八、皇帝李叡の失脚
「陛下、安眠茶です」
「義か。お前が作った茶はぐっすり眠ることができる。薬草売りをしていただけはあるな」
「お褒めいただき光栄です、陛下」
李義は薬草の知識を生かし、最近寝不足の皇帝李叡に安眠茶を献上していた。
ある日の夜、王浩と共に後宮を囲っていたのは、皇帝が従えているはずの暗軍だった。
他の高官たちも藩弘と鐘峰峻に従う者以外は全員揃っていた。
李義が足音を立てずに、静かに王浩に近づいてきた。
「王丞相、準備が整いました。いつでも大丈夫です」
「では、王丞相、行きましょう」
王浩の手が珍しく震えていた。
「王丞相、大丈夫ですから」
王吉祥は王浩の励ますように肩を軽く叩いた。
「私、王浩はこの場で誓います。皇族としての身分を取り戻し、再び皇帝の座につくことを。そして、我が国、魏の民が平和で安心して暮らせる国を作ることを。どうか、この私に力を貸してください」
王浩の言葉に皆歓声をあげていた。多くの者たちは一刻も早く皇帝李叡を追放してほしかった。しかし今まで、皇族の血を持つ李叡に対し、誰も歯向かうことができなかった。実直で、驕ることもなく、息子や娘を立派に育てている王浩が、本来皇族の血筋だったことを王浩の口から事実を聞かされた時、疑う者は誰もいなかった。皆口をそろえて言ったのが、王浩こそ皇帝の座につくべきだと。
王吉祥は譚子安に合図を送った。
王吉祥の合図を受け取った譚子安は、羅洋に合図を送った。
(子安からの合図だ)
羅洋は立ち上がり、月芬に一言声をかけた。
「少し騒がしくなりますので、前もって謝りますね」
「はぁ・・・どうぞ。ただし、建物は壊さないでくださいね」
「それは大丈夫です」
月芬は羅洋が藩弘と鐘峰峻を倒す様子を見ながら、感心していた。
(本当に強い人だったのね)
羅洋が破壊したのは藩弘と鐘峰峻が妓女と戯れていた寝台だけだった。
羅洋は気を失っている藩弘と鐘峰峻を縛り、譚子安が来るのを待っていた。
「これは寝台を新調するのに使ってください。足りなかったら言ってください」
多すぎる銀子に月芬は少し驚いていた。
「そうですね・・・少し足りないですね・・・その分は」
月芬はいたずらっぽく笑いながら、羅洋の耳元で囁いた。
羅洋は耳を赤く染めながら、月芬の言葉に同意した。
王浩に付き従う者たちは皇帝の寝殿を囲み、何人たりとも入らせなかった。
皇帝の寝殿には王浩、李義、王吉祥が乗り込んだ。側に仕えていた史宦官も三人を見ると、静かにその場から立ち去った。
「しかし、よくあの史宦官をも味方につけましたね。史宦官は皇帝に忠誠を誓っていましたよね?」
「例の事件以来、史宦官は陛下に不満を抱えていました。史宦官は若様の父孟将軍と古くからの知り合いで、史宦官が困っていた時に助けたのが、孟将軍でした。史宦官は陛下に忠実なよう見えて、実はそうでもなかったのですよ」
「そうだったのですか・・・」
王吉祥はうれしそうに微笑んでいた。
皇帝は周りに誰かいることに気づき、目を覚ました。
「王丞相・・・?義に・・・王吉祥?なぜ朕の寝殿にいる」
「陛下、これを見ればここに来た理由がわかるでしょうか?」
王吉祥は王家の家譜と李家の家譜を広げて目の前に掲げた。
「・・・何のことだかわからないな・・・」
「そうですか・・・では、説明して差し上げます。李家が皇族として名を連ねはじめる前、同じ年、王家の家譜は皆の名が塗りつぶされています。これは、どういうことでしょう?まるで、王家の過去を消し去るように・・・」
「・・・」
皇帝は三人と目を合わせることもなく、黙っていた。
「話を続けます。実は、王家の家譜の方は偽物です。本物はこちらにあります」
李義が掲げた王家の家譜には、消されたはずの名も全て復元されていた」
「馬鹿な・・・」
「私の母は先見の目があったのでしょうか?李義が薬草売り唐景天として育ったおかげで、この家譜も再現することができました。ここにははっきり書かれていますね。皇帝王晟の名が」
皇帝李叡は目も当てられないほど動揺していた。
「あなたはご存じでしたね?王丞相が本当は正当な皇族の血を受け継ぐものだということを」
「さっきから聞いて入れば、お前な何者だ!ただの王家の遠縁が、偉そうに。なるほど、そうか。王浩が皇帝になれば、お前も皇族の一族だ。それを狙っているのだろう」
王吉祥は声を出さずに笑っていた。
「何がおかしい」
「陛下、まだ気づかないのですか?」
「何がだ・・・」
王吉祥はゆっくりと皇帝に近づき、つぶやいた。
「お久しぶりです、皇帝陛下。いえ、昔みたいに父上と呼ぶべきでしょうか?」
皇帝は王吉祥の声色に聞き覚えがあった。
「はっ・・・お前は・・・孟景天?」
「正解です」
王吉祥がはぎ取った変装面の下には冷酷で今にも人を斬り殺しそうな目をした孟景天がいた。




