二十三、忘れられた忘れられない記憶
玲莉は馬車に揺られながら、寝ているところを起こされたため、うとうとしていた。
「玲莉、玲莉」
自分の名を呼ばれる声で、目が覚めたが、寝ぼけていたため、なぜ馬車の中にいるのか覚えていなかった。
「着いたよ、玲莉」
目の前で微笑んでいたのは、劉翔宇だった。
(そうだった。翔宇殿下に寝ているところを連れて行かれたのだった。でも、何でこんな夜中に?)
劉翔宇は玲莉の手を取り、馬車から降りた。
外に出ると、もう夏になろうとしているのに肌寒く感じた。
目の前には月明かりに照らされた、湖があった。
「玲莉、上を見てごらん」
空を見上げると、宝石を散りばめたように星が輝いていた。
玲莉は声にならないほど感動をしていた。
「本当に綺麗だね。翔宇」
(今、何で翔宇と言ったんだろう。前に一度同じようなことがあったような・・・)
玲莉が呼び捨てにしたことを謝ろうと、劉翔宇を見ると、目を見開き、驚いたままの表情で固まっていた。
「玲莉・・・今・・・」
「申し訳ありません。皇太子殿下。なぜか、翔宇と呼んでしましました。皇太子殿下、前に私はここに来たことがあるのでしょうか?」
「なぜ、そう思う」
「よくわからないのですが、懐かしい気持ちになったのです。前にも今日みたいに綺麗な星空を見たことあるような、そんな気がしたのです」
(秀英、君は忘れていなかったんだね。仕事に失敗して落ち込んだ君を無理やり連れ出して、一緒に星を見に行ったことがあるだよ。その時と表情も言葉も一緒じゃないか)
劉翔宇はうれしそうに笑い、玲莉の手を取り、大きな石の上に座った。
劉翔宇は一つ一つ丁寧に星の説明を玲莉にした。
子供のように話す劉翔宇の姿に心に温かいものを感じていた。
(この皇太子殿下は周りが言うほど腹黒皇子ではないのかも。今の皇太子殿下が本来の姿なのかな)
玲莉は劉翔宇の話を微笑みながら、聞いていた。
「玲莉、俺は君をずっと探していた。もう一度会って思いを伝えたかった」
(でも、今の秀英は高翔宇のことは忘れているのだよな)
劉翔宇はうれしいような寂しいような複雑な表情をしていた。
(俺・・・?もう一度・・・?)
劉翔宇は玲莉を力強く抱きしめた。
「本当に・・・会えてよかった・・・秀英」
(私・・・この人の声・・・聞いたことがある。この人に秀英と呼ばれると懐かしさと寂しさを感じる・・・そうだ、この人になぜ私の前の世界の名前を知っているのか聞かないと)
「皇太子殿下、あの・・・」
玲莉がそう言いかけた時だった。劉翔宇の目つきが変わり、後ろを振り返り、剣を一振りした。
劉翔宇の向かって剣を向けていた男がその場で倒れた。
二人の周りには数十人の男たちが集まっていた。
「いいか、娘には傷一つつけるな」
リーダーらしき男が皆にそう言った。
(狙いは俺か。玲莉を傷つけるなということは、玲莉をさらおうとしているのか、玲莉を大事に思っている誰かか・・・)
「玲莉、私の後ろから離れるな」
玲莉は恐怖で涙目になりながら、頷いた。
劉翔宇は玲莉を庇いながらも次々と男たちを斬り倒していた。
(劉翔宇が強くて助かった。剣を持ったこともない俺がここまで戦えるのは劉翔宇のおかげだ。さすが、剣王ともいわれている劉翔宇だな)
楚の皇太子劉翔宇は幼い頃より剣技に優れており、向かうところ敵なしだった。高翔宇が劉翔宇となった今でもその腕は磨かれていた。
(すごい・・・皇太子殿下、強い・・・)
玲莉は劉翔宇の後ろで隠れ怖がりながらも、劉翔宇の剣さばきに見惚れていた。
玲莉は油断していたせいか、急に口を手で塞がれ、男に捕まった。
「劉翔宇、悪いが王玲莉は連れて行く」
(この男たちは俺を殺そうとしているやつらと違う。なるほど・・・王家襲撃してきた者はこの二つの組織か)
劉翔宇は玲莉が連れて行かれる様子に思わず玲莉に向かって走り出した。
その瞬間、劉翔宇は体に激痛を感じた。
玲莉は目に涙を浮かべながら固まっていた。
劉翔宇は後ろから剣で一突きされていた。
剣を抜かれると血飛沫が舞っていた。
「秀・・・英・・・」
玲莉は男に無理やり連れて行かれながら、その光景を見ていた。
(だめ・・・だめ・・・死んだらだめ・・・)
なぜか劉翔宇と二度と会えなくなることが玲莉には耐えられなかった。
男が劉翔宇に最後の一撃を与えようとしている時だった。
「翔宇ー!」
一瞬にして、玲莉から光が放たれ、劉翔宇と戦っていた者、玲莉を連れ去っていた者が倒れていった。
劉翔宇には何が起こったのか全く分からなかった。
よく見ると、男たちはぐっすり眠っていた。
(死んでいないのか・・・。今の光は何だったのだ。まさか、秀英が・・・)
劉翔宇は出血が多く、今にも意識を失いそうだった。
目の前に白髪で赤い瞳の少女が現れた。よく見ると、玲莉だった。
「皇太子殿下、安心してください。私が治しますから」
そういうと玲莉は劉翔宇が刺された背中に手をかざした。
すると、みるみるうちに痛みがなくなり、傷が塞いでいく感覚を感じた。
(王家襲撃で隠したかった秘密はこのことだったのか。たしかにこれは知られてはいけないな)
殿下と呼びながら黄飛が現れた。
黄飛は劉翔宇が倒れているように見えたので、慌てて駆け寄った。
「殿下、大丈夫ですか!」
「大丈夫だ。問題はない」
黄飛はふと劉翔宇の寄り添っている少女を見た。
白髪で赤い瞳の美しい少女で、思わずじっと見つめていたが、ある人物であることに気づいた。
「もしかして、玲莉お嬢様?」
玲莉は笑いながら頷いた。
劉翔宇は黄飛に肩をかりながら立ち上がった。玲莉も劉翔宇の手を取り、支えていた。
「黄飛、あの場所に行くぞ。まだ、敵の仲間がいるかもしれない。玲莉も」
劉翔宇と玲莉は馬車に乗り込み、劉翔宇の隠れ家へ向かった。




