九、それぞれの思惑
李義は玲莉と別れた後、ある人物に会っていた。
「そうか、やはり白庭が・・・」
李義は腕を組み、今後どう行動すべきか考えていた。
「殿下、もう一つ気になる点があります。唐天という男が最近、後宮について嗅ぎまわっているようです。おそらく、玲莉お嬢様が関係していると思われます。どうされますか?」
「その件は他の者の任せましょう。黒風は引き続き白庭を見張っていてください。些細な情報でも構いません。すぐに報告してください」
李義は黒風が去った後、不敵な笑みを浮かべていた。
(唐天・・・さて、敵なのか味方なのか。あいつからの報告がないということは今のところは危険な人物ではないだろう。しかし、いつ李誠明が仕掛けてくるかわからない。玲莉だけは守らないと。建明も今のところは何もないが、まだ玲莉に未練があるはずだ。絶対に誰にも触れさせない)
数刻前に会ったばかりなのに、すでに玲莉のことが恋しくなった李義は立ち上がり、周りから見ると気味の悪い笑みを浮かべながら、玲莉の部屋に向かった。
「建明、なぜ玲莉についてもっと教えてくれないのだ」
晨明は建明に玲莉について事細かく聞いていたが、建明は玲莉について多くを語らなかった。
「兄上、玲莉は皇太子殿下の許嫁ですよ。少しでも触れたら、皇太子殿下に殺されますよ」
「たしかに、あの李義なら本当に私を殺しかねないな。しかし、建明。お前は悔しくないのか?確かにお前が行ったことは許されることではないが、仮にも元許嫁だ。思うところはあるだろう。ずっと玲莉のことが好きだっただろう?」
建明は晨明から痛いところを突かれ、悔しい表情をしていた。
「たしかに、好きでした。いや、今でも玲莉を想っています。皇太子殿下が玲莉に触れるだけで、悔しい気持ちでいっぱいになります。しかし、私が間違いを犯したからこそ、そうなったのです。私が悪いのです」
晨明は、そうかそうかと言いながら、建明の耳元である言葉を囁いた。
建明は驚いた表情で、首を横に振った。
「・・・兄上。それはいけません。絶対にできません」
「でも、このままでいいのか、建明」
「私にはできません。できません」
晨明は建明の手にあるものを握らせた。
「これを使えば・・・」
建明は晨明に返そうとしたが、最後にもう一言、建明に囁いた。
建明の心の中で何かが切れる音がした。
「・・・ありがとうございます・・・兄上」
晨明は笑いながら建明の肩を力強く叩いていた。
「黄飛、首尾はどうだ?」
「殿下、順調です。問題なく進んでいます」
「そうか。で、もう一つの・・・見つかったか?」
「いいえ、まだです。何しろ何十年も前の事なので・・・。引き続き調査を続けます」
「黄飛、見つかれば玲莉を手に入れる切り札となるかもしれない。あの魏の皇帝も私と玲莉の婚姻を承諾するだろう。しかし、くれぐれもあの事は景天と李義に気づかれてはならない。特に李義だ。あの事を李義が知れば、私たちに不利になる。玲莉を取り戻すことは難しいだろう」
「殿下、一層の事、楚に連れ去って既成事実でも作ってしまえばいいのではないですか」
劉翔宇は黄飛の頭を思い切り叩いた。
黄飛は痛がりながら、劉翔宇に謝った。
「本当は玲莉が望んで私のところに来てほしいのだ。私は信じている。玲莉はきっと私のもとに来ると。私はずっと玲莉のことを愛している。李義や建明が出会う前から・・・ずっと・・・」
黄飛はそんな昔に玲莉に会ったことあったかなと思いながらも、劉翔宇に一礼し、去って行った。
(どうすれば思い出してもらえるのだろう・・・秀英が亡くなったあの時を再現すれば、思い出すかもしれない。俺のことを思い出せば、きっと俺だけを見てくれるはずだ)
劉翔宇は目をつむり、前の世界で秀英と初めて出会った時のことを思い出していた。
「姉上!」
玲莉は急に訪ねてきた蘭玲に驚きながらもうれしくて、蘭玲に飛びついた。
「この前はゆっくり話せなかったでしょう。だから、父上から陛下に頼んでもらって、玲莉に会いに来たの。陛下から蘭玲の部屋で一晩過ごす許可も得たから、今夜は寝かせないわよ」
玲莉は再び蘭玲に抱きつき、頬ずりしていた。
「玲莉はいつまで経っても子供ね。そういえば、まだ子供だったわね」
中身は二十五の玲莉なのだが、王家で末娘として甘やかされたせいか、いつの間にか二十五歳の大人びた玲莉はいなくなり、すっかり十五歳の玲莉となっていたのであった。




