二十三、消えた親子
若㬢はそのまま王家で生活をしていた。王家を出ようと申し出てはいたものの、若㬢は元々楚の公主であったため、働き、銭を稼ぎ、生活していくことが困難だった。
王浩は密かに皇帝と話し合い、万が一楚の者が若㬢に接触して、魏へ侵攻しないよう、監視するという名目で王家に留まることを皇帝は良しとした。
ちょうどその頃、思敏は身ごもっていた。若㬢は侍女のように思敏に寄り添い、和やかな生活を送っていた。孟家にいた頃と同じように王家の侍女や従者たちも若㬢に親切に接していたため、孟子謙を亡くした悲しみは少しずつ癒えていた。
孟子謙の暗殺以降、若㬢は王家に隠され、王家と皇帝以外は若㬢が王家にいることは知らなかったため、若㬢に接触してくるものはいなかった。
また、孟家の襲撃事件、孟子謙の暗殺事件、共に手がかりがなく、誰が仕組んだことなのか未だわからずじまいだった。
若㬢が王家に来て三月が経ち、思敏もあと二月でお腹の子が生まれる頃だった。
若㬢は体の異変に気づいた。
(もしかして・・・)
若㬢の様子がおかしいことに気づいた思敏が医者を呼んで、若㬢の診察をお願いした。
「おめでとうございます。ご懐妊です。三月ほどになります」
それを聞いた思敏は素直に喜ぶことができなかった。若㬢も複雑な表情をしていた。
医者が帰った後、思敏は意を決して若㬢に尋ねた。
「若㬢・・・もしかしてお腹の子は・・・」
若㬢は思敏を見つめ、少し悲しい表情をしながら微笑んだ。
「正直わからないの・・・。子謙の子なのか・・・襲われた時の子なのか・・・」
思敏は若㬢に何と声をかければよいかわからなかった。
「思敏、心配しないで。この子は子謙との子よ。あの人が私が一人にならないよう授けてくれた子よ」
若㬢はそう言って、笑顔で自分のお腹を見つめながら、優しくさすっていた。
「若㬢、きっとそうよ・・・」
思敏は涙を堪えながら、若㬢に笑いかけていた。
思敏は無事出産し、息子勇毅が産まれた。
翌年の三月、若㬢も無事男児を出産した。
「若㬢、この子の名は?」
若㬢は天を見上げていた。
「この子の名は景天にするわ。天から降り注ぐ光のように、皆を照らす存在になってほしいの」
「景天・・・いい名前ね」
若㬢は我が子を抱きしめながら、喜びに浸っていた。
思敏はいつものように勇毅を連れて、若㬢の様子を見に部屋を訪れていた。
「若㬢、調子はどう?」
「大丈夫よ。この子も元気に育っているし。勇毅も相変わらず活発ね」
「そうなのよ。目を離すと何でも口に入れるから目が離せないのよ」
思敏も若㬢も子供を育てるのは初めてだったため、お互いに意見交換をしながら、共に子育てをしていた。
思敏は若㬢が来た時からあることが気になっていた。
(若㬢はいつも肌身離さずあの書物を持っているわね。楚の皇族に関する重要なことでも書かれているのかしら)
若㬢が王家に来た時は着の身着のままだったが、なぜか古びた書物だけは衣に隠し持ってきていた。
思敏は詮索するつもりもなかったので、今まで触れることはなかった。
しかし、頭の片隅にはずっと気になっていた。
思敏は思い切って聞いてみることにした。
「若㬢・・・その・・・いつも大事そうに持っているその書物は何?」
「これは・・・私が生きる理由かな」
「???」
思敏には若㬢の言っていることが理解できなかった。
「思敏であってもこの書物に関しては教えられないわ。私はこれを渡さないといけないの」
「誰に渡すの?」
「さぁ、知らないわ」
「知らない?どういうこと?」
若㬢は思敏をからかうように笑っていた。
思敏はもやもやしながらも、これ以上聞いても教えてくれないだろうと考え、まぁいいわと言って呆れながら笑っていた。
ある日の朝、思敏が目を覚ます頃、外から騒がしい音が聞こえてきた。
勢いよく戸が開き、思敏の侍女が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「奥様!若㬢様と景天様の姿がどこにも見当たりません」
「何ですって!」
王家の皆でくまなく屋敷中を捜したが二人は見つからなかった。
(若㬢に何があったの?幼い景天を連れて自ら出ていくわけないし・・・もしかして誘拐?)
公に捜すことができないため、王家の者だけで若㬢と景天の捜索をしたが、見つかることはなかった。




