二十七、分岐点
思敏は景天にある提案をした。
「景天、若㬢を捜すことも大事だけど、まずはなぜ若㬢があなたを連れてこの家を出て行ったのか調べたほうがいいと思うの。若㬢を捜すと言っても手がかりはないのでしょう」
「たしかにその通りですね」
「翔宇殿下が何か知っているかもと言っていたわね。若㬢は楚の公主だったから、楚の皇太子である翔宇殿下が何か知っている可能性が高いわね。玲莉に会いに来るはずだから、ここで翔宇殿下を待ってみたら?話しをてくれるかはわからないけど、何かしらの情報はわかるかもしれないわよ」
景天は思敏の提案に納得していた。
「そうさせていただきます」
「あなたの母上には伝えなくていいの?文でも送るのかしら」
「はい、母さんには実の両親について何かわかりそうだから、もう一度玲莉に会いに行くと伝えています。俺がここにいることは文で伝えます」
(まさか、今度は景天さんと同居生活がはじまるの?殿下たちが聞いたら許さないだろうな。そういえば殿下と兄上たちは無事なのかな?)
その頃、玲莉の知らないところで後宮入りの話が着々と進んでいた。
北誠王府で皇帝の代理として処理をしていた王浩も皇帝たちに合流していた。
王浩は勇毅から水晶玉の件について話しを聞いていた。
「そんなものがあったとは・・・。その水晶玉は玲莉とどんな関係があるのでしょうか?」
「それについてはまだわからぬ。おそらく、代々聖女に伝わる何かがあるはずだが・・・」
(あの聖女伝に全てが記されているのだろう。今はまだ隠しておこう)
劉翔宇は聖女伝の存在を明かすことはなかった。
「王浩、玲莉に後宮入りすることを伝えておけ。こちらの準備ができ次第、迎えをよこす」
「御意」
王浩は言葉では肯定したものの複雑な思いだった。あと三年はそばにいると思っていた可愛い娘がまさかこんなに早く、その上後宮入りするとは思ってもみなかった。
その気持ちは勇毅と逸翰も同じだった。特に逸翰は玲莉への想いが強すぎるため、何もできない自分に腹が立っていた。
「さて、建明、早速従者としての仕事をしていただきましょうかね」
建明は素直に李義に従い、後についていった。黒風も建明と共に李義の従者の一人として仕えることになった。
劉翔宇は王浩に声をかけ、今から王家に行っても良いか尋ねていた。
その姿を見て逸翰は王浩の前に出て、ぜひ来てくださいと珍しく歓迎していた。
劉翔宇は不審に思ったが、王家に行って玲莉に会えるのなら良いかと思い、王浩らと共に王家へ向かった。
王家に着いた劉翔宇はすぐさま玲莉に会いに行こうとしたが逸翰に止められ、無理やり客間へ連れて行かれた。王浩、勇毅、黄飛もその場に集められた。
「逸翰、どういうことだ?戻ったそばから皆を集めて」
「父上、北誠王府に行って気づいたのですが、おそらく、白庭と黒風、どちらかが内通者だと思われます」
王浩は思わず大声が出そうになったが、自ら口を押さえ、小声でひそひそと話した。
「つまり、どちらかが北誠王とつながっているということなのか」
「そうだと思います。北誠王府に乗り込んだのは皇太子殿下の思いつきです。ですが、北誠王府に着いた時には北誠王はすでに逃亡していました。言動からして私たち王家と殿下たち、そして黄飛は違うと判断しました」
「そうか・・・私の中では黄飛は一番怪しいのだが」
「ちょっと殿下、そんなこと言わないでください」
黄飛は劉翔宇の袖を引っ張りながら、殿下!と今にも泣きそうな声で訴えていた。
劉翔宇は、冗談だよと笑いながら袖を引っ張る黄飛に抵抗していた。
「実は一番初めに黄飛を疑いました」
「逸翰様まで」
黄飛は明らかに落ち込んでいるような顔をしていた。
「玲莉の誘拐の時も北誠王府に行った時も殿下とは別行動でしたし。しかし、黄飛は楚の皇太子の従者です。正直、北誠王に手を貸したところで、黄飛には何の利点もありません。ですから、関係ないと判断しました」
黄飛は胸をなでおろし、安堵した表情をしていた。
「安心してください。黄飛が裏切るようなことがあれば、その場で斬り殺しますから」
黄飛は背筋がぞっとし、苦笑いしながら、恐ろしい笑顔の劉翔宇を見ていた。




