十、偽りの姿で
「皆、頼むぞ」
皇帝となった王浩の前には、勇毅、逸翰、逸翰に変装している蘭玲、吉祥、そして孟景天が別人に変装し跪いていた。
「曽の国には嘘の情報を流しています。それに、楚にも曽にもこの国の民にも皇帝が変わったことを知らせていません。曽の国には知らせないのがよいでしょう。楚は皇帝との交渉次第で陛下のことを明かすことにします」
「任せる」
「私たちがいない間は、周尚書と周昌盛が陛下の手助けをいたします。周尚書はともかく、周昌盛は陛下の力になるかわかりませんが・・・」
孟景天は周昌盛に任せたこと後悔していた。
「心配するな。昌盛はいつもふざけているがやるときはやる男だ。必要事項は勇毅と逸翰がしてくれていたから問題はない。それに頼りになる、史宦官もいるしな」
史宦官はうれしそうに謙遜していた。
「では、陛下、参ります」
勇毅、逸翰は曽へ、蘭玲、吉祥、孟景天は楚へと向かって行った。
(玲莉のこと、任せるぞ)
王浩は親心で心配しながらも、立派に成長した息子たちを誇りに思うのであった。
「陛下、魏の者が陛下に謁見したいと申しております」
「通せ」
皇帝劉正は特に動揺することもなく、どっしりと構えていた。
逸翰(蘭玲)、吉祥、孟景天は皇帝の前に跪き、挨拶をした。孟景天は唐七と名乗り、吉祥の従者として楚へ来ていた。
「最初に聞くがなぜあのように小細工をした文を送った」
「はい、陛下」
その問いに答えたのは唐七だった。
「それは楚の皇帝が我が国の皇帝と同盟を組むのにふさわしい方なのか見極めるためです」
「無礼者!」
隣で聞いていた胡宦官は怒っていたが、皇帝は冷静になだめていた。
「よいよい」
唐七は自分の発言にも動じない皇帝劉正の様子を見てある決断をした。
「陛下、一つお伝えしたいことがあります」
胡宦官はいかにも嫌な表情をしていたが、皇帝は唐七に話しに耳を傾けた。
「魏の皇帝は李叡ではなく、魏の元丞相、王浩が皇帝となりました」
皇帝は声を上げ、笑っていた。
「それはよい。それで、李叡は殺したのか?」
「いえ、実はここに連れてきました」
「!?」
この言葉には皇帝も驚いていた。
「なぜ、連れてきた?」
「それは・・・」
「私のためかしら?」
その場に現れたのは劉若㬢だった。
「若㬢」
「・・・」
唐七は劉若㬢を見つめたまま止まっていた。
「唐七?」
「あ・・・はい。その通りです」
蘭玲は劉若㬢を見て動揺している唐七を肘でつついていた。
「李叡が若㬢様にどれほどひどいことをおこなったのか、皇后様より聞いております」
「皇后?もしかして思敏のこと?思敏が皇后?」
「若㬢」
「申し訳ございません。陛下」
皇帝は咳払いしながら話を続けた。
「それで、お前たちは何を考えているのだ」
「はい、実は曽にはすでに二人の者を送っております。曽の皇帝には魏の軍が曽の軍と同盟を組み、聖女略奪に力を貸すと伝えております。もちろん、魏が曽と同盟を組むつもりは毛頭ありません」
「そうか・・・それにしても・・・お前は本当にただの従者なのか」
皇帝劉正は唐七がただ物ではないことに気づいていた。皇帝劉正の目には従者であるはずの唐七がまるで二人を従えているかのように見えていた。
「私はただの従者でございます」
(この口調と言葉遣い・・・もしかして)
劉若㬢は唐七が自分の息子孟景天ではないか疑っていた。
「まぁ、お前たちが我が国に害をもたらそうとしているわけではないことはわかった。それで、朕は何をすればよいのだ?」
「陛下は何もする必要はございません。ただ・・・一つだけ。聖女様のお力を借りる必要があります」
「ん・・・」
皇帝劉正は玲莉を協力させるべきか悩んでいた。それを口実に玲莉を魏へ取り戻そうとしているのではないかと考えていた。
「陛下。聖女様には楚の民と陛下を守っていただきたいのです」
「民と朕を守る?」
劉正は唐七が話す作戦に興味を持った。
「わかった、よかろう。ただし、玲莉の意見も聞く必要がある。胡宦官、玲莉を連れて来てくれ」
「御意」
皇帝の言葉に唐七と蘭玲に緊張が走っていた。
玲莉は蘭玲が生きていることをまだ知らない。蘭玲は逸翰として来ているため玲莉を偽る必要があった。
(玲莉・・・ごめんね。時が来たら必ず正体を明かすから)
唐七は自分を抑えるので必死だった。数か月も会っていない愛する玲莉が目の前に現れたら、自分の欲求を抑える自信がなかった。すぐにでも抱きしめ、玲莉の温もり、香りを感じたいと思っていた。
(そう言えば久しぶりに会うな。きっと綺麗に成長しているだろうな)
吉祥だけが緊張感もなく、玲莉と会うことを楽しみにしていた。
「王逸翰は玲莉の兄だったな。兄はいつまで経っても妹が可愛いものだろ。格上、朕も若㬢のことをまだまだ子供のように扱ってしまう時がある。子供のいる立派な大人だというのに・・・この話が終わったら玲莉とゆっくり話すといい」
「よいのですか?もし私たちが裏切ってこのまま玲莉を連れて帰ったら・・・」
「朕はこう見えて見る目がある。お前たちの目は裏切る者の目ではない。それに魏の者のお前たちがこの国の民のことも心配している。朕はお前たちの作戦にのる。お前たちを信じることにした」
「ありがとうございます、陛下」
三人は深く、頭を下げ、感謝を表した。楚の皇帝が民から慕われている理由が理解できた。
「急に呼び出してすまないな。玲莉」
玲莉は逸翰の姿を見た途端、飛びかかるように抱きしめた。
「逸翰兄上・・・会いたかった・・・」
蘭玲は複雑な表情をしながら、逸翰として玲莉に接した。
「玲莉、私も会いたかった」
蘭玲は涙を抑えることができなかった。
「兄上、泣かないでください。私は元気ですから」
久しぶりに見る最愛の妹の笑顔に、蘭玲は涙を拭きながら、もう一度抱きしめた。
(逸翰兄上だよね。でもこの感じは・・・)
玲莉は逸翰を抱きしめながら、なぜか姉の蘭玲の面影を感じていた。
(玲莉・・・)
唐七はすぐにでも触れられる距離にいる玲莉に触れたい気持ちを抑えながら、今の自分は孟景天ではなく唐七と言い聞かせていた。




