一、後宮入り
玲莉が馬車から降りると目の前には、とんでもない大きさの立派な門があった。
(本当に後宮ってあったんだな。いざ、目の前にして見るととんでもないところに来てしまったな。私はここで残りの人生過ごすのか・・・)
まだ後宮の中にさえ入っていないのにすでに玲莉はホームシックに陥っていた。
「玲莉、待っていましたよ。そういえば会うのは久しぶりですね。春静もようこそ」
門の中から出てきたのは、皇太子李義だった。冷徹皇子と言われている李義からするといつもとは違い、穏やかな表情の出迎えだった。
「お久しぶりです。皇太子殿下」
(私って皇太子殿下と婚姻するのだよね・・・。いずれは皇后?・・・あぁ、逃げ出したくなってきた)
後宮に来て改めて、自分が国の最高権力になり得る人と婚姻することになることに、玲莉は今頃実感していた。
玲莉は李義の差し出した手を取り、覚悟を決めて後宮の中へと入っていった。
玲莉は時代劇のドラマでしか見たことない世界が目の前に広がっていて、周りをきょろきょろ見ながら李義に手を引かれていた。
「初めて見るような顔をしているけど、玲莉は三年前に一度来ているだろう」
「そうなんですが・・・私記憶をなくしていまして・・・」
「そうだったですね・・・私と初めて出会ったのはその庭ですよ。玲莉が転んで膝が血だらけになっているのに笑っていて・・・。初めて人に興味を持ったのです。そして、初めて・・・欲しいと思いました」
李義は玲莉の両手を握り、見つめていた。
「玲莉にとっては不本意かもしれませんが、私が玲莉のことが好きなのは本当です。私は玲莉を大切にします。玲莉以外とは婚姻しません。側室も妾もいりません。必ず守ります。だから、安心してください。この後宮内にいる限り、私が玲莉を守りますから」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
玲莉は李義の言葉に心臓がドキドキいていた。
(そんなこと言われたら、意識しちゃうじゃない。玲莉、落ち着いて。相手は冷徹皇子よ)
玲莉は冷静を装っているつもりだったが、耳まで真っ赤になっており、李義と春静はそれを見て微笑んでいた。
「よく来たな、玲莉。楽にしていいいぞ」
玲莉は皇帝を前にして、吐きそうなくらい緊張していた。
玲莉の様子に気づいた李義はそっと玲莉の手を握った。
「玲莉、緊張しなくて大丈夫ですよ」
玲莉は思わず李義の手を強く握り返した。
皇帝は建明から義に許嫁が変わったことで、義と玲莉の関係に不安を抱いていたが、二人の様子を見て、少し安心していた。義が玲莉のことを慕っていることは知っていたが、玲莉はまだ建明のことを引きづっているのではないかと考えていた。しかし、李義の手を握り返している様子を見て、義と玲莉が上手くいきそうな気がしていた。
「玲莉にはこれから妃教育を受けてもらう。皇后を教育した者が玲莉も教育する。玲莉はいずれ皇后として義を支えなければならない。そのためにも、国についての知識、過去の歴史、皇后としての務めを学ぶ必要がある。安心しろ。婚姻まであと三年はあるから、十分時間はある。ゆっくり学ぶといい」
(妃教育・・・逃げたら殺されるよね)
玲莉は本当に自分がこの国の皇后なんかになってよいのかと考えながらも、皇帝の命に従う以外選択肢はなかった。
玲莉と李義が皇帝との話を終え、最後に挨拶をして、部屋を出ようとしてる時だった。
玲莉の心に何かと共鳴しているような不思議な感覚を感じた。
(何?この不思議な感覚は?)
玲莉は意識を失って倒れた。
李義が玲莉に声をかける中、皇帝も近くに駆け付けた。
「玲莉に何があった?」
「わかりません。急に胸をおさえたかと思ったら、倒れました」
「息はあるようだな。義、玲莉の部屋に連れて行け。太医を部屋に行かせる」
李義は玲莉を抱きかかえ、玲莉の部屋に運んでいった。
(玲莉、どうしたんだ?何があったんだ?)
李義の心配をよそに玲莉は夢の中である人物と会っていた。
「何としてでも王玲莉を手に入れろ。そうすれば誠明様が皇帝へ。我々の時代が来るのだ」
(まさかこんなところに李誠明が隠れていたとはな。あの殿下の犬は優秀だな)
「おい、唐天!お前も行くぞ」
「はい!」




