二十五、運命を握る水晶玉
李義、李建明、劉翔宇、王勇毅、王逸翰の五人は皇帝の前で跪いていた。李義は皇帝に王家襲撃、玲莉の誘拐の首謀者が北誠王李誠明であること、捕らえようと北誠王府に向かったが、すでに逃亡した後だったことを伝えた。
建明は皇帝の前にひれ伏し、父李誠明に関し、知っていることを全て話した。建明自身も父が事件に関わっていると知りながら、明かさなかったことも告げた。
皇帝は感情的になることなく、冷静に聞いていた。李誠明の協力者について建明に尋ねたが、それについては全くわからなかった。
「あいつが謀反を企てていたとはな・・・。建明、なぜお前は愚かなことをしたのだ。玲莉との婚姻は私が決めた婚姻だ。何もしなければ、玲莉と問題なく婚姻できたのだぞ」
建明は顔を上げ、皇帝に意見を申すことの許しを求めた。皇帝もそれを良しとした。
「陛下、ではなぜ許嫁の私に玲莉が聖女だということを知らせてくれなかったのですか?皇太子殿下は陛下から聞いたと申しておりました。その時点で、陛下は父が首謀者であることを知っていたのではありませんか?玲莉と私の婚姻を父を理由に解消して、皇太子殿下と婚姻させるつもりだったのではありませんか?」
皇帝は建明が言った事柄が全て、的を得ていたので、言い返す言葉が見つからなかった。
「父上、建明が言ったことは本当なのですか?」
皇帝は大きなため息をつきながら、目をつむり深く頷いた。
「その通りだ。誠明が王家襲撃の首謀者であることはすでにわかっていた。たしかに玲莉は義に嫁がせようと考えていた。まさか、建明が誠明に関わっているとは。そこまでは本当に知らなかった」
「陛下、なぜ父を止めてくださらなかったのですか?」
建明は皇帝にすがりつくように訴えていた。
「建明、お前の父は北誠王で皇弟でもある。何の証拠もないのに罰することはできない。しばらく泳がせていたのだ。お前を使ってまで玲莉を狙い、この皇帝の座を奪おうと思っていたとはな」
皇帝は立ち上がり、建明の手を取り、立ち上がらせた。
「建明、お前の気持ちはわかるが、誠明のことを朕に申さなかったのは見過ごすわけにはいかない。建明、玲莉との婚姻は撤回だ。本来ならば、お前を僻地に送るのだが、誠明が接触してくる可能性が高い。そうだな・・・義、お前の従者として雇え。そして、義、今から玲莉をお前の許嫁とする」
李義は今の状況では喜んではいけないことはわかってはいたが、笑みをこぼさずにはいられなかった。
「それと玲莉のことだが今回の誘拐の件、そして、誠明が逃亡していることから、後宮に住んでもらおうと思っている。いずれにしても、三年後には婚姻して皇太子妃になるのだ。前もって後宮に慣れていたほうがよかろう。義、わかっているとは思うが、あと三年は我慢するのだぞ」
李義は玲莉が後宮に迎えられることに関しては喜んでいたが、そばにいるのに三年は手を出すことができないことへのもどかしさも感じていた。
皇帝、李義、建明の中では話がまとまりそうな雰囲気だったが、異議を申し出る者がいた。
「陛下、私との約束はどうなるのでしょうか?私は一年の間この国に留まり、玲莉を振り向かせると申しました。玲莉が後宮にいては毎日会うことも難しいでしょう。私を後宮内に住ませてくだされば話は別ですが。それに・・・」
劉翔宇は皇帝に近づきに耳元であることを囁いた。
「その件はわかっている・・・翔宇殿下の好きにしてくれ」
皇帝は明らかに劉翔宇に弱みを握られている様子だった。
「父上!後宮に住める男子は皇族の血縁と宦官のみです。後宮内の侍女たちに翔宇殿下の子を孕まれても困りますよ。しかし、こちらの外廷になら住んでも良いのではありませんか。軍部や文官、太医の者たちもおりますので」
「玲莉以外には手を出すつもりは微塵もありませんが、皇太子殿下が侍女に手を出して、私が疑われても困りますからね。こちらに住まわせてもらいましょう」
お互いに笑顔で話していたが、他の者には、見えないはずの火花が散っているのが見えていた。
勇毅と逸翰は妹の人生が左右される事態に直面していたが、皇帝や皇子たちに圧倒され、一言も話すことができなかった。
「それと、建明。水晶玉?はどこにあるのだ?」
「はい、陛下。父が持ち出していなければ、後宮内にあるはずです」
「後宮内にあるのか」
皇帝は建明が打ち明けるまで水晶玉の存在すら知らなかった。まして、この後宮内にあるとは思ってもいなかった。
「案内します」
建明は皇帝も知らなかった秘密の部屋まで案内するのであった。




