五、初めての告白
玲莉は李義に無理やり手を引っ張られながら、人気のない部屋にそのまま入った。
李義は玲莉を詰め寄るように近づき、玲莉の背中が壁に当たると、玲莉が逃げられないよう、両手で壁をつき、退路を塞いだ。
玲莉は李義がなぜこのようなことをするのかわからないまま、下を向き、視線を逸らしていた。
「玲莉は・・・まだ建明のことが好きなのですか?」
玲莉は思わず顔を上げると、李義の顔は思った以上に近く、玲莉から視線を外さなかった。
「・・・私は・・・」
玲莉はすぐに答えることができなかった。
秀英が玲莉として建明と共に過ごした日々は数か月だが、心の中にいる王玲莉は幼い頃から建明と過ごしていた。
かつて王玲莉は建明と婚姻することを望んでいた。
秀英と王玲莉が心のどこかでつながっているのか、王玲莉が心の片隅で建明のことをまだ想っていることを感じていた。
秀英としての玲莉で答えるべきなのか、王玲莉として答えるべきなのか、迷っていた。
何も答えることができない玲莉に李義は一言、そうですかと言って、寂しげな表情のまま、手を下ろし、驚かせて申し訳なかったですと玲莉に謝った。
「王丞相たちを待たせていますね。行きましょうか」
玲莉は寂しげな李義の後ろ姿に無意識に、李義の手をつかんでしまった。
「どうしましたか?」
「あの・・・その・・・」
秀英としては李義の悲しげな表情を見るのを辛く感じていた。
(たぶん私は皇太子殿下のこと、好きになっているんだ・・・王玲莉・・・ごめんね)
「私は・・・皇太子殿下のことを・・・好きになってしまったようです」
李義は驚いた表情のまま固まっていた。
「玲莉、もう一度言ってもらっていいですか?」
「だから、私は皇太子殿下のことを好きに・・・」
李義は玲莉が最後まで言い終わる前に我慢しきれず抱きしめていた。
李義は笑みをこぼしながら、
「よかった・・・初めて不安な気持ちになりました。玲莉が建明のことをまだ想っていると考えるだけでどうにかなりそうでした。もう私以外は見ないでください。私は初めて玲莉に会った時から、玲莉以外見ていないのですから」
「・・・はい」
玲莉と李義は初めて互いの気持ちがこもった、熱い口づけを交わした。
「申し訳ございません。お待たせしました」
李義と玲莉は部屋を出て行った時の一波乱ありそうな険悪な雰囲気とは異なり、仲睦まじく手をつないで戻ってきた。
(何があったんだ?)
王浩たちは何があったのか聞きたかったが、二人の甘い雰囲気に聞き出せずにいた。
李義が席を外した時、蘭玲は玲莉に手招きして、自分の隣に座らせ、李義と何があったのか聞き出していた。
玲莉は蘭玲に小声で全て話していた。
(そういえば、私、初めて好きだって告白したのかもしれない。といっても、前の世界でのことは知らないけど・・・たぶん・・・いや、絶対初めてのはず)
「玲莉、なぜ私たちには話さないんだ。その・・・皇太子殿下と何があった?」
逸翰は李義と玲莉の何があったのか気になって仕方がなかった。
「逸翰兄上、これは女同士の話ですから」
玲莉はただ単に父や兄たちには李義と何があったのか話すのが恥ずかしかった。
逸翰は納得のいかない顔をしていた。勇毅がいつものように逸翰をなだめていた。
蘭玲は玲莉の話を聞きながら、建明のことを哀れに思っていた。
(あんなことをしたから仕方がないけど・・・長年玲莉の事だけを想ってたのに・・・報われないわね)
蘭玲は建明のことが心に引っかかっていることに気づいていなかった。
王浩たちが李義と玲莉と別れ、部屋を出た時だった。
蘭玲は視線を感じ、振り向いた。
手を振って見送っている玲莉を物陰からじっと見つめている建明の姿があった。
蘭玲は建明が不憫でならなかった。
(あの表情・・・玲莉のことがあきらめられないのね。・・・私が・・・私があきらめさせることができれば・・・)
建明は蘭玲が自分に気づいていることを知り、何事もなかったかのように走り去った。
蘭玲はある決意をし、家へと帰っていった。




