた。
「皇太子殿下は今まで何にも関心を持っていませんでしが、初めて人に関心を持っています。皇太子殿下の様子からして、今までの反動からか、王玲莉に執着しているように思われます。王玲莉を利用すれば、皇太子殿下を引きずり下ろすこともたやすいかと」
「皇太子殿下は必ず王玲莉に会いに行く。その時を狙え」
「御意」
「手はずは整いました。これで問題ないです。本当に実行なさるのですか?こんなことをしなくてもよろしいかと思いますが。それこそ、このことが明るみに出れば不利になりますよ」
「あぁ、わかっている。しかし、何としてでも・・・」
玲莉を巡って争いが始まろうとしていることは、玲莉自身は知る由もなかった。