十一、王家への帰還
玲莉を馬車の中に残し、王浩、劉翔宇、李義は玲莉について話し合っていた。
「妻も玲莉の兄や姉たちも心配していますので、一旦玲莉を家に帰してよろしいですか?殿下たちも共に王家に来てください。玲莉の今後について我が家で話し合いを設けるのはいかがでしょうか」
劉翔宇と李義は王浩に意見に同意した。
「玲莉も疲れているでしょうから、一度王家で休むのがよいでしょう。黄飛に知らせて、春静にも王家へ戻るよう伝えます。李義殿下もそれでよろしいですか?」
「はい、玲莉も家族に会いたいでしょうし」
「李義殿下も後宮に戻られてはどうですか?玲莉には私がついていますので安心してください」
「翔宇殿下がそばにいてはむしろ安心できません。玲莉のそばにいて誰かから襲われないよう守らなければいけません」
劉翔宇と李義は一歩も譲らないまま、言い合っていた。王浩は二人を見ながら、ため息をつき、呆れていた。
「殿下、報告があります」
二人の言い合いを止めるように現れたのは、白庭だった。
李義は仕方なく劉翔宇から離れ、白庭の報告を聞いた。
「玲莉お嬢様をさらった者は皆殺しました。私が男たちを見つけた時、すでに全員倒れていましたが、眠っているようでした。おそらく、玲莉お嬢様がやったのだと思われます。以前玲莉お嬢様が襲われた時の仲間の者かと思われます。殿下、殺さずに意識を取り戻した後、跡をつければ、首謀者に行きついたのではないのでしょうか?」
李義は冷たい目で白庭を見た。
「白庭、玲莉に触れた者を私が生かすと思うか?本来ならば、私が直接手を下したかった。玲莉に触れた手を斬り落としたかった」
白庭は顔が青ざめながら、李義に丁重に謝っていた。
「玲莉お嬢様!」
冬陽と寒松も合流し、玲莉は二人の手を取り、笑顔でお礼を言った。
寒松は玲莉に近づき、匂いを嗅ぎ、冬陽の袖を引っ張りながら、匂いの主は見つかり喜んでいた。
玲莉は匂いを嗅がれ、恥ずかしがりながら、王浩の後ろに隠れた。
王浩は大笑いしながら、寒松の能力について玲莉に話していた。
冬陽は子供を誉めるかのように、寒松の頭をなでていた。
(旦那様は娘が可愛くて大げさに言っていると思っていたが、実際に目の前で会うと、玲莉お嬢様の笑顔は心が温かくなり、そばにいたいという気持ちになってしまうな)
冬陽は自分の立場をわきまえており、初めて抱いた感情に蓋をしたのであった。
「焦っているようだな」
羅洋は皇帝に北誠王李誠明が玲莉を誘拐した理由について話していた。
玲莉の許嫁は建明であることには変わらないが、皇太子李義、それに加え、楚の皇太子劉翔宇まで玲莉との婚姻を望んでいる。皇太子と皇弟の息子とでは圧倒的に皇太子が立場が上である。
皇帝の一言で建明と玲莉の婚姻が解消されることもあり得ない話ではない。
「しかし、陛下。北誠王が首謀者であることには間違いないのですが、確実な証拠をつかむことができていません。慎重に動いているようです。北誠王に加担している者の存在も判明したのですが、正体がつかめません。陛下、一筋縄ではいかないような気がします」
「そうか、引き続き調査しろ」
「御意」
羅洋は皇帝に一礼をして、部屋から出ていった。
皇帝は聖女に関する伝承で最後の一文が引っかかっていた。
(『その者は計り知れない力を秘めており 全てを語りつくすことができない』か・・・。玲莉は我々が想像している以上にとんでもない力を持っているのかもしれない。玲莉の存在が他国に知られると必ず戦争になる。犠牲を払ってでも玲莉を奪いに来るであろう。それに羅洋の報告では劉翔宇に玲莉が聖女であることが知られてしまっている。一番知られてはならない楚の皇太子に。早く玲莉を後宮に引き入れたいが、まだ婚姻できる年齢でもない。どうしたものか・・・そうだ!)
皇帝はあることを思いついた。
「殿下、玲莉お嬢様は無事でした。今は王家に帰っているようです。翔宇殿下、皇太子殿下も一緒です」
「よかった・・・無事だったか・・・。黒風、私たちも王家に向かうぞ」
建明は玲莉が無事だったことに安堵し、黒風と共に王家へ馬を走らせた。




