八、燃え上がる二人
李義は自分の部屋まで玲莉を連れてくると、後から追いかけてきた春静に部屋の外で待つように伝え、戸を閉めた。
明らかに怒っている李義に玲莉はどうしたらいいかわからず、黙ったまま下を向いていた。
「私がなぜ怒っているのかわかっていますよね?」
李義は玲莉に詰め寄っていた。
玲莉は李義に謝りながら、後ずさりしていたが、李義の寝台につまずき、そのまま李義に押し倒されるように倒れた。
李義の顔が目の前にあり、目を逸らすことができなかった。
李義の瞳からは怒りと悲しみが入り混じっているように感じた。
「私を好きだと言ったのは嘘だったのですか?あの口づけも本当はうれしくなかったのですか?気持ちが通じ合ったと思ったのは私だけだったのですか?」
玲莉は首を横に振って否定した。
「嘘ではありません。私は皇太子殿下のことが好きです。あの口づけもうれしかったです」
「ではなぜ劉翔宇と抱き合ってたのですか?私がどんな思いであの場所に来たと思っているですか?やっと想いが通じ合ったのに、目の前で劉翔宇と抱き合っているのですよ。劉翔宇を殺そうかと思いました」
玲莉は謝りながら、本当の気持ちを伝えた。
「本当に申し訳ございません。翔宇殿下に会うとなぜか懐かしい気持ちになるのです。あの時もなぜかわからないのですが、翔宇殿下の言葉に無意識に涙を流し、抱きしめていました。私もわからないのです。なぜそういうことをしてしまったのか。なぜ涙が流れたのか。でも、信じてください。私が好きなのは皇太子殿下だけですから」
玲莉はそう言って、李義に口づけをした。李義は玲莉の気持ちの答えるように、玲莉の唇を優しく包み込んだ。
李義は玲莉の口の中に舌を滑り込ませ、玲莉も舌を絡めせていた。
これ以上は一線を越えてしまうと考え、玲莉は李義から唇を離した。
李義は玲莉の考えに気づいたのか、安心してくださいと言ってもう一度口づけをした。
「私は玲莉の言葉を信じます。しかし、また私以外の男と親密なところを見てしまったら、今度こそ玲莉の全てをいただきますからね」
李義は玲莉の首に口づけをした。
玲莉の首元にはくっきりと李義の唇の痕が残っていた。
「本当は体中に口づけしたいのですが・・・」
「皇太子殿下、恥ずかしいのでやめてください」
「では、最後にもう一度・・・」
李義は玲莉の唇を貪るように求めた。
春静は李義が怒りのあまり玲莉に何かするのではないかと心配しながら待っていた。
李義の部屋の戸が開き、いかにも幸せそうな雰囲気を醸し出しながら、李義と玲莉の二人が出てきた。
春静は二人の様子に胸をなでおろし、玲莉に近づいていった。
「お嬢様、大丈夫でしたか?何かされ・・・」
玲莉をよく見ると、首元に明らかに唇の痕があった。
春静はにやにやしながら、玲莉の首元をわざとちらちら見ていた。
「心配して損しました。皇太子殿下と仲良くされていたようで」
玲莉は顔を赤らめながら、春静の口を手で塞ぎ、それ以上何も言わないようにした。
春静の言葉は李義の耳にも届いていた。
「春静、心配させたようですね。しかし、この通り・・・」
李義は玲莉を抱き寄せて、軽く口づけをした。
春静は見ないように手で顔を隠しているふりをして、指の隙間からしっかり見ていた。
「皇太子殿下、人前ではやめてください・・・その・・・恥ずかしいので」
照れている玲莉の頭をなでながら、用事がありますので、またと言って、うれしそうに笑みをこぼしながら去って行った。
「正直、お嬢様の手を引く皇太子殿下の顔が恐ろしかったので、今回ばかりはお嬢様が皇太子殿下から何かひどいことをされるかと思っていましたよ。どうやって皇太子殿下の怒りを鎮めたのですか?」
「秘密よ」
(あの時もし、皇太子殿下が一線を越えようとしていたら、私は抵抗しなかった。だめよ、玲莉。まだ、私は十五なのよ。せめて、十六にならないと・・・いやいや、私は何を考えているの。はしたない)
玲莉は李義との様々な妄想をしては、頭を叩いて、やましい考えを消し去ろうとしていた。
「お嬢様・・・どうされましたか?」
春静から見ると、顔を赤くしたり、自分の頭を叩いたり、玲莉の謎の行動に怪訝な顔をしながら見守っていた。




