二十六、水晶玉によりつながる絆
建明が案内した先は後宮の記録や魏の歴史に関する書物が納められている部屋だった。
最近の物からいつの時代の物かわからないほど古い書物が整理整頓され、綺麗に並べてあった。
建明は奥の方の進み、足元を見て何かを探しはじめた。
皆は黙って建明の様子を見ていた。
建明は床を叩きはじめ、何か見つけたのか、同じところを何度か叩き、その部分の床をはがした。そこには、どこにつながっているかわからないような鎖の束があった。
建明は迷いなく一つの鎖の束をつかみ、思い切り引っ張った。すると、建明の目の前にあった、書物の棚がゆっくりと右に動きはじめた。
皆はその光景を見て驚愕していた。
「まさか、こんなものがあったとは」
皇帝は目の前に現れた謎の階段に驚きつつも、感心していた。
「この階段を下りると水晶玉のある部屋があります」
建明は火折子に火を点け、真っ暗な階段に灯りを照らしながら、下りていった。
他の者も建明の後に続いた。
建明は扉のようなものの前に立ち止まった。
「この扉を今から開きますが、ものすごく光が眩しいので、気を付けてください。では、開けますよ」
建明が扉を開くと、開いた瞬間から、目が開けられないくらいの光が目に飛び込んできていた。
「眩しい!」
あまりにも眩しすぎて、皆目が慣れるまで時間がかかっていた。
目が慣れてきても水晶玉を直視することはできなかった。
水晶玉は部屋の真ん中に石で作られた円柱の上に乗せられていた。腰の高さぐらいだったため近づけば、上から水晶玉を覗くことができた。
「見てください。今、玲莉が見ている世界です」
建明に促されて、皇帝が水晶玉を覗いて見た。
「まさか、本当にこんなことが・・・」
はっきりとは見ることはできないが、その水晶玉には思敏の姿が映っていた。
李義たちも順番に覗いた。
「もし玲莉が着替えていたら、その・・・そういう姿も見えてしまうのではありませんか。北誠王はもしかしてそんなところも見ていたのですか」
李義が建明に詰め寄っていた。
「安心してください。この水晶玉は玲莉とつながってはいますが、そういう見られては困るようなときはこの水晶玉を覗いても何も見えなくなるのですよ。この水晶玉はそういうことに関して玲莉を守ってはいるようです」
李義をはじめ、劉翔宇、勇毅、逸翰も建明の言葉を聞いて安心していた。
「ちょっと待ってください。それを知っているということは・・・見れるか試しましたね」
李義の問いかけに、苦笑いしながら、目を逸らしていた。
李義と劉翔宇は今にも斬りかかりそうだったが、勇毅が二人を止めた。
「結果的に何も見てないのだからいいではないですか。逸翰も二人を止めるのを助けてくれ」
しかし、逸翰もよこしまな気持ちで水晶玉を通して妹を見ようとしていたことが許せなかった。
「皇太子殿下、翔宇殿下、加勢します」
「逸翰!」
皇帝は呆れながら、
「皆そこまでにしろ。ここで争っても仕方がないだろう。建明、他に知っていることはないのか?」
「何も知りません。父上も聖女に関する正確な情報は知らないようでしたから。この水晶玉のこともどこから知りえたのか教えてもらえませんでしたから」
「この水晶玉に触れても問題ないのか?」
「問題はありませんが、氷のように冷たいですよ」
皇帝は試しに水晶玉に触れてみた。一瞬で凍り付くかのような冷たさを感じた。
「これは触らないほうが良いな」
建明は火折子を皇帝に近づけ、手を温めるよう促した。
「では、一旦戻るとしよう」
再び建明が先頭に立ち、書物の部屋へ戻ることとした。
(本当に冷たいのか?)
水晶玉に触れると温もりを感じた。
(温かい・・・何だ?この不思議な感覚は・・・この感覚は・・・玲莉の体に触れているようだ)
「行きますよ」
この部屋に来た一人だけ、水晶玉を通し玲莉とつながることができるとは、水晶玉に触れた本人さえ、まだ知ることはなかった。
玲莉は頭を抱えながらあることを思いついた。
「景天さん、この国での婚姻は十八からですよ。あと三年はあるのですよ」
「あっ・・・そうだったか。玲莉はまだ十五だったな」
「三年、景天さんの母上を捜してはどうですか?」
(景天さんが母上を捜している間に建明殿下と先に婚姻すれば問題ないはず。景天さんは悪い人ではないけど婚姻となれば話は別よ)
聖女伝に書かれていたことが玲莉にとっても、全ての国にとっても重要なことだたったが、今の玲莉にはそのような認識がなかった。
景天も玲莉の案にのろうとしている時だった。
「若㬢は楚の公主だったから、景天が楚に戻るのであれば、玲莉が十六になれば婚姻できるわよ」
まさかの母の発言に玲莉は余計なことは言わないでとジェスチャーをしていた。しかし、思敏には玲莉の動きの意味が理解できなかった。
「そうなんですか。やはり婚姻は早いほうがいいですね」
(終わった・・・)
玲莉が景天との婚姻が早まることを嘆いている時だった。
(何この感じ?胸に温かいものを感じる。誰かが私の心に入り込んでいる妙な感覚がする)
一瞬の出来事だったが、玲莉は不思議な感覚に陥っていた。




